スキャーリィ編 22話 償い4
「貴方ねッ……! 言葉ってのを少しは考えなさいよッ!」
怒りを抑えながら、青磁先生に向かって言う。
「てめぇもだろが馬鹿」
「は?」
「お前はよ、どうせ今回も自分のせいだとか抜かした事言ったんだろ。声色で分かるんだよ……そんな事くらい……」
彼の口調が真剣になり、続けて説教のようなものを聴かされる。
「てめぇがそんな発言して周りの人間がどういう風に思ってきたか分かってるのか? 」
「そんなの今関係ないでしょッ⁉︎」
「関係ない訳無いだろうが馬鹿ッ! 実際てめぇは俺様にキレたじゃねぇか! てめぇのそういう発言は人をどんな気持ちにさせるか考えたことあるのかよッ! 今お前が俺様に対して感じた感情は自分が正統性のあるものだって思ったから、怒っているんだろッ⁉︎」
周りを見渡すと天照さんと蘇芳ちゃんが私を睨みながらどういう感情を持てばいいのか分からない表情をしていた。
「分かったか? ちゃんと理解したか? てめぇは周りに心配ばかりかけるロクでなしなんだよ。だがもしそれでも、周りにこれだけの怒りと悲しみを撒く事への認識と覚悟があるなら、DRAGを使おうが俺様は止めはしない。周りの奴等にも納得が出来るような説明をしてやる」
掌にある二つのDRAGをチラリと見る。人間を感情生命体にしてしまう薬……
分かっていたとしても、再認識すればするほどこれが怖くなっていく。
「だが、本当に周りの人達の気持ちを測らないで、てめぇがこれから背負うであろう業を無視して、ただの便利な道具としてそれを使おうとするなら、絶対にやめておけ。俺様みたいになるぞ……」
彼がこんなまともな事を言う人間には思えなかったが、性根までは腐っていない事は知っていた。だから、より彼の言うことが私の胸に刺さった。
「分かった……分らせてくれてありがとう。でも、私は使うよ」
「そうか、じゃあ携帯を周りの奴等にも俺様の声が聞こえるようにスピーカーモードにしろ」
耳から外し、携帯の画面を押す。すると、青磁先生の声が辺りに拡散されて、二人にも聞こえるようになった。
「……何かロクでもないケンカ話をしていたように思えるけど大丈夫なの?」
「実際ロクでも無いだろ……だっておそらく今から話す相手は大本を辿ればそいつに繋がるような人間……」
名は割れていなくても、護衛軍なら彼の存在を一度位は考えた事ある筈。
「紹介します……この人がDRAGの開発者……色絵青磁よ……」
「ハロォ〜! 合同任務中に俺様を呼ぶとはお前らも最高にイカれてんなぁ……! はっはぁ〜! そう俺様こそ、全ての元凶にして最悪の研究者ッ! 色絵青磁だ……! よろしく頼むぜ」
挑発するような嬉々とした声が携帯電話から流れてくる。
「こいつがDRAGの開発者……」
「色絵……という事は紫苑の家族ね……行方不明になっていた弟さんってところかしら?」
「正解〜! という事はお前は姉さんの同期の女……天照輝ーー護衛軍大将補佐か……また随分と大物がいるな……それで……もう一人のガキは誰だ? 俺様も立場が立場だし、信用できる立場の人間じゃないと話したく無いんだが」
「随分と好き勝手言ってくれるなぁ……そこは心配要らないよ。私は護衛軍一佐官ーー踏陰蘇芳」
「なるほど……じゃあ、お前があの護衛軍のエースか……了解〜! んじゃあとりあえず要点だけ話そうか……!」
「その前に一ついいか……センセイ?」
蘇芳ちゃんが話を遮る。
「どうぞご自由に〜」
「何故、カミヤコウのDRAGが流出した……? アイツは普段DRAGを持ち歩いていなかった筈だけど……」
「……」
不味い……それじゃあ、青磁先生が樹教に潜入している事がバレてしまう。
そうか……DRAGを作れるのは世界で唯一青磁先生だけ……
それを知らない蘇芳ちゃんでも、そもそも特異能力者の母数が少ないのは知っている。だから、生産に関わっているのは多くて2,3人程と考えるだろう。そんな中、青磁先生は開発者なのだからDRAGの管理をしているのではないかと疑われたのか……
不味いこのままじゃ……
「ほーん、んで何?」
「センセイが『奴ら』に流出したんじゃないかって思ってね。信用できないのはそっちもでしょ?」
「……エースちゃんが俺様を信用しないのは構わないが他の人がいる中でそういう質問の仕方は良くないなぁ……どう答えたって俺様の信用を損ねてしまう。それに誰だよ『奴ら』って。俺様、護衛軍の勢力関係とかあんまり詳しくないからさよくわかんないんだよね〜。あと……カミヤコウくんだっけ? その人の事もよくわかんないんだけど」
「……」
しらばっくれた……⁉︎ まぁ確かに知らないフリをしていた方がそれっぽいけどさ……
「ふーん、あっそう……まぁいいや。ごめん忘れてくれ、センセイ。話の続きを」