第百二十八話 死を齎す雨 その二
お疲れ様です。
後半部分の投稿になります。
「はっは――!! 効いてる効いてるぅ!!」
「ウギギィィッ!!」
俺達の的確な攻撃を受けて地面の上でのた打ち地面を揺らし続ける砂虫の巨体から距離を取ったフウタが喜々とした声を放つ。
「でも何であんなに痛がるんだろうなぁ??」
「フウタ、良く考えてみろ。今の攻撃を例えるのなら某達の体に刻まれた傷の上から直接攻撃が加えられたのだ」
シュレンが強力な戦闘態勢を維持しつつ話す。
「うっへ、そりゃ痛い訳だ。血がドクドク湧き続ける患部に鋭い針の先端をぶち込まれたんだからなぁ」
「そして今の攻撃からして、恐らく口腔内の攻撃も有効だろう。あの黒い外皮は硬過ぎて俺達の攻撃は通らねぇけど体内は別だからな」
人体と同じく、筋力は鍛えられるけど胃袋の筋肉までは鍛えられないからね。
「あの気孔へ向かって攻撃を続けて奴が弱まった所で口腔内へ強烈な攻撃をぶち込む。体外の気孔と体内への雷撃。この二点の攻撃であのデカブツをぶっ飛ばしてやろうぜ」
これが今現在考え得る最良な攻撃方法なのだが……。
「よぅ、ダン。口腔内への強烈な攻撃ってどんな攻撃だよ」
そう、その攻撃方法が思いつかないでいた。
「例えばぁ……。ティスロ!! 奴の口腔内へ巨大な火球をぶち込んでやる事は出来るかい!?」
砂地の上で痛みを堪える様に細かい痙攣を始めた芋虫へ向かって険しい瞳を送り続けている彼女へ叫ぶ。
「可能ですよ!!」
ほぅ!! それは朗報だ!!
「でも一体何故!!!!」
「あぁ!! 皆!! ちょっと聞いてくれ!!!!」
「フゥゥウウウウンッ!!!!」
「さぁさぁ!! どうした!! 貴様の巨体はこの程度のモノなのか!?」
巨大砂虫の気孔へ向かって攻撃を続けているワンパクミツアナグマ二名にも聞こえる声量で今し方思いついた作戦を叫んでやった。
「――――。と、言う訳でぇ!! 俺達はこのまま気孔へ向かって攻撃を続けて!! んで!! 口腔が開いたのならその中へ向かってティスロが特大火球をぶち込む!! それまで各自相手の攻撃に耐えながら反撃に転じろ!! いいな!?」
「ふっ、それまでに奴の体を両断してみせる!!!!」
作戦を聞き終えたハンナが大変わっるい笑みを浮かべて突貫を開始すると、御自慢の剣技を気孔へ直接捻じ込んでしまう。
「ギギィィイイッ!!」
「さぁ……。狩りの時間だ!!!!」
う、うっわぁ……。すっげぇ痛そう……。
剣の切っ先を引き抜くと白濁の液体が勢い良く噴出。それは黒ずんだ巨体の一部を、砂の大地を白に染めた。
「我等の一撃は重く響くぞ!?」
「長!! 続きます!!」
「グゥッ!?」
長い尾の薙ぎ払いを巧みな所作で交わしたグルーガーさんとリモンさんが気孔へ向かって曲刀を叩きつけ。
「へへっ!! 俺様の存在を忘れて貰ったら困るぜ!?」
「ギィィ――――ッ!?!?」
ミツアナグマ両名が広げた気孔にフウタの小太刀が奥深くまで突き刺さると、巨大砂虫の上体が大きく仰け反りそして大地に勢い良く倒れ込んだ。
おッ!? イ、イケルか!?
意外と勝機が早く訪れちゃいましたね!! 何だよ何だよ!! 図体だけデカイだけで他はこけおどしだったのかよ!!
「よっしゃ!! 俺も負けられな……。んっ?? 何だ?? あれは……」
一日中野原を駆け回るワンパク小僧宜しく戦場で武器を振り回す彼等に続こうとして勢い良く弓の弦を引いたのだが。
「……ッ」
奴の異変を捉えて引いた弦を元の位置へと戻した。
最初は地面に横たわる巨体の頭部が微かに震えていたが……。徐々にそれが下半身へと伝播。
それは砂地に埋まる尾にも確実に伝わっているのか秒を追う毎に大地の揺れが大きくなって行く。
えっとぉ……。俺達の攻撃が痛過ぎてその痛みを我慢する為に震えていらしているのでしょうかね??
