1:おはようございます
新連載開始です。
本作はオープンワールドな感じのゲームとかだとイメージしやすいかもしれません。
ヴォーンヴォーンと何かが唸るように振動している音が響いてくる。まるで携帯のバイブのような音が気になってこれ以上寝ていられそうにない。まだ寝ていたい気がするけれど、確か……今日は休みだったっけ? それに部屋が暗いけれどカーテンを閉めて寝た覚えがない。
ぼんやりとした頭がゆっくりと覚醒してくると私は自分が知らない天井を見ていることに気が付いた。そもそも寝ているベッドがいつもの私のベッドじゃない。SF映画とかに出てくるようなカプセルの中で私は寝ていたようだ。
首だけを動かして自分が寝かされている部屋を見てみればいかにもな感じの機械が並んでいる部屋だった。大きな箱のような機械は何の役割があるのか分からないけれど、これが唸るような音の正体だったみたい。それにしても電気も着いていないから部屋が暗いのにどうして見えるんだろうか?
まるで映画とかで特殊部隊とかが使用している暗視ゴーグルの視界みたいに暗くても見える。この部屋が掃除もされていないことが分かる程度には見えるんだから私どうした!?
「う、うーん、よいしょ!」
カプセルの蓋を力を入れて押してみると何とか開いた。長く開けたことが無かったみたいでくっついていたから少し大変だった。それにしてもここはどこなんだろう?
ゆっくり上半身だけ起こしてみるとさっきは気が付かなかったけれど、奥の方に通路があるのが見えた。とにかくここを出てみないことには何も始まらないよね。足を下ろすと床の冷たさで少しだけヒヤッとなる。でも耐えられないとかそういう感じじゃない。冷たいということだけが分かる感じかな?
『……の覚醒を確認。起動シーケンスを開始……システムオールグリーン……セットアップ完了……チュートリアルデータ確認できません……』
私がカプセルを出た途端こんな声が聞こえてきた。電子音声だから人間じゃないのは分かるけれど、言っていることの意味が分からない。
『チュートリアルデータの破損を確認……全工程完了します』
いやいやいやいや!! データの破損とか不穏なこと言われているんですけれど!?
抗議しようにも誰もいないし、どこから音声が流れてくるかもよく分からない。困ったなぁ、凄く不安何だけど。どちらにしても起きようかな。
それにしても立ち上がってからようやく気が付いたんだけど、私……凄い格好しているんですけど。何と言えば良いのか体にピッチリと張り付く様な全身スーツと言えば良いのかな?
よくアニメやゲームに出てくるやつにそっくり。灰色の全身スーツは私のボディラインをこれでもかと現わしてくれているので誤魔化しようがないんだけど……これ。誰の趣味かは分からないけれど私の承諾も無く着せるなんて訴えたら勝てそうな気がする。
「そもそも誰が着せたんだろうこれ、それにどうしてこんな場所に……ま、まさか誘拐!?」
だとすると私にこれを着せたのは誘拐犯だということに……って無いかそんなわけ。掃除のされていないというよりも、人が長い間立ち入っていないようなこんな場所なんだもの。誘拐犯がいればそうはなっていないだろうし、ここで私を寝かせておく理由も無いだろうしね。それにさっきの音声も説明がつかないし。
まったく花の女子高生をこんな誇り臭い場所に連れてくるなんてとんでもない犯罪だと思う。この……この……あれ?……私……名前なんだっけ?……どうしよう出て来ない!!
「ちょっと待って! えっとえっと……ダメだ……出て来ない……」
自分でも信じられないけれど名前が出て来ない。まさか私若くして健忘症に!? それとも記憶喪失ってやつ!?
その後しばらく粘ってみたけれどどうしても名前が出て来ない。たぶん30分くらい頑張ったと思う……もしかしたらもっとかも。結局どうしても出来ない私はあまりのショックに床に座り込んでしまった。
「名前だけじゃなくてどこの誰かも分からないなんて……お父さん、お母さん」
両親がいたことは何となく覚えている。ただ顔も声も思い出せないし、名前も分からない。どうやら私が覚えているのは社会的な常識とかそういうことだけで自分のことは何一つ覚えていなかった……17歳だってこと以外は。
「これからどうしたらいいんだろう……お家帰りたいよ……ぉ」
膝を抱えてうずくまってどれくらい経ったのか分からないけれどこのままここで大人しくしていても何も解決はしないし、それになんだかお腹の辺りが空っぽな感じがする。これはきっとお腹が空いたのだろう。幸い体は動きそうだし何か探さないと。
寝かされていた部屋を出て恐る恐る通路を歩いて行く。埃が積もっているだけで壊れてはいないから裸足でも大丈夫そうだ。こんな全身スーツを着せるくらいなら靴も用意してくれれば良かったのに。
通路は明かりも無いから暗いけれど何故か見えるから助かった。もしこれで見えなかったらと思うとぞっとする。少し歩くと右側にそれなりに大きな部屋があるのに気が付いた。こっそり覗いてみると椅子やらパソコンとかが何台も並んでいるようだ。それに壁には大きなモニターみたいなのがデーンとその存在を主張している。
「ここって映画とかドラマで見たモニター室みたい」
もっともモニター室が何をするところとか知らないんだけどね。何もないかもしれないけれど一応探してみるだけ探してみようかな。それにもしかしたらここがどういうところか何か分かるかもしれないし。
「しかし、当然ながらパソコンとかは死んでいるのであった、まる」
普通に考えればこんな廃墟じみた場所のパソコンなんか生きているわけも無く、私は遊び感覚で電源ボタンを押してみた。こういうボタンとか押してみたかったんだよね。私の指が沈み込むと同時にピッと音がした。そうそう、やっぱり電源が入るわけも無くここは無駄足だったと……え?……ピッ?
