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プロローグ

 長期連載を予定している作品です。

 本日から連載開始ですが、長い目で温かく見守って頂ければ幸いです。


 序章としては若干長いですが……。

 つまみ片手にのんびりと御覧下さい。




 第一章 混沌とした世界の中で


 プロローグ





 何処まで突き抜ける青い空へ大勢の歓声が響く。

 それは空を舞う鳥の自由な飛翔を変える程の声量であった。



「こら!! お前達!! 静かにしろ!!」



 壇上の教官が叫ぶものの。厳しい訓練を修了し歓喜に溢れる兵士達の耳には入って来なかった。

 それだけ彼等は喜びを炸裂させていたのだ。



「やっと終わったぜ!! これで俺も前線でバリバリ働く事が出来るってもんよ。何だ?? レイド。浮かない顔だな??」


「前にも言っただろ?? 聞いた事が無い部隊へ配属されたって」


 ふざけた性格とは真逆。真面目な軍服を着用している彼へと言ってやった。


「あ――。なんだっけ??」


「パルチザン独立遊軍補給部隊」


「そんな名前だったか??」


 俺と同じように首を傾げ、パチパチと瞬きを繰り返す。



「物忘れが激しい奴。まっ、これで暫くお前とも会えなくなるし。寂しくなるな!!」


 男らしく手を差し出すと。


「俺と会うまで、死ぬんじゃねぇぞ!?」


「それはこっちの台詞だ!!」


 互いの友情を誓い合う様に、固く握手を交わした。




 屈強な強者共が集う軍。


『パルチザン』


 今から遡る事二十年前に、ここアイリス大陸の西方から突如として出現した異形の存在。オークを討伐する事を本懐として設立された軍隊だ。


 総勢三万名の正真正銘、選りすぐりの猛者共。


 まぁ、中にはお調子者も居るけど。世間一般の方々からはそう見られている。



 そして、軍の最終目的は異形の存在共が跋扈する更に奥に存在すると噂されている魔女の命を刈り取る事。



 西から逃れる人々の命を虫けら同然に奪った奴らに反旗を翻す。


 俺はその目標に多大なる共感を得て、周囲の反対を押し切り入隊を志願した。




 人として生まれ、人としての生を謳歌する。




 与えられて当然の権利を奪った奴らを許せる訳ないだろう。




 熱い志を胸に抱き入隊したのはいいが。


 俺が想像した数倍以上の地獄の日々が待ち構えていた。




 地平線の果てまで走る馬の走行距離の倍の距離を走らされ。

 心臓が止まるその一歩手前までの筋力鍛錬。

 そして、両足を切り落として下さいと懇願する者も現れた地獄の卒業試験。



 腕力や剣の腕前に自信は無かったが幾つもの与えられた訓練を乗り越える内に人並み程度まで成長出来たと思う。



 強者犇めくこの軍で人並ならいいのだが、俺が客観的に判断した結果。


 一般の方々から見た感想で、人並なのです。



 訓練生の中での成績は中の下。これでも大分良く見積もった方だ。


 出来損ないと蔑まれても致し方ない俺だが、唯一誇れる試験があった。



 それは、先日行われた卒業試験。



 最も日が高く昇る時刻から、二日後の同時刻まで只只管走り続ける至極簡単な試験だ。

 体力だけは自信があった俺は我武者羅に走った。それはもう足の筋肉が千切れても構わない勢いで。


 両足が付いているのかどうか自分でも理解出来ない状況に陥り、気が付けば。同期の中で最も長い走行距離を走り抜けていた。


 その試験結果と、今までの成績を加味しての事か。


 第一志望であった魔女討伐課には配属されず、そんな部署もあったのかと首を傾げたくなる部隊へと配属されてしまったのだ。



 自分なりに精一杯頑張ったつもりなんですけどねぇ……。


 まっ!! 俺の仕事がこの大陸に生きる人達の為になる!!

 ここは、一つ。割り切っていきましょう!!



