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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百三十話 盤面を覆す大技 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 遥か高みに存在する頂きへと向かって登頂して行く熟練の登山家は目標を見据えると確実性を重視して一歩一歩確実にその距離を縮める。


 その一歩には煌びやかな成功を我が手中に収めたいという逸る気持ちを必死に抑える強烈な自己抑制の感情が籠められており、それは辛い苦行に臨む修行僧も模倣したくなる程であろう。


 小さな体から繰り出される攻撃はコイツにとって小さな痛みだろうがその一撃が確実に殲滅へ繋がるものだと信じて俺達は辛い顔を浮かべながらも目標に辿り着くべく攻撃の手を止めないでいた。



「ぜぇっ……。ぜぇぇええ!! このデカブツがぁ!! 少しは堪えろよなぁ!!」


 目の前でパックパクと左右に開閉して鼻腔が嫌がる生臭い匂いを放つ気孔へ向かって短剣の切っ先を捻じ込むと。


「ギィグゥッ!?」



 奴の口から一応の反応を勝ち取る事に成功する。


 しかし、それでも巨大砂虫は絶命する事無く俺達に対して明確な殺意を向けて反撃に転じていた。



 こ、この無駄にデケェ芋虫擬きめがっ!! いい加減にくたばる素振を見せやがれ!!


 妙に生温かい感触を持つ肉の海から腕を引き抜き、巨体の側面に無数に存在する気孔へ視線を送ると疲労を籠めた吐息を吐いた。



「はぁぁ――……。畜生、一体どれだけの数の気孔を潰せばいいんだ」



 たった一つ程度を潰せば勝機に繋がるとは思わないが俺達は見る限りで巨大な体に点在する約半数の気孔を潰す事に成功した。


 呼吸を阻害された生物は呼吸困難に陥り苦悶の表情を浮かべて新鮮な空気を求めるってのにこの野郎と来たら……。



「グォッ!!!!」


「どわぁぁああ!!!!」


 体に纏わり付く俺達を圧し潰そうとしてデカイ体を回転させ。


「ギィィイイイイッ!!!!」


 圧し潰せない事に憤りを感じると尾の雷撃が上方から襲い掛かって来やがる!!


「ひゃぁっ!? あ、あぶっねぇ!!」



 回避するのが少しでも遅かったら再び地面に埋まる所だったぜ……。


 尾の一撃が舞い上げた大量の砂が空からパラパラと頭に降り注ぎ、空気に混ざった砂の量と視界を覆う砂のカーテンの厚さから奴の攻撃力が桁外れであると再確認出来てしまった。



「ダン!! 攻撃の手を止めるな!!」


 俺のずぅぅっと左手側でワンパクしているハンナが鋭い瞳を浮かべて此方に向かって叫ぶ。


「わ――ってるよ!! 攻撃を避けたから仕方がねぇだろうが!!!!」


 相棒とほぼ同時に気孔へ向かって攻撃を加えると。



「ギシィィッ!?!?」



 二点同時に激痛が堪えたのか、強烈な痛みに堪える苦悶の絶叫が遠い位置から轟いた。


 おっ!? 効いたか!?



「おらおらぁぁああ!! 内部から切り刻んでやるよぉ!!」



 生温かい肉の中に右腕の肘辺りまでめり込ませ、右手に掴む黒蠍の甲殻で制作された短剣を上下左右に動かして肉の内部を切り刻んでやる。


 この攻撃が相当堪えたのか、それとも痛みから逃れる為か。


 それは定かでは無いが巨大砂虫が震える体を必死に御しながら上半身を高い位置まで持ち上げて行く。



「グ、グ、ググゥゥ……」


「この野郎!!!! 何をする気か知らねぇが俺様達が指を咥えて見ていると思うなよ!?」



 フウタが小太刀の切っ先を気孔の奥深くに突き刺すが……。


 それでも奴は己の行動を止める事は無く、頭部と思しき巨体の先端が地上十メートルを優に超す位置までに上がって行くと頭部の先端が勢い良く開口した。



「コォォオオオオ――……ッ!!」



 体中から零れる白濁の液体が黒鉄を白に染め、体のそこかしこに刻まれた斬撃の跡が激戦を物語る。


 この戦いが始まってからかなりの体力を消耗して痛手を負ってしまった生物が取る行動とは一体……。


 奴から咄嗟に距離を取り、開口部へ向かって鋭い視線を向け続けていると奴は人間が深呼吸をする前の時の様に息を長々と吐く所作を見せた。



 んっ?? これから始まる一大決戦の前に深呼吸をして態勢を整えようとしているのだろうか??


