スキャーリィ編 27話 約束
あれからどのくらいの時間が経ったのだろうか。私がDRAGを使ってから何時間も経っただろう。あのまま私は気を失って、今に至る訳か……みんなに迷惑をかけて……
私は暖かい布団とやけにすべすべとした柔らかい何かの感触に包まれながら目を醒ます。
「……黄依ちゃん?」
布団で横たわる私の目の前にはパートナーである彼女がいた。すぅすぅと寝息をたてて、ぐっすりと裸になり私に抱きついて寝ていた。というか私も裸だし……
「……何故に裸⁉︎ てかここ何処⁉︎」
一旦落ち着く為に周りを見渡すとそこが病院の病室……つまりは護衛軍の関連施設の可能性が高い場所である事がわかった。
「おーい、黄依ちゃーん。目を覚ましてー」
気持ちよさそうに寝ている中悪いけど、身体を少し揺らして彼女を起こす。
「……ん……紅葉……起きたの?」
「うん……おはよう……ていうかこの状況何?」
「えっ……? あーうん、寝る時いつも私裸じゃん。それにお風呂で紅葉の身体洗わせて貰ったしこの部屋しかないって言われたしあんたなら良いと思って……」
少し恥ずかしがりながら彼女は言う。確かにこの病室にはベットが一つしかない。
「そうだったね……って今何時くらいなの?」
「寝過ぎてなければ夜だけど……」
布団の中でゴソゴソとし、黄依ちゃんは携帯電話を取り出す。
「午前2時くらい。紅葉大体10時間くらい寝てたわよ」
「結構寝ちゃってたね……すっごいスッキリした。でもお腹ペコペコ」
ぐぅとお腹が鳴る。
「こんな時間に何か食べると流石に太るわよ? その辺の空気に充満してるERGでも吸ってなさいよ」
「いやいや、仙人か! というかそれ私のお爺ちゃんか!」
「……ふふっ冗談よ、寝る前に台所借りて野菜スープを作り置きして置いたから。炭水化物はさっき言った通りERGで代用できるよね?」
「うん。流石、黄依ちゃん。気が利くね」
私は布団から出ようとする。しかし、彼女に抱きつかれそれを止められた。
「…………どうしたの?」
「その前にさ、何があったか話してよ……」
「そうだね。……そうするべきなんだろうね」
ふぅと息を吐き、もう一度布団の中に戻る。
「改めて言うのもキツいんだけどさ、衿華ちゃんが私を守る為に命がけでDRAGを使ったんだってさ」
「聞いたわよ。全く、あんたといいあの子といいほんと馬鹿ばっかよ。残されたこっちの身にもなって欲しいわよ」
「でもこうするしか方法は無かった」
「そうみたいね。でも、私は凄い悲しかったわよ」
黄依ちゃんは普段見せない潤んだ瞳になる。
「泣かないで……衿華ちゃんならきっとそういうよ」
私も衿華ちゃんの気持ちを考えると胸が裂けそうになるほど痛くなる。
「あの子、とても強いものね。私もあの子にどれだけ助けられたか。どれだけ、あの子の存在に勇気づけられてきたか……」
「うん。あんな心の優しい子滅多に居ないよ……」
「……ねぇ紅葉、一つだけ言っときたい事があるの」
黄依ちゃんが私の瞳を覗いてくる。
「あの子はあの子の意思があってあんたを助けたのよ」
「……」
「衿華が死んだ事に対して、あんたが気を負う必要はない。それを負うべきなのはあの場に居た……いえ、この任務に参加した全員なんじゃないかしら?」
「もしそうだとしても、私は自発的にそれを辞めていい訳じゃ無いと思うんだけどな」
「確かにそうね……でもさ、生き残った人たちはあんたが気を失った後も前を向いて、あの感情生命体を倒す為にずっと作戦会議をしていたわよ」
みんなあんなに恐ろしい目に遭ったのに、どうして……?
「特異能力者でも無かったあんたがさ、覚悟を見せてくれたからだよ」
「嘘……⁉︎」
「ははっ……嘘じゃないわよ。だから、もう落ち込んじゃだめだよ。今はあんたが希望なんだから。シャキッとしなさい! また感情生命体に感情を支配されるわよ?」
いつもは撫でる側だった私が黄依ちゃんに頭を撫でられている。
「でも……こんな事になるまでどれだけ人に迷惑をかけたか……!」
「それはそれ、これはこれ。私が言えることはそれくらいしかないから」
それでも気持ちに整理が付かず、私は泣いてしまう。
「あららら、仕方ないなぁ……今はいっぱい泣きなよ。大丈夫。私だけは味方でいるから」
「ねぇ……ずっと苦しくて黙ってた事があるの」
思わず溢れ出そうな心の奥の奥に仕舞い込んだ、あの時以上に最悪な過去。
「やっぱりね……お姉ちゃんの話だけな訳無いと思ってたよ。それ話せそう?」
「無理だよ……いくら黄依ちゃんでも。だけど、私の事信じて欲しい。私はみんなの味方だから」
「そっか……話せる時になったら話しなよ。大丈夫、私は最後の最後まで生き残ってやるから」
「約束だよ?」
「うん約束」
彼女は笑い泣きながら小指をたてて私とそれを結んだ。