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34話 真山美穂




「その女の正体だったら、俺知ってるかもよ」


 2階のフェンスに寄りかかってそう言った少年は、とても楽しそうな顔で手に持っているタブレットを左右に振った。

 オトギリ荘のハッカー網村進士くん。そしてその後ろには青白い顔で立っている男。

 1階に住んでる白塗沢……えーっと、なんとかさん。

 なんで二人して2階にいるのかな……。

 仲良く進士くんの部屋で遊んでた的な? オトギリ荘の男の人たちって仲良いんだよなぁ。女のアタシたちめっちゃ仲悪いのに……。

 とりあえず。


「進士くん久しぶりー」


 とアタシが言えば。


「馴れ馴れしくすんな毒女」


 とか言う。


「うっわ、進士くんまでひっど。白塗沢くんもおひさー」


「はい、コンバンハ」


 はいこんばんわー。


「そんで? そのタブレットの写真、それ誰」


 音を立てて階段を降りてきた進士くんの手は持っていたタブレットには、その全画面に人の写真が写っていて、進士くんはそれを見せつけるようにアタシたちにむけていた。

 アタシはタブレットに近づいて、まじまじと写真の人を見る。

 女の人。髪が黒くて、長くて、真っ赤な口紅が印象的なきれいな人だった。

 でもこの人って……。


「おみずのひと?」


「アンタに言われたくないと思うけど、そうだよ」


「ちょっとお、どーゆー意味よ」


 ピチッピチの女子高生に向かって言うことじゃないやい。

 この子、と言っても歳はあんまり変わらないんだけど、幼く見えるからつい子供扱いしてしまうんだけど。進士くんてデリカシーがないんだよね。

 そこがよくないところってやつよ。

 なんてじゃれてたら、アタシの後ろから潔子がひょっこり顔を出す。


「……その方は……」


 意味深に潔子がつぶやいた。振り返って様子をみると、笑みを深くした潔子がタブレットを見ていた。


「この人知ってんの? 潔子」


「この女が表屋空についてる幽霊。違う?」


 アタシの問いかけに答えたのは、潔子じゃなくて進士くんだった。

 そうなの?

 問うつもりで再び潔子に目を向ける。潔子はみんながよくわかるようにはっきりと頷いた。

 マジかぁ。

 この人の幽霊が空くんに……。てことは。


「この人死んでんの?」


「死んでるよ。名前は真山美穂まやまみほ。死んだのは先々月」


 先々月……。

 ということはアタシが三年生に進級したころで、えっと、春真っ盛りで、そうそう、空くんが越してきた頃? 今は、雨模様が続く梅雨に突入したところで、もう二ヶ月ちかく立つんだなぁ、空くんを殺すのに失敗してから。

 アタシの思考を放置して、進士くんがタブレットを操作しながら何かを読み上げる。


「真山美穂は駅前の歓楽街にある、その手の店で働いていた。人気はあんま無かったみたいだね。とにかく貧乏で、働いていたのもそのせいらしい。で、二ヶ月前行方不明になって、先月になって遠く離れた山の中で殺されているのが発見された。死体は首の骨が折れていて、警察はものすごい力で首をへし折られたなんて言ってる。アンタニュース見ろよ」


 最後のセリフは首をかしげて聞いてたアタシに向かってだった。

 むう、うるさいな。ニュース興味ないんだもん仕方ないじゃん。

 てゆうか首をへし折られた? そんなことあんの?


「首をへし折るって何で折るの? 絞め技?」


「違う。死体の首元にはくっきり手の跡がついていて、おそらく絞殺されたんだろうけど、どんな握力だよって話だな」


 うわあ手形がつくほど? 馬鹿力。お相撲さんとか?

 ってあれ?


「それをなんで進士くんが調べてんの?」


 だって、一応お仕事で情報屋してるって聞いたけど? 無償で空くんのために正体を突き止めようとしたとか?

 あ、でも、正体突き止めて、それからどうするんだろう。それって別に空くんのためにならないような。空くんのために何かしたいなら、子供の幽霊の方を調べるよね。

 進士くんはオトギリ荘のことなんでも知ってるし、空くんが子供の幽霊に悩まされているのも、知ってるはず。


 大体、その死んだ女の人は、なんで空くんについてるの?

 

「あ」


 突然声を上げたのは八重子。見ると、目を丸くしてタブレットの女の人……真山美穂さん? を見ている。

 なんていうか、呆然としてる感じ?


「ビンゴだろ。呪屋」


 と進士くんが言った。


「真山美浦は隠していたらしいが、実は子供がいた。だから呪屋はあいつを呪い殺すつもりなんだろ?」


「そういうことでしたか」


 と潔子がいう。

 え? わけわかんないんですけど?


「ところで、どうして白塗沢さんが一緒に?」

 

 アタシを放置して話が進んでいく。潔子がそんなことを尋ねるから、更に話が飛んで、よくわかんなくなってきた。ちょっと順序良くはなしてよ。


「呪殺。ということは外傷なくできるのではないですか? ボクはその死体がほしいのです」


「呪屋、協力してやるよ。その代わり、死体はこいつにやって」


 にこやかに言った白塗沢くんを指差して、進士くんも楽しそうに笑って言う。

 死体? 空くんの? 八重子が呪い殺して、その死体を白塗沢くんがもらって、もろもろの調査は進士くんがする?


「お前はなんで首を突っ込む」


 と八重子が問う。


「楽しそうだから。ま、俺はあくまでも白塗沢のお手伝い」


 そうなんだ。楽しそうだから。ってゆーか。


「ちょっとまってよ! 三人で殺そうっての? やめてよ! 空君はアタシの獲物なんだから!」

 

 冗談じゃない!

 空くんはアタシが目をつけてたんだから。てゆーかさっきから人のこと置いてけぼりにして。

 アタシにもわかりやすく話てよね!


「大体よくわかんないけど、その女の人はなんで空くんについてんの? なんでそれが八重子が空くんを呪うのに関係してんの? わかりやすく説明してよ!」


「だーかーらー」


 進士くんがめんどくさそうに言う。

 アタシにタブレットの画面を向けて。


「言っただろ? 真山美穂には子供がいた。7歳の女の子だ。でも存在が隠されていたから、真山美穂が発見されるのが遅れたせいで、子供は餓死したんだ」

 

 子供が死んだ……。ということは?

 子供。子供? つまり空くんの部屋に出る幽霊はその子供? なんで?


「だから、なんで関係あんの」


 なんかわかっちゃたけど、とりあえず聞いてみる。

 

「あいつに憑いている女以外の幽霊。それが真山美穂の死んだ子供。真山美穂を殺したのは──」


 そこまで言って進士くんはニヤリと笑った。



「殺したのは、表屋空。あいつだよ」


 あ、やっぱりちょっと聞かなきゃよかった。

 そう思ったその時。



「え?」


 驚愕を顕にした声。

 反応したのはアタシじゃない。

 上から聞こえた声。

 驚いてアタシたちは上を見上げた。


 そこにいたのは話に出ていた張本人。

 真山美穂という女の人を殺した人物。


 愕然とした顔をした、表屋空くんがいた。



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