それとも喧嘩を売る相手を間違えて後悔の念に駆られているのだろうか……。
何が起きてもいいように身構えて奴の体に突如として起こった異変を捉えているとティスロが俺達の鼓膜をぶち破る猛烈な勢いで叫んだ。
「皆さん!!!! 近くにある瓦礫の下へ今直ぐ退避して下さい!!!!」
はい?? 退避??
「ティスロ!! 今から一体何が始まるんだよ!!」
大弓を背負い、取り敢えず彼女が叫んだ通りの行動を開始しつつ叫ぶ。
身近な瓦礫の山はぁ……。あぁ、あそこか。
数十メートル先にある遺跡のなれの果ての中にお邪魔させて頂きましょうかね。
「砂虫の広範囲の攻撃が始まります!! 世界に遍く存在する力……。我が下に集え……」
いや、その広範囲の攻撃方法を知りたいのですけども??
何やら体の前に魔法陣を浮かべ、徐々に魔力を高めている彼女の横顔に問おうとした刹那。
「グルォォォォオオオオ――――ッ!!!!」
巨大砂虫の背部から大変濃い緑色の液体が重力に反する様に勢い良く空高く噴出された。
そして、それが重力に引かれて落ちて来ると広い戦場に緑色の雨が降り注いだ。
これが攻撃?? 何だ、ただ体液を飛ばすだけの……。
「いってぇ!? 何だこりゃ!?!?」
奴の背部から放出された体液が服に染み込むと強烈な刺激臭を放って服を溶かして行く。
服を溶かし終えても液体の威力は収まる事を知らず、俺の皮膚に軽度の火傷を残して漸く侵食を停止させた。
「服をそして皮膚を溶かしてしまう強力な酸性の液体です!! 無防備なまま打たれ続ければ恐らく全身に火傷を負って動けなくなってしまいます!!」
成程!! だからティスロの服がボロボロになっていたのですねっ。
彼女の微妙に破れた服から覗く可愛らしくもかなりの大きさを備えている双丘がこの攻撃の威力を証明している。
「シテナ!! 逃げろ!!」
「分かっているよ!! お父さん達も早く瓦礫の中へ避難して!!!!」
緑色の雨が降りしきる中、各々が退避行動を取り始めるが……。
「グッモォォ!! グォォオオオオッ!!!!」
どこからどう見ても雨に濡れるのは確実であり、そして奴は俺達の体を痛め付けようとして己の体内から酸性の液体を苛烈な勢いで放出し続けていた。
こ、このままじゃヤバくね!?
折角これからって時に全員が火傷で動けなくなったら洒落にならないんだけど!?
「ふぅ――……。さぁ、精霊達よその力を存分に発揮して我等を守護せよ!! 八百万結界!!!!」
ティスロの体からとんでもねぇ魔力が迸ると、俺達の体を覆う様に薄い桜色の結界が展開された。
「うお!? 姉ちゃん俺様達に同時に結界を張る事が出来るのかよ!!」
「はぁっ……、はぁっ……。魔力があればもっと重厚な結界を張れますが……。今の魔力ではこれが限界です。み、皆さん。酸性の雨が止むまで避難を……」
彼女がそう話すとまるで重病を罹患した病人の様に重たい足取りで瓦礫の僅かな空間へと消えて行く。
それに倣い俺達も遺跡のなれの果ての空間へと駆けて行くのですが。
「ちょ!! おいおい!! もう剥がれて来たんですけどぉ!?」
酸性の雨の勢いが強くなって来た所為か、将又ティスロが張ってくれた結界が弱い所為か知らないけども!!
緑色の雨が結界に触れるとその箇所が白い湯気を放ち、強烈な刺激臭を伴ってボロボロと剥がれ落ちて行くではありませんか!!
「瓦礫の中に潜り込むまでもてばいいのだ!! リモン!! ハンナ!! 俺達はこっちに行くぞ!!」
クソッタレが!! 頼むからもってくれよ!? 俺の結界ちゃん!!
