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今日も今日とて、隣のコイツが腹を空かせて。皆を困らせています!!   作者: 土竜交趾
過去編 ~素敵な世界に一時の終止符を~
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第百二十九話 反撃の狼煙 その一

お疲れ様です。


本日の前半部分の投稿になります。




 降り止まぬ雨は無い。


 これは誰しもが認める自然の摂理であり、いつかあの空は盛大に晴れ渡り青き空に浮かぶ太陽が祝福の笑みを浮かべてくれるだろうと考え、地上で暮らす者達は大雨を降らす忌々しい雲を鋭い瞳で見上げるが……。


 長期間に亘る雨が止み潤った大地から瑞々しい緑が生えると人々は自然に生かされているのだと自覚する。


 これからは雨を憎む気持ちを改めて崇拝、若しくは感謝の念を籠めて雨雲を迎える事だろう。


 風が種子を運び、種子が大地に根付き、森がそして作物が育ち人の命を紡ぐ。


 この大自然の営みは太古の時代から現代まで続いている循環であり、人はこの循環から逃れては生きていけない。勿論、俺も大自然の有難みや大切さは身に染みて理解しているさ。



 けれども……。


 大自然の中では決して起こり得ない雨は御勘弁願えませんかね??


 シトシトと降る長い雨では無く、空に浮かぶ雲さんがかなり本腰になって行動しないと降らない強い雨量が砂の大地に降り注いでいる。


 これが普通の水ならば汚れた衣服を洗い、ついでに体に付着した汚れを流れ落とすのですが。


 人の皮膚や衣服を溶かしてしまうというクソふざけた効果を持つ雨なのでそれは決して叶わず、俺達は狭い空間の中で驚異的な威力を伴う雨が一刻も早く止む様に願い続けていた。



「はぁ――……。直ぐに止むと思ったけど意外と長く降るよな」



 瓦礫の先に映る砂地に沢山の跡を残す緑色の液体を捉えつつぼやいてやる。


 長い時間降り注いでいるのでそろそろ勢いが衰えてもいいかと思うんだけど、俺の希望は叶わず決して生かしては帰さないという巨大砂虫の意思が雨を通してヒシヒシと伝わって来た。



「同感――。まぁいいんじゃね?? この雨が止むまで休める訳だし」


 俺のぼやきを捉えた小鼠ちゃんがこれぞ欠伸の手本だと言わんばかりに口を大きく開いて長々と吐息を放つ。


「そうだけどよ。この時間が闘志を、気力を萎えさせちゃうんじゃないなかぁって思っている訳よ」



 ほら、あるでしょ??


 久々にやる気に満ちた状態で仕事場に行ったら。


『あれ?? 今日は休みだぞ??』 と。


 この漲る闘志を何処にぶつければ良いんだ!! って憤る場面が。


 鉄は熱いうちに打て、じゃあないけども。戦場の熱気を冷ましたくないのが本音さ。



「小休憩した方が良いだろう。此処に来るまでかなりの体力を消耗しちまったんだし」


「まっ、気紛れな女神様が与えてくれた有意義な時間を有効活用するべきであるのは……」



 んっ?? 何だ、これ……。


 俺の右肩に留まる小鼠と会話を継続させていると俺の足元の砂が本当に静かにモコモコと盛り上がり始めてしまう。


 その大きさからして中型の砂虫では無い事は理解出来るのだが……。



『おい、此処にも小型の砂虫が居るのかよ』


 俺の視線に気付き集中力を高めて身構えている小鼠の横顔に問う。


『知らねぇよ。只、小型の奴だった場合は……』



 後は言わなくても分かるな??


 フウタの右前足に火の力が宿り戦闘態勢を整えたので俺も腰から静かに短剣を引き抜き、その時に備えた。


 徐々に砂の盛り上がる量が増え、円蓋状の砂の盛り上がりがピタリと止むとその中央から大変小さな白い髭付きの鼻頭が出現。



「――――。ふぅっ、此処にいたのか」


「はぁぁ――……。何だ、シュレンかよ。驚かすなって」



 砂の中から出現したもう一匹の小鼠を捉えると安堵の息を漏らして戦闘態勢を解除した。



「砂の中を移動して来たのかい??」



 小さな体を左右にプルプルと動かして体中に付着した砂を跳ね飛ばしている鼠に問う。


 もう少し大人しく体を振りません??