 あちこちで歓声を上げ、互いに喜びの声を上げ続ける同期達の中で人知れず拳を強く握った。



「あ、いたいた。レイドここにいたの」


 声が聞こえた方に振り返ると一人の女性が笑みを浮かべて歩いて来た。


「何だ、トアか」


「何だとは何よ。せっかく首席卒業の私が声を掛けてあげたのに。卒業おめでとっ」


「はいはい。ありがとうね」


「しかし、今日も暑いね――」


 強い日差しが降り注ぐ広い訓練場の中央。


 そこで彼女は暑そうに己の顔へ向け、手でパタパタと風を送り続けていた。



 明るめの茶色の髪に日差しが良く似合っている。


 美しく湾曲する眉に誂えたような柔和な瞳。こいつが街中を歩いていて、誰が軍人だと初見で看破出来ようか。


 まぁ、その後。直ぐに理解出来てしまうのですけどね。


 竹を割ったような明るい性格、そして誰よりも早く手が出る事で有名ですから。



 同期の中でも一際目立つ実力は伊達では無く。俺がここで過ごした二年間で彼女に追いつく事は叶わなかった。


 そして、彼女は周囲が予想した通り。首席で卒業を果たしたのだ。



「ん?? 何か顔についてる??」


 こちらの視線に気づいたのか目が合う。


「別に」


 素っ気無い返事を返す。


「そっか。じゃあ私は色々と片付ける事があるから行くね」

「おう」


「それじゃあ……」


 にっと笑みを浮かべて去ろうとする彼女を制す。


「トア、頑張って来いよ!! 後、絶対死ぬな!!」


 彼女はこれから西方。

 つまり死地へと向かうのだ。


 もしかしたら、これが最後になるのかもしれない。

 そう考えると声を掛けずにはいられなかった。


「うんっ!! 行って来るね!!」


 彼女は頭上の太陽にも負けない笑みを残し、訓練場を後にした。


「さぁって。レイドちゃん?? お部屋、いこ??」


 ハドソンが厭らしい笑みを浮かべ、俺の肩に腕を回す。


「薄気味悪い声出すなよ」


「うっせ。俺達は今日出発、そしてぇ。レイドちゃんは明後日の出発。だからぁ」

「だから??」


「片付けはお前に任せた!!」


「はぁ!? ふざけるなよ!!」


 宜しく――と。


 馬鹿騒ぎが目立つアイツらしい台詞を叫びながら訓練場の外へと駆け出す。

 そうは行くかと彼に追いつく為。

 軽快な声を与え合う同期の間を駆け抜けて行った。




   ◇




 小さな馬の嘶き声が響く暗き厩舎の中。


 月明かりを頼りに、相棒の下へと歩いて行く。


「おっ。何だ、起きていたのか」


 一直線に伸びた閂の下を潜り、静かに立つ彼女の側に立つ。


「……」


 俺が彼女の体に手を添えると、お返しと言わんばかりに長い舌で顔を舐めて来る。


「あはは。やめろよ、くすぐったいって」


 そうは言うものの。彼女の攻撃は止む事は無かった。


「今日はここで寝てもいいか?? 皆、出発しちゃってさ。俺だけが取り残されちまったんだ」


 普段は軍馬で溢れかえる厩舎も、今この時だけは俺と彼女だけの物であった。


「……」


 そう話すと、彼女はすっと横になり。俺の方へお腹を差し出してくれた。


「助かるよ、ウマ子」


 彼女に差し出されたお腹に背を預け、ふぅっと息を漏らす。



「俺も、さ。本当は皆と一緒に行きたかったんだよ……。皆と肩を並べて戦いたかった。皆と苦労を分かち合いたかった」



 自分の実力が足りない所為なのは理解している。


 でも。

 俺は人間だ。


 愚痴の一つや二つ漏らしても構わないだろう。


「……」


 俺の愚痴を労う為か。

 後ろ足でこちらの体をちょこんと突く。


「だよな。自分でも分かってるって。でもさ――。全然知らない部隊に配属されたんだぞ??」


 それは人間の問題だ。


 そう言わんばかりに大きく鼻息を放つ。


「まぁいいや。任務は任務。例え小さな任務でも……。ふわぁ……」


 部屋を払う為に掃除を続けていたお陰で疲れが溜まってますよっと。


「ごめん。このまま寝るわ」


 彼女の了承を得る事無く、耐えがたい眠気に身を委ね。

 夢の世界へと旅立って行った。




 ――――。




 ふと、目を開けると。


 眠る前とは百八十度違う光景が目の前に広がっていた。