 奴の装甲はかなり強固な分類に当て嵌まるが弱点が知れ渡っている以上、この隙だらけな姿勢を取る理由は無い。


 何故なら相手に攻撃の時間を与える事は死を意味するのだから。


 つまりぃ……。コイツは己の死の危険性と引き換えに俺達の方へ傾きかけた戦場をひっくり返す一撃を放とうとしているのか!?



 追い詰められた野生を嘗めてはいけない。


 狩人の教訓が脳裏に過った刹那。



「そいつから離れろぉぉおおおお――――ッ!!!!」



 短剣を腰に収めて無我夢中で巨大砂虫から離れて行った。



「はぁ!? 今こそが好機じゃ……。おっ!? な、何だ!? この空気の流れは!?」



 広い戦場の地面の上に存在する無数の砂粒が空気の流れに乗って奴の開口部へと舞い上がって行く。


 いや、舞い上がって行くというのは些か語弊があるな。


 アレは舞い上がって行くというよりも、『吸い込まれて行く』 が正しい表現だ。



「コォォォォオオオオ……」



 奴の吸引力は秒を追う毎に苛烈になって行き、今では丹田に力を入れて立たないと風に吸い寄せられてしまう程にまで高まっている。


 目に見えぬ風の力に背をグイグイと引っ張られながらも奴の巨体から距離を取る為に懸命に駆け続けていると鼓膜をつんざく化け物の雄叫びが戦場に放たれた。



「ギィヤアアアアアア――――ッ!!!!」


 桁外れな轟音が鳴り響くと同時に俺の体がふわぁっと浮かび上がり奴の超巨大な口へと吸い込まれて行くではありませんか!!


「きゃぁぁああああ――――ッ!?」



 自分でも少々女々しいなぁと思える声色で叫び声を放つと馬鹿げた吸引力に対抗すべく身近にあった大変太い石柱にしがみ付いた。



「くっ……。あの野郎、周囲の砂と瓦礫諸共俺達を吸い込んでやろうって算段か!?」



 地面と平行になって浮かんだまま後方に視線を送ると、あのクソ野郎は広い戦場のあちこちに存在する瓦礫や砂を巨大な口に次々と吸い込んでいる様を捉えた。


 体に纏わり付く鬱陶しい俺達を一掃したい気持ちは分かるけども!! やり方ってもんがあるだろうが!!


 何でもかんでも力技で解決しようと思ったら大間違いだぞ!?



