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7:初めての友達

「こんにちは-」


「あら、いらっしゃい。クロエー友達来たよー!」


 ほぼ毎日通えば顔を覚えてもらえるもので、店主のアレサさんが気を利かして大きな声でクロエを呼んでくれた。


 アレサさんは恰幅のいい女性で旦那さんを亡くしてから一人でこの店を切り盛りしていたらしい。でも流石に苦しくなってきたからあの女の子、クロエを雇うことにしたんだって。

 そうそう、あの女の子の名前はクロエって言うんだよ。

 何度も話していくうちに仲良くなって名前で呼び合うようになっていたんだよね。


「お疲れ様、クーディグラ。今日は終わり?」


「うん、クロエはいつ頃?」


「今日は倉庫の片づけをしないといけないからちょっと遅くなるわ」


 クロエとは帰りが同じような時間の場合は私がクロエの家まで送ったりしているんだよね。帰る途中までは一緒に話せるしね。クロエも私と話すときは砕けた話し方をしてくれるようになったんだよね。

 でも倉庫の片づけか……手伝ってもいいのかな?


「あのー、アレサさん。私も手伝ってもいいですか?」


「あんたの分は出せないけれどいいのかい?」


「ちょっとクーディグラ!?」


 だって友達と話せるのならもっと話したいし、クロエの力になれるのならなりたいよ……友達なんだし……えへへ。 


 私は嬉しくて仕方がなかった。目が覚めてから同じ年の友達と言えるような相手はいなかったから。マリッサちゃんやレーネお姉さんは妹や姉みたいな人だし。記憶を失くした私の初めての友達はクロエなんだから。


「私がクロエと一緒にいたくて勝手に言っているだけだし気にしないで欲しいかな」


「でも……」


 クロエが迷っているとアレサさんが見かねたように口を出してくれた。


「クーディグラちゃんには売れ残りのパンをあたしからあげるから気にしなさんな。あんたは大人しく友達の好意を受け取っときな」


「……アレサさん、分かりました。クーディグラよろしくお願いするわね」


 流石アレサさん話が分かる人だなぁ。アレサさんはクロエのことを気にかけてくれているんだよね。うん、力仕事なら任せておいて!


 アレサさんが今日はもういいから倉庫の方をお願いと言ってくれたから私とクロエは片付けに行くことにした。倉庫と言っても小麦粉やいろんな食材が入っていたりするわけで、月1回在庫の確認と整理のためにこうやって片付けするみたい。


「それじゃあクーディグラは重い物お願いするわ。小麦粉とか袋を破かないように気を付けてね」


「りょーかい。力仕事は任せておいて!」


「それにしても記憶が無い力持ちな女の子ってそれだけでも物語の主人公みたいね」


 小麦粉を軽々持ち上げる私を見ながらクロエがそんなことを言い出した。でも物語の主人公かぁ。別に主役じゃなくてもいいけれどハッピーエンドがいいなぁ。昔はよくそんな話ばかり読んでいたっけ……あれ?……昔? 今何かを思い出しかけたけれどそれはスーッと消えてしまっていた。もどかしいけれどあまり気に病んでもしょうがない。今までに何回かこういうことはあったからもう慣れてしまった。


「どうしたの? 大丈夫?」


「平気、平気。それじゃあ次運ぶね」


 クロエは優しいね。それにしても最初私はクロエはアレサさんの娘だと思っていたんだけど違ったんだよね。そうあれは確か1週間くらい前のことだったかな。







「クロエはアレサさんの娘なんだよね?……あんまり似ていないけれど」


 その日は依頼が夕方に終わったから夕飯用にパンを買いに来たんだけれど、たまたま誰もお客さんがいない時間らしくてクロエが暇そうにしていたから気になっていたことを聞いてみたんだよね。


「私が? アハハ! 違うわよ。アレサさんは優しいから確かに慕ってはいるけれどお母さんじゃないわ」


 え? そうだったんだ。何か申し訳ないことを言ってしまったかも。私はこういう人との会話が下手なのかもしれない。経験が無いし……というか記憶が無いし。うん、ちゃんと謝ろう。


「ごめんね。何か変なこと言って」


「別に気にしてはいないわ。大したことじゃないもの……実はね、アレサさんは別に私を雇わなくても大丈夫なのよ」


「……え!? でも手が回らないからって聞いたけれど?」


「人にはそう言ってくれているだけよ。実際は一人で回せるのだけれど、私がどうしてもお金が必要だから雇ってくれているの」


 ……これって聞いていいことなのかな? プライベートな話みたいだし踏み込んで良いのか不安だけれど。でも話すということは聞くだけ聞いてもダメじゃないよね?


