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3:師匠ー!!

 森を歩いてどのくらい経ったのだろうか分からない。とにかく言えることはただ一つ……私は迷子になっていた。研究所を出た頃はまだ太陽は真上にあったのに今はもう沈みかけている。私は疲れてはいないけれど、気持ちが疲れてしまったので大きな木に縁りかかって休んでいた。


 頭の中はあの機械のことや自分の体のことでいっぱいいっぱいでもう限界だった。


「変な機械は出てくるし……これ撃ったのに怪我していないし、あんなに全速力で走ったのに息が切れていないなんて……私に何があったの?」


 あの機械を撃った時は無我夢中だったからあまり自信無いんだけれど、あれは多分……ゴーレムだ。きっと偵察用とかそんな奴に違いない。大きな目をしていたし、何かを探すようにしていたからそうだと思う。でも何でゴーレムがあんなに憎かったのだろう……私ゴーレムと何か関係あるのかな? だからゴーレムを破壊しろとか言われるのかな?


 自分の記憶が無いのがこんなに不安だなんて……記憶の手掛かりとか探しに行きたいかも。


「それにしてもお腹空いたのに……動けるんだ。これもおかしいよね……」


 陽は沈み気が付けば月が出始めていた。大きくて真ん丸な月が2つ空に浮かんでいる……2つ?


「1,2……2個あるぅぅぅぅぅ!!」


 あれ? 空には月って2個浮いていたっけ? それともここは未来とかじゃないとか!? そもそも夢だから何でも有りだと言えば有りだけど……もしかして並行世界とかそういうオチ?


「いい加減真面目に考えよう……まずはこれが夢かどうか……まぁ、夢じゃないよね……はぁ」


 夢だと考えるにはあまりにも現実感があり過ぎる。それにPM10RLアサルトライフルを撃った際に反動は思ったよりは無かったとはいえ、全くなかったわけじゃない。それすらも夢だと言うのは流石に無理がある。


「最悪夢じゃなかったとしたら未来だと思っていたのに……まさかの並行世界説なんて……」


 正直どちらか分からないけれど、今はそれを考えている場合じゃないかもしれない。だって何か獣が唸るような声が聞こえてくるんだけど。


 耳を澄ませば近づいてくるのが分かる。数は……7匹って多くない? しかもこの歩き方の感じからしたら野犬とかそんな感じだと思う。何で分かるかなんて分からないけれど分かるんだからしょうがない。

 急いで荷物を担いでこの場を離れるために走り出すと足音も走り出したのが分かる。ちょっとだけ振り向いてみると犬のようなものが追って来ているのが分かった。それにしても陽が落ちてからも見えるなんて便利だなぁ。


「わーい、犬さんだー……って狼じゃないあれ?」


 狼とかどうやって対処すればいいの? 全速力で走っているのに疲れる感じがしないのは今は助かるけれど、狼を引き離すことが出来そうにない。結構走っているのに諦めてくれる気配が無い。


「もっとスピード上げないと……って、わぁ!」


 後ろばかり気にし過ぎて足元を見ていなかった私が悪いんだけれど、飛び出ていた木の根に躓いてしまった。受け身も取れずに顔から地面にダイブしてしまったからとても痛いはず……なのに痛みは無かった。あのー普通は痛いはずだよね?


「グルゥゥゥゥ」


 気が付けば唸り声が近くから聞こえてくる。恐る恐る振り返ってみると7匹の狼が私の前に立ちふさがっていた。どれも美味しそうだと言わんばかりの目で見てくるんだけれど、私美味しくないことにしてくれないでしょうか?


「グルゥアァァ!!」


 やっぱりダメですかぁぁぁぁ!! 咄嗟に私は身をよじって飛び掛かって来た牙をかわす。背中のすぐ側でガチっと音がして間一髪だったことにぞっとした。何とか態勢を立て直して距離を取ろうとしても次から次に襲い掛かられてかわすだけで精一杯だった。


「私だって! 大人しく食べられるつもりはないよ!!」


 飛び掛かって来た狼の腹を思いっきり蹴っ飛ばしてやるとキャウンと情けない声を出して転がって行く。その隙にPM10RLアサルトライフルを構えて薙ぐように威嚇射撃をしてみると、狼達は私から少しだけ距離を取るように離れだした。そしてそのまま少しだけ睨み合っていると焦れたのかまた襲い掛かってくる。


「でも! 不思議と怖くない!!」


 攻撃をかわして強化超合金ナイフを無防備な腹に突き立てる。これで残り5匹! 流石に仲間が2匹やられて……2匹?……私に蹴られた1匹はピクリとも動きそうにない。私の蹴りはどれだけの威力があるんだろう?……知りたいけれど知るのが怖いかも。


「逃げてくれないかなぁ……」


 これ以上殺すのは嫌だし、そもそも攻撃できたことが自分でもビックリしているくらいなんだから。生き物って分かっているのに全然躊躇しなかったなんて……何かそう思ったら急に体が震えてきたんだけど……あれ?……震えが止まらない。


「グルゥルゥゥ……グルゥアァァァ!!」


 急に止まってしまった私は隙だらけだった。襲い掛かってくる狼の動きが見えているのに生き物に危害を加えているのだと理解したら体が動かなくなってしまったのです。戦わなければ死んでしまうのに……命を奪うことが怖くなってしまうなんて……。


「ッ! 助けて!……ん!!」


 思わず叫んだ言葉は誰に助けを求めたのか分かりませんでした。来るであろう衝撃が怖くてつい目を閉じて、腕で頭を庇ったのにいつまでもその時は来ません。流石におかしいなって思って目を開けてみるとそこには頭からナイフを生やした狼が倒れていました。


「ひっ! ナ、ナイフ!? 生えて……え?」


 すぐには気が付かなかったけれど私を庇うように誰かが立っています。大きな背中に外套を羽織りながら手には剣を持っている人が。風にあおられてフードが外れて見えた横顔は端正な顔をした男性だった。

 男性は狼に向かって大きく踏み込んだ……はずなのに足音一つも立てずに切り伏せていた。その動きは予備動作がほとんど無くて動きは見えるのにいつ動き出すのか分からなかった。もしかしてこれは達人ってやつ!?