着くわけがないと思って背を向けた私の後ろでパソコンの電源が入っているんですけれど……もしかして生きているの?
とにかく起動したのなら儲けものだ。何でもいいから何か分からないかな?……ええとこのパソコンを所有していたのは財団Peaceってなってる。財団Peaceなんて記憶にないなぁ……まぁ記憶喪失の私なので何とも言えないけれど。他に何か分かりそうなデータは……ダメだ。ほとんどのデータが壊れているみたいで大したことが分かりそうにない。
「そもそもこんなOS見たことが無いんだけれど……何と言うか私の知っているOSよりも大分進化した感じ」
あーでもないこーでもないといろいろいじってみたけれどダメっぽかった。唯一ここを出て右に真っすぐ行けば倉庫というか保管室があるっぽい。食料品などもあるかな?
データを見た感じ食料だけじゃなくて何か武器っぽいのもありそうなのがちょっと怖い。本当にここは何なのだろう。
それなりに調べてみたけれどここが何かの研究施設だということと、財団Peaceは多くの研究者の出資によって設立された組織だということくらいしか分からなかった。研究に関するデータを調べようにもパスワードを要求されるから手の出しようがない。無限に挑戦出来るのならいつかは突破できるかもしれないけれど、こういうのは回数が決まっていて最悪中身ごと抹消されかねない。そうなったらお手上げだから今は無理に手を出すのはやめておこうかな。
そうやっていじっているうちに動画データを見つけることが出来た。日付は2100年になっている……!?
私の記憶にあるのが2070年だから30年後!……私年代の記憶はあるんだ……本当に自分に関する記憶だけが無いみたい……って30年後なんですけど! どういうことだろうか? これの日付が狂っているとか? それとももしかしてテレビのドッキリとか?……全部無いか……。
「取り合えず再生してみようかな」
動画が壊れていないことを祈りつつ再生してみる。すると後ろにあった大きなモニターがブゥンと音を立てたかと思うと画面に白衣を着たお爺さんが現れた。見た感じ60歳くらいのお爺さんだけど何でだろう……私はこの人を知っているような不思議な感覚がした。
『……この映像が流れているということは無事目を覚ましたみたいだね。少なくとも人類は最悪の事態は免れたということだ』
白衣を着ているせいでお医者さんかと思ったけれど違うみたいだ。この言い方からすると研究者っぽいかも。
『さて、それではチュートリアルも終わっていることだし簡単な話しから始めようか。僕の名前は……』
待って! そのチュートリアルデータ壊れていたんですけれど!? しかし悲しいかな、映像に向かって文句を言っても当然反応してくれるわけでもなく、私の抗議はスルーされる。しかも最悪なことに急に映像が乱れて音が途切れ途切れなり始めるから始末に悪い!
どうやら時間が経ち過ぎたせいかデータが大分劣化しているみたい。大分困るんですけれど? チュートリアルなんかなかったし自己紹介をスキップされるのは正直悲しい。どのくらい見れないかと言うとレンタルしたDVDがボロボロなときな感じ。しばらくして映像はようやく元に戻ったのだけど話しは大分進んでしまったみたい。
『……というわけで君には大事な使命がある。もっとも、最初に話したとおりこれは僕らが君に押し付けたものに過ぎないことは理解している。これは僕らの我がままでありエゴだ。最低なこうだとも理解している……それでもどうか頼みたい』
「……そのまえに説明を下さい」
何も聞いていないのに頼まれても困るんですけれど? わがままとかエゴって言われているけれどどういうことだろう?
でもその意味はすぐに理解させられた。
――なぜなら
『ゴーレムを破壊してほしい』
確かにそう言ったのだから。
いきなりの無茶ぶりにチュートリアル無し……何てクソゲーだろうかw