表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/53

第10話 お城としか言えない

 リムジンでしばらく走ると、長い直線に入った。


 隔壁でまえは見えない。よこの窓から前方を見る。林の中をひたすら真っすぐに道が伸びているようだ。


 林道の終点は鉄柵のゲートだった。自動でゲートがあく。これも、映画などで見るような風景だ。だいたいは、マフィアだけど。


 車はくねくねした道を通り、深い山の中に入っていった。お金持ちが、こんなへんぴな場所に住んでいるのは意外だ。


 ここまでに会った使用人は、執事にメイドに運転手と、すでに三人。まだ家にもいるとして、五、六人は超える。それだけの人数をかかえるって、かなりの資産家だ。先週TVで見た、プロゴルファーの邸宅を思いだした。たしか四つもベッドルームがあり、プールも広かった。あれより大きいのかもしれない。


「もう家につく」


 エルウィンがそう言うと、車は大きく曲がった。高い石垣があらわれる。石垣は両側にずっとつづいていた。道に沿って車はすすみ、大きなアーチの下をくぐる。


「庭だわ」


 思わず、わたしはつぶやいた。冬なので花は咲いていない。でも、きれいに手入れがされている。緑の四角い生け垣は、気持ちいいほど整っていた。通路の石畳には、かれた雑草などもない。小さな噴水からは、水がちょろちょろと出ていた。遠くに小川があり、そこにかかるレンガ造りの橋が、なんともかわいらしい。どこの国立公園だろう?


「わあ、お城だ!」


 モリーが見ている反対側の窓を見て、息をのんだ。


 お城だ。お城としか言えない。


 正面の大きな四階建てに、ならんだ細長い窓、上には三角屋根。そのおくには、さらに高い建物も見える。


 エンピツを逆さにしたような、先のとがった塔がいくつかあり、その中でも、ひときわ高い二つの塔があった。その一つには大きな時計がついている。


 お城の壁は白く、まさに「白亜の城」だった。わたしは、まばたきするのも忘れ、口もひらきっぱなし。


「さっき、家って言ったわよね」

「ああ、すこし大きいが、僕の家だ」


 彼になにか言ってやりたいけど、あまりのことに言葉がでない。


「ここから見えないが、むこうに池がある。あとでスケートをしよう」


 近くの池! あの時、エルウィンは言った。正しいけど、それは敷地内。自宅の池だ!


 車は、ゆっくりと、玄関前に止まった。わたしは、よろけるように車を降りて、お城を見あげた。長い階段があり、わたしの家の一〇倍ありそうな大きな大きな扉が待っている。こ、これは場ちがいすぎる!


 モリーは、エルウィンのあとをついて、さっさと階段をあがっていく。わたしは足が止まっていた。あたまの中が真っ白で、階段をのぼる一歩が、ふみだせなかった。階段は高く、お城はもっと高い。


 そして、お城を見あげたまま、目の前も真っ白になった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