 小高い丘の上に立ち、なだらかな丘を下ると美しい湖畔が待ち構えている。

 風が吹けば周囲の若草が揺れ心地良い音を奏でた。



 そして、小高い丘の頂上。

 そこに生える一本の大きな木の根元に、一人の女性が木に背を預け。心地良さそうな寝顔を浮かべていた。



 流れる様に垂れ落ちる金の長髪が顔に掛かり、男の何かを大いに刺激する。


 白を基調としたドレスにも似た服の中からは盛り上がった双丘が静かに自己主張を行い、彼女の呼吸と共に小さく上下していた。




「ん……」


 此方の気配に気が付いたのか。


 ふっと目を醒まし、夢現の青の瞳で俺を見上げた。


「あ、おはよう、ございます」



「はい。おはようございます」


 朝の挨拶はしっかりと。

 大人になる間に得た処世術の一つだ。


 だけど。

 問題なのはそこじゃない。


「ふわっ……。気持ち良くて寝ちゃっていたんですね」


「その様ですね。ところ、で。ここは何処ですか??」


 そう。

 眠りに就く前に居た厩舎は何処へ??


 見渡す限りの美しい森林意外に視界は建物らしき物体を捉える事は叶わなかったのだから。


「ここですか?? ここは、天界です」


「驚きの展開、ですか」


「そっちの展開じゃあありませんよ」


 柔らかそうな唇からふふっと笑みが漏れる。


「はいっ、では説明します!!」


 だらしない恰好から一転。


 シャキッとした格好を取り、コホンと一つ咳払いをして口を開いた。



 こちらも肯定を伝える為。宜しくお願いしますと一つ大きく頷く。



「あなたは、何んと!! 天界に選ばれた栄えある人なのです!!」


「はぁ」


「そして、あなたに御届け物があるので此処へとお呼びした訳なのです!!」


 お分かり??

 そんな感じで指を差す。


「いや、いきなり御届け物と言われましても……」


 恐らく、というか確実にこれは夢なのだろうが。


 妙に現実味を帯びた夢の内容に狼狽えてしまう。


「ふふっ。そう慄かないで下さいっ」


「慄いていません。呆れているのです」


 自分の妄想力の強さに、です。



「あ――。いいのかなぁ?? そんな事言って――。私が特別な御届け物を上げるって言うのに。そんな態度を取る人には差し上げませんよ??」


「じゃあ結構です」



 彼女の前から立ち去ろうと、取り敢えず湖畔の方へと進み出した。


 しかし。

 彼女が俺の腕を手に取る事によってそれは叶わなかった。



「だ、駄目ですって!! これを渡さないと私が怒られちゃうんですぅ!!」


「あのね?? いきなり物を渡すと言われて。はい、そうですかって受け取る訳にはいかないのですよ。ちゃんとした理由が必要なのです」


「も――。分かりましたよ、言えば良いんでしょ。言えば」



 何で怒られ気味に睨まれなきゃならんのだ。



「えっと、レイドさんでしたね。あなたは軍隊に所属し、微妙な成績を残して卒業され……。痛いっ!!」



 微妙。


 その言葉が俺の何かを刺激し、思わず彼女の額を突いてしまった。



「微妙は余分です」


「はいはい。つまり!! ヘタレな……。みゃん!?」



 ヘタレ。

 今度はそこの部分に反応し、再び突く。



「話が進まないじゃないですか!!」


「分かりました。では、大人しく聞きましょう」


 腕を後ろに組み。静聴する姿勢を取った。


「最初からそうして下さいよ。えっと、どこまで……」


「普通の成績を残して卒業する。そこまでです」


「うんっ!! 思い出しました!!」


 ちゃんとしようか。

 いい大人の姿なのですから。


「卒業するも、あなたの実力では心配が残ると思いまして。よいしょ……、っと」


 そう話すと。


 胸元に手を突っ込み、そこから光輝く玉を取り出した。


 何てところに手を突っ込むんだよ。


「この光の玉に触れて下さい。そうすれば、あなたがこれから必要とする能力が開花しますからっ」


「必要とする能力??」


「はいっ。例えば、ん――……。剣でしたっけ?? あの鉄の塊」


「合っていますよ」


 細い顎に指を添えて話す彼女に言う。


「剣の達人に成長したり、早く走れたり、お皿の数を早く数えられる様になったり。レイドさんが必要される能力が開花するのです!!」



 凄いでしょう!?