「……ッ!!」


 魔笛を演奏していたグルーガーさんはこの吸引力に対抗するべく俺と同じ様に身近な石柱を掴み。


「ちょっとぉぉおお――!! 何よこの馬鹿げた攻撃は――!!」


 瓦礫の中からチュルの声が聞こえるって事はあそこにもティスロが居る筈。


「ちぃっ!! 厄介な攻撃だな!!」


「ハンナ!! その腕を放すなよ!?」


 相棒とリモンさんも俺とほぼ同じ格好で宙に浮かんでいた。



 シテナとシュレンの姿は見えないが恐らく積み重なった瓦礫の中に避難したのだろう。


 誰一人として吸い込まれていない事にホっと安堵の息を漏らそうとしたのだが……。



「ギィィアアアア――!! 誰か助けてぇぇええ!! 吸い込まれちゃうぅぅうう――――ッ!!」



 幾つもの物質があの巨大な口に吸い込まれて行く中、必死に地面の砂を掴んで藻掻いているフウタの姿を捉えてしまった。


 俺よりも離れた位置に避難していたのだがどうやら奴が隠れていた瓦礫は奴の御口ちゃんの中に吸い込まれてしまった様だな。


 そして、身を隠す若しくはしがみ付く物が無くなった彼は抵抗虚しく吸い込まれて行くのだろう。



「フウタァァアア――――ッ!! 掴まれ――――ッ!!!!」


 俺の頭の方角からズルズルと巨大な口に引きずり込まれて行く彼に向かって足を投げ出してやると。


「ダン――ッ!! 本気マジで助かったぜ――ッ!!!!」



 彼は目に大粒の涙を浮かべながら俺の右足を手に取り、そして俺と同じく砂地と平行になって浮かび上がった。



「聞いてくれよ!! しがみ付いていた石柱が急にぶっ壊れちまってさ――!!」


「んな事は分かっているよ!! 今は吸い込まれない様にしっかりと俺の右足を掴んでおけよ!?」



 彼の手が俺の足から離れたらあの馬鹿デケェ口まで一直線に吸い込まれてしまう。


 巨大芋虫野郎の口腔内に生え揃った蛇腹状の牙によって彼の体は美味しく切り刻まれ、ドッロドロの消化液が詰まった胃袋に送り込まれて一貫の終わりって奴さ。



「わ――ってるよ!!」



 フウタが俺の足首から太腿付近までよじ登って来ると徐々に呆れた吸引力が弱まり、耳をつんざく風の轟音が止むと物理の法則が働き俺の体は重力に引かれ柔らかい砂地に着地する事が出来た。



「いてっ!! ったく……。無茶苦茶しやがるぜ」



 砂地から立ち上がり体中に付着した砂を払い何気なく周囲を見渡すとそこには随分と綺麗になった戦場の姿を捉えた。


 軽い瓦礫や薄く積もった瓦礫は広い戦場から姿を消し、砂地に残っているのは地中から飛び出た太い石柱や大量に積み重なった瓦礫。


 そしてふざけた吸引力から難を逃れた生存者のみだ。



「相棒!! そっちはどうだい!?」


 随分と離れた位置で体中に纏わり付いた砂を払っている彼に向かって叫ぶ。


「問題無い!!!!」



 うん、俺は怪我の状態とかを心配した訳であって。何もそこまで睨まなくてもいいじゃんね??


 あの子には後で処世術の指導を施さなければなりませんっ。



「シューちゃんも大丈夫か――!!」


「――――。問題無い」



 大量に積み重なった瓦礫の合間から小鼠が現れると、人の姿に変わり再び魔力を高め始め。



「こっちも大丈夫だよ!!」


「私もな、何んとか無事です……」


 女性両名の安否を確認出来。


「ふぅ――……。巨体に物を言わせた攻撃、か。中々に愉快であったぞ」



 グルーガーさんは己の体の上に積み重なった瓦礫を押し退けて立ち上がると再び魔笛の演奏を始める所作を取った。


 よぉしっ!! 全員無事だったな!!



 さぁって……。これからは俺達の番だ。


 乾坤一擲となる攻撃が不発に終わったのだ、奴はさぞ悔しい顔を浮かべている事だろうさ。


 顔が無い蚯蚓擬きにそんな表情を浮かべる事は出来ませんけどねっ。



「野郎……。俺様を食らおうとしやがって。ただで済むと思うんじゃねぇぞ」


「その意見には同感だぜ。クッタクタに草臥れ果てた巨体に鋭い一撃をぶち込んでぇ……」



 しょんぼりと萎えている姿を想像して巨大芋虫に視線を送ったのだが、奴はどういう訳か俺達が攻撃を加えていないのにも関わらず苦しんでいた。



「グップ……。ゴ、ゴップゥ……」



 それもその筈。


 この戦場に散らばる大量の瓦礫と砂を取り込んだのだ。無事で居られる訳ねぇよな。


 巨大な胴体ははち切れんばかりに膨れ上がり、誰かが針をちょんっと突くだけで張り裂けそうな張り具合だ。



お疲れ様でした。


取り敢えず書けた部分を投稿させて頂きました。


これから出掛けて、帰宅後に再び執筆作業に取り掛かりますので次の投稿は恐らく深夜になるかと思われます。


それでは皆様、引き続き連休をお楽しみ下さいませ。

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