スキャーリィ編 32話 特異能力5
そして、電話から声が聞こえる。
「ぐっも〜にィん〜ぐぅ! ハッハァ〜新しい朝が来たぞぉ? さぁて、お前らにとって希望の朝になるのかなァ?」
相変わらず、相手を馬鹿にするような声が響き渡る。
「青磁先生、そういうの良いから」
「なんなんですのこの方?」
「バラ、こいつはこういう奴なんだ気にしてやるな」
確かに薔薇ちゃんと青磁先生は対極な人間な気もする。
「んだよ、そこは一つラジオ体操でもやってくれると嬉しいんだかなぁ……ノリが悪いぞ護衛軍諸君?」
「それキラーパスすぎて繋がらないから」
あまりの物言いの酷さに呆れながらため息を吐いてしまう。
「んで、もう一回DRAGを使うから俺様を呼んだのか」
「ええそうよ」
「センセイ? 何回も聞いて悪いが感情生命体化する危険性は無いんだよな?」
ふみふみちゃんが最終確認をするように此方に聞いてきた。
「……無いとは言い切れない、だが『一つ目の特異能力』は成功した。だからと言って分からんけど紅葉の馬鹿なら『二つ目の特異能力』までなら余裕のはずだぜ。だが、逆にそうなると感情生命体化よりかは俺様すら知らない別の副作用が無いか不安になってくるが……」
「大丈夫……衿華ちゃんとお姉ちゃんが守ってくれる筈だから」
私は胸に手を当ててそう答える。
「精神論か……通常なら信じはしないが、お前らは感情を力に変える特異能力者だ……なんとかはなるだろう」
何か引っかかるが青磁先生の言葉を聞き安心をする。
「じゃあ先にモミジを拘束しておくからな」
ふみふみちゃんは特異能力を使い、影のようなERGで出来た手で私を手だけ動かせるように拘束した。
「よし、じゃあ行ってくる」
鞄から既に出していた衿華ちゃんのDRAGを手に持つ。
「負けんなよ、馬鹿」
「ちゃんと帰って来なさいよ、紅葉! あんたはこっからなんだから」
「美味しいお菓子作って待っていますわ!」
「頼むから暴れんなよ……モミジ?」
「こんな事言えた義理じゃ無いけど、お願いね、紅葉ちゃん」
みんなが私に応援を送ってくれる。
「わかってるよ。さっさと戻って、さっさと慣れて、アイツをぶっ倒そう」
そして、私はDRAGを口の中に入れた。
噛み砕くと粉のような舌触りと衿華ちゃんの香りと味がした。そして、憧れにも似たその感情が止めどなく心の内側から溢れてくる。
ここまでは前と同じ……
だけど、今回は数秒経っても視界が変わらな……
『あれ……?』
視界が霞むと共に、全身の力が抜ける。
「モミジッ……⁉︎」
「どうしたの? 蘇芳ちゃん⁉︎」
スルスルと影の手から解けていき、床に倒れる直前もう一度黄依ちゃんに身体を支えられる。
「オイッ……⁉︎ 何があった?」
「分からない……ただモミジが自分から倒れかかって……」
「意識はッ⁉︎ 紅葉⁉︎ 聞こえてる⁉︎」
だが、もう視界もほとんど見えず声だけが頭に響き、身体が全くと言って良いほど動かない。
「みなさん……筒美さんの呼吸が……止まっていますわ……!」
「嘘だろ……こうならない為に手を打っておいたのに……何が起きてるッ⁉︎ 心臓は動いているか?」
「動いてる……! だけど、どんどん小さくなっていってる……!」
みんなの焦る声と、心臓の鼓動だけが私を構成しているように感じてしまう。だけど、息が出来なくて苦しい。
「どちらにせよ、直ぐに死喰い樹の腕が来るッ! 誰か、空気に干渉やら血流を活発化させられる奴いるか⁉︎」
「バラッ! お前の特異能力で酸素を生成しろッ!」
「分かりましたわッ!」
「だけど、それじゃあ心臓が先に……」
「私がやります……!」
黄依……ちゃん⁉︎
そして、少し手首に痛みを感じる。
「手首を切ったの⁉︎」
「大丈夫です。こうして直接触れば、血流の動きくらい操作出来る……」
「その馬鹿を頼むぞ……霧咲……!」
徐々に息苦しさが少なくなっていく。
「センセイ……? なんでこうなったか原因は分かるか?」
「今必死になって考えてるッ! 今使ったDRAGは霧咲黄依のか蕗衿華のかどっちだッ⁉︎」
「おそらく……エリカの物の筈だが……ッ!」
「クソが……余計に理解できない……ッ!じゃあ、霧咲お前の特異能力はなんだッ!」
青磁先生の焦る声と黄依ちゃんの声が聞こえる。
「万物の加速をする『速度累加』と衝撃を遠くに伝える『僻遠斬撃』」
先生が何かに気付き驚くような声を上げた後、何かを思い切り叩く音が聞こえた。
「……ッ! それはまさかとは思うが『二つ特異能力』が有るという事じゃないだろうな……?」
「……そうだけど……?」
黄依ちゃんの何か嫌な事を察したような声と青磁さんの怒鳴り声が聞こえた。
「何故それを言わなかったッッッ!」
「おい……まさかセンセイさっき言ってたそれって」
「あぁ……! 『特異能力"が"二つ目まで』なら大丈夫だって……! そう言ったつもりだったが……!」