 そう言わんばかりに玉を大袈裟に掲げた。



「要りません」


「え――――!?」



「大体、実力という物は厳しい訓練を経て得る物なのです。そうほいほいと得られても自分の身になりませんし。しかも、皿の数を早く数えられる能力なんか要りませんから」


「馬鹿真面目なんですねぇ……」


 馬鹿、付ける必要ありました??


「でも、これを渡さない限り。あなたは此処から帰れないんですよ??」


 何が何でも渡す気なのか。

 ここで押し問答を繰り広げているのも面倒だ。そういう事なら、いっその事。


「分かりました。では、その玉に触れればいいんですよね??」


「そうですよ。えっと……。ちょっと待って下さいね。契約約款の文をまだ読んでいませんので……」


 彼女の話の後半を一切合切無視し、光の玉へと触れた。



 そして、触れると同時に凄まじい衝撃が体の中を駆け抜けて行く。


「うわっ!!!! な、何だ!?」


 いってぇ……。

 まるで硬い鉄で殴られたみたいな感覚だったぞ。


 此方と同じ感覚を共有したのか。

 目の前の彼女も顔を顰め、俺の顔をジロリと睨んでいた。


「まだ私が説明する前に触ったら駄目じゃないですか」


「申し訳ない。あれ?? 光の玉は??」


 彼女が右手に持っていた存在が消失した事に気付く。


「あなたの体の中に吸い込まれてしまいました。さて、契約約款を…………。え゛!?」


 彼女が取り出した一枚の紙。

 そこに目を落として、彼女はギョっと目を見開く。


「何が書いてあるの??」


 盗み見しても、理解出来ない文字の羅列が並べられていた。

 解読できないな。どんな内容なんだろう……。


「え、っとですね。どうやら、先程の玉を譲渡すると……。魂が共有されてしまうようなのです」


 ふぅん。

 魂の共有ねぇ……。


「その結果どうなるの」


「天界では、魂の共有する行為はその……。こ、こ、こん」


 もう少し。頑張って話そうか。





「婚姻関係を結んだと同義にされています」


「――――。はい??」


「つ、つまり。今を以て、私とレイドさんは婚姻関係を結んでしまったのです」



 端整な顔が真っ赤に染まり、美しい青の瞳が上目遣いで此方を窺う。


 だが、これは夢なのだ。

 夢の中で婚姻しても現実の世界で俺は一人者ですので。



「そう、ですか。では目的を果たしましたので帰らせて頂きますね」


「ちょっとぉ!! もうちょっと驚いて下さいよぉ!!」


 俺の両手を手に取り、ブンブンと仰々しく振る。


「わ、分かりましたよ。驚いたなぁ――」


「絶対そんな事考えていませんよね?? でもいいです!! えっと。私の名前はセイラ。セラとお呼び下さい」


 白の長いスカートの裾を摘まみ、ちょこんと頭を下げてくれた。



「宜しくお願いします、セラさん」


「は、はいっ!!」


 まぁ、夢の中だけど。こんな別嬪さんと婚姻関係を結べて光栄ですよっと。


「じゃあ、帰り道……。あ、あれ?? 何だ、これ」


 踵を返そうとすると。途端に足に力が入らなくなる。


「あ、それは現世へと帰る兆しです。そのまま落ちて行く感覚に身を委ねて下さい。では、またお呼び致しますね――」


 結構ですと言う前に体が深い闇の中へと落ちて行く。


 何だか、高い位置から落ちて行く感覚に似ているな……。


 暫くの自由落下を堪能した後、目を開くと。






「――――――。朝、か」


 視界が捉えたのは厩舎の汚れが目立つ木の壁であった。


 全く……。

 何て夢だよ。


「ふわぁぁ。おはよ、ウマ子」


 俺がちょこんと彼女のお腹を突くと。


『触るな』


 そう言わんばかりに少し強めに俺の体を蹴った。


「いって。悪いな、変な夢みてたから」


『夢??』


「そうそう。まぁ、追々話してやるよ。ほら、出発の準備を始めようか!!」


 勢い良く立ち上がり、今も寝そべる彼女を促す。


『仕方があるまい』


 馬らしからぬ速度で立ち上がり、綺麗な黒のつぶらな瞳で俺を見下ろした。


 先ずは、指導教官達に挨拶を遂げ。それから、配属される部隊へ向かう。


 今日は忙しくなりそうだぞ!!

 嬉しい笑みを漏らしながら彼女の背に鞍を乗せた。


 第一話に続きます。

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