「キャゥンキャゥン、キャウゥゥン」


 残り3匹にまで減ったせいで不利を悟ったのか狼達は情けない声をあげて逃げ出していった。良かった……助かった。それでも私は2匹も命を奪ってしまったことにショックを受けていた。命を奪うことはいけないと教えられていたはずなのに……私は躊躇いも無く殺してしまっていたんだ。


「※▽〇◆? ‘#$%&?」


 私を助けてくれた男性はそう言って手を差し出してくれた……ええっと何て言っているんだろう? 困ったことになんて言っているか分からない……ええと、取り合えずお礼を言わないと。


「ありがとうございます、助かりました」


「#$▽#%×&□$? 〇%$&&」


 翻訳アプリはどこですかぁぁぁぁぁ!! 私の心の叫びは空しく消えていった。





 男性に助けられてから一晩経った。あれから男性は私と言葉が通じないのにも関わらず、見捨てること無く私を安全な所まで連れてきてくれた。連れてこられた場所は岩場の陰になっているところで煙が上がってもすぐには見つからない場所だった。


(なんか昔映画とかでこんなシーン見たような……?)


 何の映画で見たのか思い出せないから気にしてもしょうがないけれど。私がどうしていいか分からなくて突っ立っていると男性はパンのようなものを差し出してきた。これってもしかして食べろってことかな? 恐る恐る取ってからかじってみるとぱさぱさで口の中の水分が奪われるのにも関わらず美味しかった。まるで足りていなかったエネルギーがようやく少し補充されていたような感じがした。


「美味しいです!」


 素直に感想を言うと男性は嬉しそうに笑いながらお茶を沸かし始めた。しばらくして食べ終わった私にカップを差し出してくれる。


「あ、ありがとうございます」


 でもどうして助けてくれたんだろう? 聞きたいけれど言葉が通じないから聞きようがない。それにお腹が膨れたら眠くなってきた気がする。

 ショボショボする目を擦っていると男性が岩の方を指さして寝るようにジェスチャーで言ってきた。寝ててもいいのかな? でも眠くてもう起きているの……限界……おやすみなさい……グゥ。


 次の日から男性と私の会話の特訓が始まった。最初は昨日食べたパン?とかを指さしながら名前を言っていくことから始まった。不思議なことに一度聞いた言葉は忘れなかったし、発音も正確に聞き取ることが出来たんだよね。

 しかもどうやら今話している言葉は英語やフランス語のようなヨーロッパの言葉をごちゃ混ぜにしたような言葉だったのでそれを参考にすれば思ったよりも早く覚えることが出来そうだった。

 もっともそれなりの会話になるまでに10日はかかったんだけれどね。まぁ、最初は月単位で考えていたから早くなったと言っていいと思う。

 それにしても……私はそんな沢山の言葉を喋れたのかな? だとすれば凄い頭がいいことになるのでは!?……記憶喪失なのがもどかしい。やっぱり記憶を探しに行きたいな。


「着いて来い、狩り、教える」


「はい、師匠!」


 ブラウンの髪に渋い声のイケメンなオジサマな師匠は180㎝くらいの身長に大柄な体つきからは想像もできないくらい身軽だったりするからビックリ!

 名前を聞いても微妙な顔をして教えてくれなかったので勝手に師匠と呼ぶことにした。師匠という意味の言葉を聞き出すのが結構大変だったけれど、そのおかげで語彙が増えたのはありがたかった。師匠には記憶が無いことは話してあるからね。だからこんなに丁寧に教えてくれるのかな?


 師匠に連れられて来たのは森の奥の方でそこには鹿さん達がのんびりとお食事中だった。鹿さん可愛いなぁ。ねぇ師匠そう思いませんか?……だから何で私に弓を渡すのでしょうか?


「矢を番えて、首を、射ろ」


 ……マンマミーア!! あの可愛い鹿さんを射ろと!? 命を奪うことはいけないことだと習ったんですが!!?


「……生きるためだ、命、尊い、でも食べる」


 言葉が少しずつ分かるようになってきたのがかえって憎い! 習い始めてから1週間くらいだけれど何となく言っていることが分かるから……文句も言えないじゃん。


「……分かりました」


 弓にやを番えて引き絞る。矢の先にはのんびりとお食事中の鹿さんが……その瞬間私の頭の中に狼を殺した感触が蘇って来て矢は明後日の方向に飛んで行ってしまう。


「……ごめんなさい」


「気にするな、そのための、練習だ。夕飯、無いがな」


 ……え?


 この日から私のサバイバル技術習得訓練が始まったのだった。

てるてる坊主は主人公のお気に入りです。

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