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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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スキャーリィ編 29話 特異能力2

 あれから一時間、ぶっ続けで特異能力エゴに慣れるための練習をした。


「『速度累加アクセラレーション』ーー!」


 その結果、一瞬で何百メートルも先に辿り着けるようになった。しかし、止まる際のラグで好きな所に止められなかったり、うまく調節できれば簡単に着地できる筈なのにどうしても着地に筒美流奥義を使ってしまう変な癖のようなものができてしまっていた。


「イタタ……」

「……うーん。急ごしらえにしては充分すぎるくらいだけど……」

「これじゃあ黄依きいちゃんみたいに人に対して特異能力エゴを使えない……『花間かかん』を使っていた時よりかは全然疲れないで済むんだけど……」

「そう……じゃあ考え方を変えてみようか……この特異能力エゴの本領は人や物にも作用するところ。例えば先日思いついたこんな使い方」


 黄依ちゃんが私の体に触れた。


「『速度累加アクセラレーション』ーー重力増加ナインポイントエイトオーヴァー

「うおっ」


 瞬間、自分の身体が重く下に引っ張られ、全身が地面に突っ伏す。


「結構キツイ……身体が重い……動けない……」

「割とこれとか原理は簡単だし、相手が道具や感情生命体エスターなら加減は必要ないから紅葉もみじにもおすすめできる……」


 黄依ちゃんが指をパチンと鳴らすと、かかってた重力が消える。そして、彼女はその辺に落ちていた小石を拾う。


「あとはこれだけでもいい遠距離攻撃になる」


 彼女は小石を投げ、離すと同時に『速度累加アクセラレーション』を小石に発動させる。


 瞬間、空気を切るような音と共に海の方へ小石が飛んでいく。そして、小石が海を割りながら遠く彼方の方へ消えていった。


「おぉぉ……」

「まぁこんなもんよね、能力の汎用性が高い分きっと工夫次第で色々な使い方ができるわよ」

「ほむぅ……」

「それに『僻遠斬撃リモートインパクト』を掛け合わせれば……」


 黄依ちゃんは海の方に身体を向けて空中を殴った瞬間、ここら一帯の海水が弾けた。


「こういう風に見えない攻撃を瞬時に仕掛ける事ができる。それに『速度累加アクセラレーション』のお陰で相手にどんな特異能力エゴか悟らせる前に『僻遠斬撃リモートインパクト』を当てる事ができる」

「なるほどね」

「試しにやってみなよ、ここならやっても多少は問題無さそうだし」

「うん」


 全身の力を抜き、衝撃波を出してそれを加速するイメージをする。


「『加速衝撃インビジブルインパクト』ーーッ!」


 周囲一帯に轟音が鳴り響き、暴風が起こり、海が彼方先まで割れ、かなりの量の水の粒が私達に降ってくる。


「びっくりしたぁ……うわぁ……びしょ濡れ……」

「……やっぱり、こういう力押しのほうがあんたの性にあってるわよね」

「なるべく調整しながらやってこれだから、周りを巻き添えにしないようにしなきゃ……」


 ふぅと息を吐くと驚くような視線を黄依ちゃんから感じた。


「それにしても、これだけ訓練して全然疲れてないって、凄いわね」

「この時の為にずっと耐えて、鍛えてたからね」


 私は胸に手を置いた。


「その臓器の話?」

「うん」

「なるほどねぇ……」


 彼女はそのまま息を吐いた。


「とりあえず、続けられるだけ続けましょう。それにまだ衿華えりかDRAG(ドラッグ)も使わなきゃでしょ?」

「ははっ……ほんとやる事おおいね」

「やらなきゃ勝てないわよ」

「……うん、やりますか」



 ……そして、しばらくそれの練習を続けていると遠くから私達を呼ぶ少女の声が聞こえてきた。


「うぉぉーい! モミジ! キイ! こんな朝早くから何やってんだぁ?」

踏陰ふみかげ先輩?」

「ふみふみちゃんか」


 アホ毛の生えた眼帯をした少女がこちらに歩いて来たのだった。


「あぁ……キイの特異能力エゴの確認か。なるほどなぁ」

「うん……なかなか難しくて」

「ほーん、私は生粋の天才肌だから感覚で全部できるが」


 影を自在に操り、こちらにアピールをしてくる。


「うわうざ」

「でもまぁ練習も大事だ。またあいつと対峙する時になるまでにはモノにしておけよ。それと、エリカのDRAG(ドラッグ)を使う時になったら呼んでくれ。また暴れないように抑えなきゃならないからな」

「えっ? 私暴れてた?」

「うんかなり暴れてたぞ」


 そうか、また私は周りに迷惑を……


「いやまぁ、迷惑かけてるとか思わなくていいからな。現状、『恐怖スキャーリィ』ーーあの特異エゴ感情生命体エスターに相性的に敵いそうなのがお前しか居ない。だからこれくらい先輩ズラさせてくれ」

「ふみふみちゃん……」


 私はあまりの嬉しさに彼女に飛びつく。


「うわっー! なんだよ! モミジマジでそっちの気があるやつなのか?」

「えっそうだけど?」


 頭をわしゃわしゃと撫でながらそういう。


「当然のように返すのやめろ! うわぁー! やめろやめろっ! 私は愛玩動物じゃないって言ってるだろ!」

「ちっちゃくて、もにもにした身体触るの気持ち良いなぁ……ねぇ今度私の部屋でお泊まり会しようよ!」

「未成年を何に誘ってんだこの馬鹿ぁ!」


 黄依ちゃんに怒られたと思った瞬間、あの男の声が聞こえた。


「ほぅ……お泊まり会とな……所でこの僕既に成人済みなのだが、ところかなめも参加していいかい?」


 何故か砂浜からニョキと所要が生えてきた。


「二度と同じ事ができないようにぶっ潰してやる」


 しかしどこからともなくと現れた白夜はくやくんに一瞬にして拐われたのだった。


「白夜くぅぅぅん⁉︎ 何故ここに⁉︎ てかそれはちょっとハードなプレイすぎるよ!」

「死に晒せェェェ!」

「アッ! おふんっ! これ意外と痛気持ちいかも!」

「ふざけんナァァァア!」


 遠くの方から気持ち良さそうな声と悔しそうな声が聞こえてきた。


「百合の間に挟まる男絶対に拐うマンだ!」

「誰か今の光景説明して」

「いや、知らんがな」


 今のは見なかった事にしよう。

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