 此処は狭いんだからお前さんが跳ね飛ばした砂が顔面のあちこちに当たってむず痒いんだよ。



「その通りだ。あの雨の直撃を受けたら直ぐに結界が剥がれてしまってな。某は地中に潜り、お主達の魔力を頼りに砂の中を移動して来たのだ」



 体が小さいと便利だよなぁ。


 人間の体だとその荒業をするのには大量の時間を有してしまうし。



「それよりもこれからの行動をどうすべきか決めるべきだぞ」


 シュレンがだらしなく座る俺の目の前でちょこんと座り込み真面目一辺倒な声色を放つ。


「どうするってよぉ。雨が止んだらまた戦うしか俺様達が生き残る道は残されてねぇじゃん」


「某が言いたいのは奴を倒す有効な作戦を立案すべきという事だ。あの巨大砂虫の装甲は並では無く、弱点は既に周知だが……」


「また下手に刺激するとこの死の雨が襲って来る。そういう事だろ??」



 俺がそう話すとシュレンが静かに頷き、そして続け様に口を開いた。



「ティスロの結界によって某達は命を救われた。しかし、彼女の疲弊した様子からして次は無い。つまり奴が死の雨を降らす前に倒す算段を考えるべきだぞ」


「そんな事は分かっているよ。あの芋虫野郎は外部からの攻撃にはべらぼうに強いが、内部にはからっきしな御様子だし。そこから攻めて行こうってさっき決めただろ??」



 筋肉を鍛えて外的刺激に耐えうる体を構築しても病や口内の火傷には何の役にも立たない。


 勿論?? 俺は決して病には倒れん!! という意思や気概が体を強くする可能性もあるが。やたら滅多に筋力を鍛えても内側に存在する五臓六腑までは鍛えられないのさ。



「それはそうだが……。魔法戦を主体とするティスロは魔力がほぼ枯渇しているので乾坤一擲となる攻撃は期待出来ぬ」


「シュレンがその一撃を担う事は可能かい??」



 先の戦闘で虫の群体を炎の一撃で葬った彼の力なら。


 そう考えて淡い期待感を籠めた口調で問うと。



「――――。可能だが魔力を溜めるのに時間が掛かる」


 暫し考えた後に一つ頷いてくれた。


「ってなると攻撃役が一枚不足してあの忌々しい芋虫がド派手に暴れ回る可能性が増えちまうって訳だ」


 フウタが小さな鼻をヒクヒクと動かしながらそう話す。



 そうだよなぁ……。相手も黙って魔力を溜めさせてくれる訳じゃないし……。


 シュレンが魔力を溜めるだけの時間稼ぎの方法は他にないのだろうか??


 よぉぉく考えろよ?? 俺。


 ここで選択肢を誤ったら生きて帰られないんだぞ??



「……」



 隊全体の取るべき行動、各隊員が持つ戦力や特殊能力。


 手持ちの札で今出来る最善の行動を考えていると一つの出来事が脳裏に過って行った。



「――――。そうだ、アレだよ」


「「あれ??」」


「グルーガーさんが持って来た魔呪具、虫払の魔笛だよ!!」



 そうだ、確かシテナが言っていたよな??


 あの魔笛は砂虫にも効果があるって!!



「虫払の魔笛は砂虫にも効果があるってシテナが言っていた。不足する攻撃役をそれで補い、シュレンが魔力を溜めるまでの時間稼ぎは出来ないだろうか!?」


「ほぅ……。悪くない考えだがグルーガー殿の近接戦闘が無くなるのは此方としても痛手だぞ」


「それ以上の効果が望めるかどうか試してみなきゃ分からないだろ?? 魔笛が効かなければシュレンを除く全戦力で奴を足止めして、魔笛に効果が得られるのならそのまま行動すればいい。これが現状で最善となる作戦だ」


「まぁ――、それしかないか。俺様はそういう不確定要素に期待するのは好きじゃねぇんだけどな」


「俺だってそうさ。でも今はその拙い希望に縋るしか選択肢は無いんだよ」



 旅人が遥か遠い目的地へと向かう途中に地図を紛失し、そのまま道なりに進んで行くとその道が二つに分かれてしまった。


 一方は目的地へと繋がる正当な道だが、もう一方は野盗や危険な生物が跋扈する危険な道へと通ずる。


 どちらが正しい道なのか分からない状況で旅人はその場に留まり頭を悩ませるが、いつかは選ばなければならない。


 勿論、旅人には引き返すという選択肢もあるが……。



 生憎俺達にはその選択肢は与えられていないのだ。



 俺達が取った選択肢は惨たらしい死へと繋がる道なのか将又勝利の女神様が満面の笑みを浮かべて祝福してくれる道に通ずるのか、それは定かでは無い。


 願わくば……。もう一度、そうもう一度だけ。青き空の下で友人達と共に祝福の杯を交わしたいぜ。



「作戦の概要は理解した。では、某はそれを伝えて来る」


 シュレンがそう話すと地面に勢い良く頭を突っ込み大変可愛いお尻を左右にフリフリと振りながら砂地へと潜って行ってしまった。


「頼むぞ!! はぁ――…………。どうしてこうも危険な依頼を請け負っちまったんだ」



 ぷっくり真ん丸の可愛いお尻を持つ小鼠を見送ると体を弛緩させ、徐々に止みつつある緑色の雨を睨みつけてやる。



「今更悪態付いたって結果は変わりゃしねぇよ。何事も前向きに考えるべきだぜ??」


「これ以上無い危険な経験を体験出来て幸運でした――ってか?? それは生き延びられた場合の話だろうが」


「まぁそうだけどよ。この戦いが終わったらあの巨乳姉ちゃんに一晩の格闘戦を申し込んでもいいかな!? ほ、ほら!! 俺様達は姫様の危機を救いに来た騎士なんだし!?」



 こんな状況でも卑猥な考えが頭の中に存在するお前さんが羨ましいぜ……。



「う、うふふ……。あれだけ大きな果実だ。きっと最高の触り心地と噛み応えを提供してくれる事さ……」


 世界最高峰の果実の味を想像したのか、フウタの口の端から透明な液体がツツ――っと俺の肩口へと落ちて行く。


「涎、出てるぞ」


「こりゃ失敬。んっ!? おぉ!! クソッタレな雨がいよいよ止むぜ!?」



 死を齎す土砂降りの雨はいつの間にか小雨へと変化。


 程よい緊張感と漆黒の恐怖が心の中で徐々に高まって行くと、遂に緑色の雨が止み戦場に静謐な環境が訪れた。




お疲れ様でした。


これから味噌ラーメンを食べた後に後半部分の編集作業に取り掛かりますので次の投稿まで今暫くお待ち下さいませ。

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