「聞いてもいい話?」


「ええ、お母さんが病気で薬代が必要なの。ここでの稼ぎと内職で何とかやっていけているからアレサさんのご厚意が無ければやっていけなかったわ」


「そうだったんだ……私に出来ることある?」


「だったらアレサのパン屋の売り上げに貢献してちょうだい。お得意様になってくれればありがたいわ……まぁ、もう大分お得意様な気はするけれど」


 毎日来ているからね。でもそういうことならもっと貢献しないとね。アレサさんのパンは美味しいし、日持ちもするから仕事にもちょうどいいんだよね……私がすぐに食べちゃうけど。

 どうもこの体は普通の人よりは高性能だけれど燃費は悪いみたい。その証拠に3日は持つパンが1日で消えていく。必要経費として諦めているけれどね。


「私に他に出来ることがあったら言ってね?」


「その時はお願いするわ」


 そう言ってクロエは笑ってくれたっけ。






「……ラ……ラ!……クーディグラ!!」


 わ! ビックリした。気が付くと横でクロエが呆れた顔で私を見ている。


「あれ? どうしたのクロエ」


「どうしたのじゃないわよ。もう終わったのにボーっと突っ立ってるんだもの。ほら、帰るわよ」


 おおう! いつの間にか終わっていたみたい。気が付けば倉庫は綺麗に片付いていた。怒っていないところをみると無意識に働いてはいたみたいだけれど。気をつけないとね。


「うん、一緒に帰ろう」


 荷物をまとめて帰るクロエについていく。アレサさんが売れ残りのパンをくれたのでありがたくもらっておくのも忘れない。もちろんお礼はちゃんと言っておくけれどね。


「そうだ、クーディグラ。ちょっと寄るところがあるから付き合って」


 アレサのパン屋を出て歩き出すとクロエがそう言ってきたのでもちろん大丈夫だと返す。ところでどこに行くのかな? 不思議そうな顔をした私にクロエは薬屋に行くと教えてくれた。


「それってクロエのお母さんの?」


「ええ、そうよ」


 月に1回クロエはお母さんの薬を取りに行くらしい。それなりに高いお薬でそのせいで生活は楽じゃないってぼやいていたけど、それでもお母さんが薬のおかげで生きていけることが嬉しいみたい。私も1度あったことがあるけれど線の細い人だった。心臓が悪いからあまり動いたり出来ないのだけれど、それでおクロエのために美味しいご飯を作って待っていてくれている優しい女性なんだよね。


「本当はクロエのお母さんが治るような薬があればいいのにね」


「……そうね。こればっかりはどうしようもないわ。教会で聞いた話だと治療魔術でも治せないみたいだし」


 治療魔術って確かアーティラス教が教えている魔術だったよね。以前、治療魔術が使えるグラスワーカーから聞いた話だと、体の治癒力を引き出す魔術で使うには医者としての知識も必要なんだとか。だから治せない病気とかも存在しているみたい。


「無い物を気にしてもしょうがないわ。ほら、置いて行くわよ?」


 ちょっと! 本当に置いて行くなんてあんまりだ!


 少しだけ考え込んでしまった私を置いていくようにクロエは走り出してしまう。まったく、追いつけないわけじゃないけれど寂しいんだから置いて行かないでってば!