「あっちあっち!!!! あっつぅ!?」
双肩と項辺りに猛烈に感じる痛みと熱さに耐えながら懸命に駆け続け、そして結界が完璧に破壊されたと同時に漸く見付けた瓦礫の空間の中へ向かって飛び込んでやった。
「はぁ――……。全く、大変な目に遭ったぜ」
大人一人が余裕を持って休む事が出来る空間に入り溜息を漏らした。
ったく……。とんでもねぇ攻撃を仕掛けて来やがって。
ティスロの結界が無ければ今頃俺達は大火傷を負っていた所だったな。
「激しく同意――。まさかこぉんな急に降って来るとは思わなかったし」
お?? フウタも俺と同じ場所に逃げ込んだのか。
遅れて飛び込んで来た彼はヤレヤレといった感じで瓦礫の先で降りしきる緑色の雨を眺めて居た。
夏のある日。
今まで爽快に晴れ渡っていた空にどんよりとした雲が一杯に広がり、その雲から土砂降りの雨が太陽に温められた大地に降り注ぐ。
暑さに参りかけた大地と人々はその雨に歓喜するのだが雨に打たれては風邪を引いてしまうので雨具を持ち合わせていない者は軒先へと避難する。
不意に訪れた気紛れな大雨から逃れた一人の女性と男性が軒先で出会うと他愛の無い会話を始めた。
「そうよねぇ……。朝は本当に良く晴れていたのに、急に土砂降りですもの……」
嫋やかな所作で肩口をササっと払い、異性の目を気にして乱れた髪を直す。
「俺様も雨具を持ってくればよかったんだけどなぁ……。これじゃあここで足止めだぜ」
不愛想な相棒と違い、コイツは俺のくっだらねぇノリにも付き合ってくれるから嬉しい限りだよ。
「まぁそうなのですか。今日はお仕事で??」
「まぁな――。じいちゃんの家に足を運ぼうとした矢先にこれだもの。嫌になっちまうって」
「ふふっ、これも夏の風物詩。偶には足を止めて眺めるのも乙なものですよ??」
「そういう見方も出来るのか。あ、ちょっと酷くなってきたな。もう少し身を寄せても良いかい??」
「べ、別に構いませんけど……」
空から降り注ぐ死の雨が勢いを増して俺達の足先を傷付けようとして侵入して来たので瓦礫の奥の狭い空間へと進み、互いに身を寄せた。
「「……ッ」」
肩口から伝わる彼の体温が私の体温を悪戯に刺激して、彼から漂う男の香が私のイケナイ性を呼覚ましてしまう。
「体が密着して迷惑かな」
「そ、そんな事は……っ」
嬉しいのだけれどもふしだらな女性と見られたくない。
そんな女性らしい気持ちを巧みに表現すると、さり気なく彼の体を出入口の方へと押し出してやる。
「き、君に迷惑を掛けるのは良くないからな。俺様が奥へ移動するぜ」
「い、いやいや。私が奥の方へ移動させて頂きますわっ!!」
瓦礫の奥に移動したにも関わらず緑色の雨が勢いを増して吹き込み、濡れた服の一部が強烈な刺激臭を放ちながら溶け落ちて行く。
「あっちぃ!! ダン!! テメェが押すから俺様の足が濡れちまっただろうが!!!!」
「お前は俺よりも後にこの場所へ潜り込んで来たんだろ!? 占有権は俺にあるんだよ!!」
先程までの夏の風物詩は何処へやら。
きったねぇ雄同士のくだらねぇ縄張り争いが勃発。
狭い空間の中で互いの体を掴みながら押し出し、押し退け、代わる代わる上下に入れ替わる。
「俺様の体の方が小さいから奥に行くべきなの!!」
「体の大きな俺に譲れば……、ってか。フウタが鼠の姿に変わればいいんじゃね??」
咄嗟に思いついた案を話すと彼も今まで気づかなかったのか。
「そうじゃん!! とりゃ!!!!」
互いの体臭を嗅ぎ取れる狭い空間に強烈な光が迸ると、その光の中から一頭の小鼠が出現。
「うふふ。雨、止まないね」
「そ――だねっ。さっきは御免ね?? 小さい体を蹴飛ばしたりしてっ」
「別にいいさ。でも、次に小さいって言ったらその耳を齧り取って豚の餌にしてやるからな??」
「あはっ、ごめ――んね!!」
俺の右肩に乗ると大喧嘩をして仲直りをした仲の良い恋人の口調を放ち、いつまでも止まない死の雨を同じ目線で眺め続けていたのだった。
お疲れ様でした。
これから砂虫との戦いの中盤、終盤へ突入するのですが……。そのプロット執筆に難航している次第であります。
最終的な決着方法は決まっているのですがそれにどう持って行くのか。それが中々難しくて……。
取り敢えず書いては消しての日々が続いております。
沢山の応援。そしてブックマークをして頂き有難う御座いました!!
難航している執筆活動の嬉しい励みとなります!!!!
それでは皆様、お休みなさいませ。