夏の終わり
掲載日:2021/03/13
― 遠きやーまに 日はおーちて ―
スピーカーから、夕暮れを告げる音楽が鳴り出した。
保育園の帰り道。
私は母の手を繋ぎながら、ただ歩いている。
空はうっすらと茜色に染まり、風はやや涼しい。
蜩の声と、秋を告げるトンボが飛んでいた。
母の手は温かいにも関わらず、その顔は暗い。
何か聞きたいのに、聞いてはいけない。そんな風に思った。
「ママ、今日のお祭りは行ける?」
ようやく言葉を絞り出す。
母の手に力が入った。聞いてはいけなかった。そう思う。
「……パパが帰ってきたらね……」
母が顔をこちらに向けることはない。
― カナカナ カナカナ ―
蜩の鳴き声が、夏の終わりを告げていた。
父が帰ってくることは、なかった。




