2:無茶苦茶言わないで欲しい
口調が変わるのは仕様です。間違いではないのでそのままお読みください。
――ゴーレム
どこかの誰かが言った皮肉の頭文字を繋げた言葉と聞いたことがある気がする。
““Glorious Order Refined Evil Machine”通称GOREM「ゴーレム」
光栄なる任務を受けた洗練されし悪魔の機械という意味で付けられたと言われているけれど本当のところは誰にも分からない。私が覚えているのはゴーレムと呼ばれる機械は急に現れて多くの人を殺戮して回ったということ。普通の人間が相手にするには強大すぎて多くの国に途轍もない被害が出たということだけ。
記憶を探っても最終的にゴーレムがどうなったのか全然出て来ない。どうやら私の記憶は私に関すること以外も無くなっているみたい。どこから来たのか分からないせいで宇宙人や秘密組織の仕業とかそんないかにもなフェイクニュースとかは覚えているくせに。戦争みたいになったところまでは覚えているんだけれど。
「冗談でしょう? あのゴーレムを?」
音が途切れているせいで全部は聞こえなかったけれど、女子高生にそんなものを破壊しろとか無理ゲー過ぎる。完全に無茶振りもいい所だ。もっと適材適所という言葉を辞書を百回くらい引いて確認してから言って欲しいと思う。
「……それにしても記憶喪失とか安いドラマの展開だと思ってたのに」
思わず頭をかかえてしまった私を余所に研究者のお爺さんは話を続ける。だから前の飛んだ部分を復唱して欲しいのに。
『必要な物は保管室に置いてあるだろうから好きなものを持っていって欲しい。もし不足している場合は先ほど言ったポイントに向かって欲しい。じゃぁ、頼んだよ……』
動画はそこでお終いのようでそれ以上は無いみたい。音がしなくなったモニター室にまたもとの静寂が帰ってくる。それにしても先ほど言われていないポイントってどこですか?
何一つ分からないに等しい情報だったけれど、それでも倉庫に行けば何とかなるかもしれないと言うことだけは分かった。
もっとも30年経っているからどれだけ当てに出来るかは分からないけれど……本当に30年経っていたらの話だけれど。
「てるてる坊主だったのか私は!?」
保管室に向かう途中、幸いにもカーテンのようなものを見つけることが出来た。30年前だと仮定するとして……信じてはいないけれど、それでもまだちゃんと残っているのだからビックリ。どんな素材で出来ているのかな?
とにかくこの全身スーツが恥ずかしいので隠したかったからちょうど良かった。見た目はてるてる坊主だけど無いよりは遥かにマシだからね。それにしてもここは何の研究をしていたのかな? ゴーレムを破壊するって言うくらいだから兵器の研究かな?
「それにしてもゴーレムって……無理だよ。人間がどうこう出来る相手だったらあんなニュースなんかならないよ」
連日流れていたニュースを思い出せばいかに無謀な話かよく分かる。戦車があっさり破壊されたとか聞けば人間の出る幕じゃないってことくらい馬鹿でも分かる。
そんなことを考えながら歩いているとどうやら目的の保管室に到着したみたい。プレートを見れば
Special storage roomって書いてあるから間違いないと思う。でもどうやって中に入ればいいんだろう? ドアは取っ手なんか無いし近づいても反応しない。
「自動ドアじゃないんだ……あれ、これは?」
よく見ると右側に手を置くような台がある。埃を被っているけれどまだ生きているかもしれない。パソコンだって生きていたし、試してみる価値くらいはあるよね。台に手を置いてみると緑の光が私の手を上下に移動して読み取って行くと、少し経ってからドアが音も無く開いた。
中を覗いてみると埃こそ積もってはいるけれど綺麗なままだ。奥の方のガラスケースの中にどうみても銃にしか見えないものが置いてあるのだが気のせいだよね?……誰かそう言って。
「ガンワーク社製のPM10RLアサルトライフルだ」
どうしても気になって近くでケースの中の銃を見ていたら何故か名前と使い方が浮かんできた。記憶が無いからなんとも言えないが私はこういうものを扱っていたのだろうか?……女子高生なのに?
そうだとしたらそれこそ漫画の世界だ。女子高校生傭兵爆誕!!……アホらしい。何で浮かんできたのか分からないけれど、一つ私はこの状況を説明するいい方法に気が付いてしまった。
「これは夢だ! きっとそうに違いない!」
足に床の感触があるのもお腹が空いている気がするのも全部夢に違いない! だからきっと銃の知識なんか出てきたんだと無理矢理自分を納得させてからいろいろ物色することにする。
だってほら万が一のことを考えるのは常識だし、それに夢でもお腹が空いている以上は食料は必要だしね。
いろいろ見て回った結果収穫は微妙な感じだった。ほとんどが壊れていたり。劣化していたりしていてまともに使える物は限られているみたい。一応部品を搔き集めれば1つくらいなら修理出来そうな感じだったのでなんとか修理してみた……って、修理出来るんだ私!?
自分でも驚いてしまうのだけれど何とか修理とか出来る知識があることにビックリ!