 それから3日後の朝、私はアレサのパン屋を訪れていた。店内に入るとクロエがいつもの様に焼き立てのパンを並べている。近所の奥様とかがこの時間は買いに来ているから大忙しだ。私は邪魔にならないようにさっさとパンを選んで会計を済ませると店の外で待つことにした。幸い今日は予定は無いし時間はあるから待っていようかな。どうしてもクロエに言っておかないといけないことがあるしね。

 30分もすれば大分落ち着いたようでそろそろ話しかけとても大丈夫かな?


「クロエ、今良い?」


 少し落ち着いた店内ではクロエが少し疲れた顔でレジの机に突っ伏していた。いかにも疲労困憊な様子のクロエをゆさゆさと揺すってみるとうぅーんと唸るような反応が聞こえた。


「何? クーディグラ」


 クロエは目を擦りながら起き上がって来たけれど、朝早いせいで眠いのかな、やっぱり?


「あのね、私明日から3日くらいサンプトンにいないんだ。だからクロエにはちゃんと言っておこうと思って」


「いない?……依頼かしら?」


「ううん、遺跡を調べに行くんだ。もう何もないと言われている遺跡だから無意味かもしれないけれど、私の記憶に関係する遺跡かもしれないし」


 クロエには記憶がないことと遺跡で目を覚ましたことは話してある。オートマータどうこうは確証が無いから話していないけれどね。ただ、人よりも力持ちで頑丈なことは話してあるから訳アリだとはバレていると思う。でもクロエは何も言わないで友達でいてくれているからそれが答えなんだと思う。


「そう、分かったわ。気を付けるのよ」


 もちろん! 十分に気を付けて行ってきます。さてと、というわけで保存食用にパンを買い込んでおこうかな。

 ところでクロエ、もしかしてチーズパンは売り切れた?







「はぁ!? あんなちんけな遺跡に行くだってぇ!?」


 遺跡に行く前に途中にあるリークウッドという村に立ち寄ったんだよね。リークウッドは宿を経営する酒場が1軒くらいしかない小さな村だった。

 とにかく遺跡に行く前に少しでも情報を仕入れていこうと思ってお昼ご飯ついでに酒場に寄ったんだけど、何故かお酒を飲んでいた他のおじさんグラスワーカーに絡まれているんだよね……なんで?


「えっと、遺跡とか好きなので一回だけ見て見ようかなぁっと」


「はぁ……あんたな。あの遺跡は本当に何もねぇ遺跡なんだよ。行くだけ時間の無駄だろうに……んで何が知りてぇんだ?」


 どうやらこのグラスワーカーさんはこの村の根有りのグラスワーカーみたいでいろいろと親切に教えてくれるみたい……口調は乱暴だけれど。それにツルツルな頭のせいで見た目が怖い人だけど話してみたら結構優しそうな人だった。


 このおじさんの話だと今回の目的でもある遺跡は今から20年ほど前に見つかったものらしく、見つかったものはいくつかの古代語で書かれた文献だけ。アーティファクトや財宝などは何も見つかっていないことからすでに盗掘にあった後か、大した意味のない遺跡だったのじゃないかと言われているらしい。


「さらに残念なことに見つかった古代語の資料も似たような遺跡に似たような資料が数多く見つかっているのでそこまで重要な資料じゃねぇんだとよ。しかも解読されていないから内容は不明のオマケ付きだ」


「……踏んだり蹴ったりですね。何と言うか」


「だろ? ちなみに遺跡の中に開かずのドアと呼ばれていた場所があるんだけどよ、結局装飾の一部ということで片付けらちまったんでその奥があるかすら不明さ」


 そうなると収穫は期待しない方が良いみたい。一応それでも行ってみる価値はあるかな? もしかしたら何かあるかもしれないし。


「遺跡が見つかった当初はこれで人が集まるとか観光資源になるとかで騒いだんだが、ほとんど価値がないと判明したせいで誰も遺跡には見向きもしなくなったんだから悲しいもんよ」


 ……現実は非情だね。それでも一応場所を聞いておく。遺跡は村から2時間くらいで着く場所にあるみたい。


「ありがとうございます。おじさん」


「森には獣も出るからな。いくなら気を付けて行けよ」


「はい!」


 さてと、腹ごなしをしたら行って見ようかな

いつも読んでくれてありがとうございます。

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