33話 毒女と呪屋と霊媒師
なんでアタシはこんなにこだわっているのか。
うまく答えられない。でも、彼のことが気になるのは、多分隣の部屋の人だからってだけじゃないかもしれない。
そうだったらいいなって思う。
だって、アタシ、彼のこと結構気に入ってるから。
だから、彼を殺すのはアタシだ。
「やーえーこ」
呼びかけると、扉の向こうから人が動く気配がして、アタシは八重子が部屋にいるという確信を持つ。
こうやってわざわざ八重子に会いにくるアタシってなんだろう。
表屋くん。あーどっちかっていうと空くん? が困ってるのはわかったから、力になりたいっていうか。
じゃなくて、なんていうか、そう、お隣さんの空くんを八重子に呪い殺されると困る。
だって、殺すのはアタシだし。
つまりそういうこと。
「やーえーこー」
アタシは待つってのがきらいなの。早く出てこーい。
騒々しいだろうなって思いながら、アタシは八重子の家のドアを叩く。
ちょっとして、すこしだけ扉が開く。そんで、八重子が顔を出した。
「うるさい、毒女」
「毒島一笑。覚える気ないならもういいからさ、毒女ってやめてよ。呪い屋さんて呼ぶよお?」
「野呂井だ。野呂井八重子。勝手に名前変えるな」
「そっちがねー」
軽口を叩き合いながら、アタシは八重子を引っ張り出す。
いつも見かけるパーカー姿八重子が部屋からのそのそ出てきた。歳は近いはずだけど、随分身長も違って、八重子はすごく子供っぽい。
「ちょっとさあ、外で話そうよ」
促した外は雨が降りそうな曇り空。当然嫌だろうけど、八重子はすんなり……まあ無言で頷いて、外に出た。
八重子が人を部屋にいれたがらないのは知ってるから、当然そうなると思ったけど、そもそも話なんかしない、って言われるかと思ってた。
部屋にこもってるのが嫌なのかな。八重子の部屋に何があるのか知らないけど、居心地わるいのかも。
アタシも時々そういうことあるから、わからないでもないけどね。
「何の用だ毒女」
「毒島一笑ねぇ、呪い屋さん。何の用ってぇ、決まってると思わなぁい?」
八重子が前を歩いて、アタシが後ろを歩く。私には後ろからイタズラする術がないけど、八重子にはあるから、自然とこの並びになる。
八重子が文句も言わずに歩いているのは、それを知っているから。アタシが後ろから突き飛ばすとか考えないあたり、子供だよねぇ。
アパートのそばに建つ一本の街灯の下。アタシたちは足を止めた。アタシはすぐに本題に入ることにする。
「空くんのにイタズラするのやめなよ」
アタシはこれが言いたかったの。だって、空くん最近つらそうだし。その原因が八重子にあるならやめさせたい。
正直八重子がどうして呪ったりするのか知らない。ずーっと前に聞いたときは「イタズラ」って言ってた。でも、楽しくてやってるなら仕方ないなって思うんだけど、でも人様に迷惑かけるのはダメだよね。
八重子のせいで、空くんが元気ないと、なんとなくアタシ、気軽にリンゴも渡せないんだもん。
アタシに迷惑かけないでほしい。
そう思ってやめてって言ったんだけど。
「やめない。これ仕事。空のこと嫌いじゃない。でもやめない」
という答えが帰ってきた。
「ふーん、仕事なんだ。で、誰からの?」
まあ聞いても答えないよねえ。
アタシが肩をすくめたあたりで、ひょっこりとアタシの後ろから潔子が現れた。
「うわっ潔子」
「こんばんは毒島さん」
どうしてここの住人は夜にばっかり活動的になるんだろう。意味不明。
「なんでお前がいる」
低い声で潔子に言っのは、アタシじゃなくて八重子。
でも潔子はなにも聞こえない。聞こえないふりをしてるのか、目も合わせない。
「毒島さんどうしてここに?」
なんてアタシに聞いてくる。
潔子ってアタシのことも嫌いなくせに……。
相当八重子のこと嫌いなんだなぁ。そう思うとまあ説明してあげなくもないかなって思った。
なので、軽く説明してあげることにする。
「八重子に空くんに対するイタズラやめさせようと思ってさあ。でも仕事だから無理なんだって。だから、誰からお願いされたのかなって」
そう言って、潔子の顔に視線を向けると、気難しそうな──てゆうかいつも通りの笑顔なんだけど、若干気難しそうな顔で沈黙していた。
「少なくとも彼女は違いますわね」
「彼女って何」
「表屋さんに憑いている女性のことですわ。ええ、まあ、毒島さんにはみえませんでしょうけれど」
普通に尋ねちゃったけど、普通に返事された。と思ったら嫌味を言われた。最後の一言いる? いらないよね。
アタシ顔ひきつってるかもしれない。
てゆうか女性? 女の人がついてるの? そういえば空くんは子供って言ってたっけ?
「よく、わかんないんだけどさあ。空くんは子供のユウレイ見るって言ってたよ? てことは、潔子の言ってる女の人のユウレイじゃないんでしょ? 子供のユウレイのほうが八重子の仕業ってこと?」
「おそらくは」
「じゃあその空くんに憑いてるユウレイはまったく関係ないの?」
そう問うと、潔子は沈黙した。どういうことよ。関係ないかどうかはわからないってそういうこと?
アタシが潔子をがん見ていると、潔子の視線は私から逸らされて八重子に向けられた。
なんとなくアタシもその視線を追っかける。
八重子の表情はいつもと変わらず仏頂 面で、アタシにはいつも通りにしか見えないけど、どうだろ。
「八重子は知ってんの?」
「お前に話す理由ない」
このクソガキ……。ってゆかそんなん知ってるって言ってるようなもんじゃん。
八重子を睨みつけてみるけれど簡単に目をそらされる。
んで、八重子と潔子が見つめ合うっていう構図。この二人は同じようなものをみるからどうしてもライバル関係? みたいになっちゃうみたい。
くっそー。アタシはなにも見えないからわからん。女の人のユウレイと子供のユウレイがいて? その子供の方が八重子の呪いの正体?
じゃあだからその女の人はなんなのよ。もうわけわかんない。
アタシ混乱しすぎてわけわかんなくなってきた。
「その女の正体だったら、俺知ってるかもよ」
混乱するアタシの頭に振ってきた言葉に、アタシは上を仰ぎ見た。
オトギリ荘の2階、フェンスに寄りかかるみたいにしている一人の男の子。
「教えてやろうか」
ニヤニヤしながらそういったのは、オトギリ荘の情報屋、進士くんだった。




