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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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スキャーリィ編 25話 依存1*

 歯に当たり、それが砕けた瞬間口全体に粉のような感触が広がった。無味で柔らかい舌触りに、形容するとすれば甘い匂い。


 それは黄依きいちゃんの匂いだった。


 そして、既に視界が先程の船室ではなく、暗く深い空間にいる事に気付いた。


「幻覚……?」


 目を擦るとまた景色が変わり、少し古びた家ーーそのリビングらしき部屋に私はいた。辺りにはかなりの数の酒の空き缶や空き瓶。煙草の臭い。


 そして、ほとんど居なくなってしまった外国人の30代くらいの男性が酒に酔っていたのか眠りこけていた。


「これは黄依ちゃんの過去……?」


 そして彼女自身から聴いた特異能力エゴの発生原因となった出来事トラウマでもある。


 そうか……彼女は後天性の特異能力エゴの発言者。彼女と同じ過去を追体験する事で、私がその特異能力エゴを獲得できるのか。


 よく周りを見渡すと、家具などのサイズが大きく感じる。


「……まさか」


 自分の身体を見ると、まるで子供のような……そして先程から視界にチラチラと映っていた髪の毛が金色である事に気付いた。


 周りに鏡がないか探す。リビングには無さそうな為、風呂場の方に行く。そして、そこには鏡が有った。


「やっぱり……」


 そこに映っていたのは私の姿ではなく、どこか見覚えのある外国人の10代前半の少女……おそらく特徴的には白人と呼ばれる人種だろう。その子の姿が映っていた。


「これが昔の黄依ちゃんの姿……」


 するとリビングの方から先程の男性らしき人の声が聞こえてきた。


「オィ〜! 黄依ィッ! どこに行きやがったァ〜! 早く酒持ってこい酒ェ!」


 身体が否応無しにビクッと反応してしまった。おそらく、この身体に刻まれた恐怖の反応なのだろう。そして身体が自分の意思とは関係なく勝手に動き、リビングへと戻り冷蔵庫にあるお酒を一つコップに注いで彼に渡す。


 私が今から起こる事に介入する事は不可能か……


「遅いんだよォッ! お前も俺を見下すのかァッ!」

「そんなことないよ……パパ。……誰もパパを見下してなんて……」


 同じく勝手に口走る言葉。そして否定される。


「ならなんでずっと側に居ないィッ! 俺の事が大事ならずっと側に居てくれてもいいじゃないかッ! アイツだって……定火ていかだってッ!」


 彼は拳を机に振り下ろし大きな音を立てた。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 口に出したのは懺悔の言葉。しかし、この感情はやはり……


 家族への『依存』。この頃から黄依ちゃんは壊れていたのか。


 彼女父親らしきその人物は何故かこの身体の頭を撫でた。


「別に謝って欲しくてこんなことしたわけじゃないんだよなァ……ごめんよォ〜……」


 頼られて嬉しいそんな感情が私を襲う。ここまでは黄依ちゃんに聞いていた通りの出来事……


「そうだァ……最近、黄依また背ェ高くなっただろォ〜? よく見せてくれよその身体ァ……」

「……ッ⁉︎」


 問題だったのは彼の発言もそうだったけど、この身体が起こした感情と行動だった。


 この身体は嬉しそうにし、服を脱ぎその父親にキスをしたのだった。酒と煙草の臭いが混じったものが鼻を突き抜け、不快感が私を襲う。そのくせ、余計に興奮しようとするこの身体に私は怖さを覚えてしまった。


 私の時よりもっと酷い……葉書お姉ちゃんは私の為にそれをしてくれた行動なのに……黄依ちゃんはこの年齢で自分から……


 聞いてないよ……こんな事ッ……! いや……言える訳無い……だって私だって話した時相当苦しかったから……


「よしよしィ〜いい子だァ……!」


 そして、その酒を飲み過ぎて震えた手に触られた。


「っん……」


 鳴くように口から出る小鳥のように甲高い声。


 高鳴る鼓動、熱くなる身体……


 そして、そこから先は数時間記憶が無くなるほど犯された。


 最悪で、最低な時間……それでも彼女は自分にそんな役割がある事を知って、悦び、喘ぎ、自分から身体を預け、相手を喜ばし、そして果て、眠りに落ちた。


 全てが終わった頃には客観的に体験していた私でさえも、その感情に心を犯され、自分が誰だか分からなくなり、その男に愛着が湧く程だった。


 しかし、私をより壊したのはこれまでの行動ではなく、これから起きるであろう、彼の自殺だった。


 目を覚ました瞬間、視界映り込んだのは首を吊った彼の姿。そして、死にたいという欲望が充満した空気。直ぐにでも死喰い樹(タナトス)の腕がきそうな程の『自死欲タナトス』。


 パチパチと脳から音が出ているような感覚。身体の中身が変わっていっていくような感覚。必死に抗おうとすればする程、逆にその感情に流されていく。


 しかし、私はそれでも抗い移植した臓器を身代わりにする。きっと葉書お姉ちゃんも許してくれるだろう。


 そして、『絶望』と『喪失』の狭間でよりこの『依存』という感情が強くなり身体を動かす。そして、生存本能で火照る身体。


 ぐちゃぐちゃになりそうな感情の嵐中で、家を飛び出す。


『依存』、『耽溺』、『嗜癖』、『中毒』


 脳を犯そうとする似た感情達。その中で煌く『失いたくない』という気持ち。


 そして、速くなる景色。あらゆる法則を無視した加速。空気抵抗だろうが、摩擦熱だろうが、全てをねじ曲げ現界する超常現象。


 これが特異能力者エゴイスト。これが彼女達の特異性。


 しかし、彼女の場合もう一度これ以上の地獄を体験する事になる。


 それを知りながら、私は今はただこの『依存』に耐えながら自分を保っていた。

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