PM10RLアサルトライフルを何とか使えるように出来たのでこれを持っていけばいいかな……気が付けば持っていくことを前提に考えているけれど……。まぁ、弾も十分に見つかったし強化超合金ナイフも見つかったからサバイバルも何とかなるはず。サバイバルとかしたこと無いけれど、これは夢だしきっと何とかなるよね……夢だと信じてる。
「一番の問題は食料かぁ……」
服は残念ながらなかったので全身スーツのままで行くしかない。せめてマントをということでカーテンをまとっててるてる坊主スタイルでいけば服はオーケー。服じゃないけれど防刃ベストが見つかったから着込んでおくのも忘れない。ラッキーなことに安全靴が見つかったんだよね。これさえあれば裸足生活から解放される!
結局保管室を漁るだけ漁った結果見つかったのはこれだけだった。最終的に私の装備はこんな感じになった。
“PM10RLアサルトライフル”
“強化超合金ナイフ”
“てるてる坊主+防刃ベスト”
“安全靴”
“弾”
“サバイバルセット(食料なし)”
十分な装備だと言っていいはずだ!……食料さえあればね……。
「まさか、軍用携帯食が全滅しているなんて」
ビックリすることに武器の入っていた展示ケースは電源が生きていたおかげで何とか使える物があったけれど、食料の保管ケースは電源が死んでいたせいで全部ダメになってしまっていたんだよね。長期保存が出来るはずなのにダメになるということはいったいどのくらい時間が経っているのだろうか?……動画が30年前だったからたぶん50年はいっていないと思いたい……夢だしそのくらいだよね。
修理したPM10RLアサルトライフルは一般的なアサルトライフルよりも豊富な装弾数と長い射程が特徴なんだよね。ただ修理して分かったんだけれど、これはカスタマイズの結果威力が上げられているから比例して反動まで大きくなっているんだよね。
正直に言えばアサルトライフルのコンセプトの使いやすさとは正反対なので正直意味がない気がする。それにこんな銃を撃ってしまえば普通の人は怪我をしそう。こんなカスタマイズするなんてどういう人が使う前提でやったんだろう?
あくまで見つけた仕様書に載っているカタログスペックなので撃ってみたわけではないのだけれど、使わないほうがいいかもしれない。肩を壊したら大変だ、薬なんて無いのだから怪我したら大変だ。
保管室で見つけられるものは全て回収したと思うからもうここには用は無いかな?……もっともあくまで保管室だけしか見ていないから他を探せばいいのかもしれないけれど……見えるからと言って暗い通路とか部屋が怖くない訳じゃないんだよね……いや、本当に。
「……お化けとかでないよね?……夢だし」
というわけで夢だから怪我しても痛くない!……とは限らないかもしれないから慎重にいこう。データを見た感じだとモニター室の近くから上の階に上がれる階段があるみたい。ここはどうやら地下2回のようだから出口は上にあるみたい。取り合えず上に上がる前に一応他の部屋を見て回ったけれど目ぼしいものは何も無かったんだよね。
「おそるおそる……よし、オールグリーン。突入せよ」
階段を上がってすぐの通路を慎重に覗きながら入って行く。気分は特殊部隊の隊員だね……銃が使える物じゃないことが残念だけど。まぁ、ゲームみたいにお化けとか出てきそうにないのが救いかな……出てきたら困るけれど。
「取り合えず、ここら辺を見て回ろうかな……」
いろんな部屋を見て回ったけれどやっぱり目ぼしいものは何もない。てるてる坊主の裾が埃で汚れる気がするけれど気にしてはいけない。こそこそ動かないといけないのだ。だってもし何か出てきたら怖いし……ところでそろそろ夢から覚めても良いと思うんだけれど?
「上に上がれば出口かな?……お腹空いた」
階段を上って通路を抜けていくと薄っすらと明かりが見えてきた。やった出口だ! 急いで出口へ向かおうとした時、ふと何かが動いた気がした。
お、お化けとかじゃないよね? ちょっと距離があるからハッキリとは見えないけれど、ゆっくりと近づいて行くとだんだんと姿が見えてきた。
だいたい車のタイヤくらいの大きさの蜘蛛たいな体にシャワーヘッドの先が大きなモノアイになっているその機械は、ギョロギョロと大きな目を使って辺りを見回している。私の記憶にあれの記憶は無い……のに……どうしてか……私はあれが憎くてたまりません。
あれの名前は分からないし、知りたいとも思いません。でもあれはこのままにしていてはいけないのです……何があっても!
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
私はPM10RLアサルトライフルを構えて射撃体勢を取るとあの機械に向かって引き金を引きます。ただあの機械だけを破壊することだけを考えて。思ったような反動は一切無く銃弾は正確にあの機械に吸い込まれて行きます。夢中になって引き金を引いているとカチカチと音がして私はそこでようやく弾が切れていることに気が付きました。そしてあの機械は物言わぬ鉄屑へと変わり果てています。
「……私……なんで……」
とにかくここを一刻も離れたくて仕方がありませんでした。私は急いで出口へと駆け出していきます。ただ、この場から離れたい一心で。それにしてもそれなりに走っているのに息が切れないのですが……いったい私の体はどうなっているのでしょうか……私……人間ですよね?
とにかく考えないようにしながら明りに導かれるように出口を抜けた私の目に映ったのはどこまでも深い森でした。