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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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スキャーリィ編 19話 償い1

 目が覚めた時にはもう全てが終わっていた。


 周りを見渡すともうすでに船は港が見える所まで来ていた。皆んなさっきの攻撃でかなり消耗し、中には先程までの私ーー筒美つつみ紅葉もみじのように気絶している人さえいた。あんな状況で、誰が船を運転したのだろうか……そして、先程まで船上に十数人いた軍人達は半数以上も減っている事も分かった。それに……


衿華えりかちゃん……」


 私は気を失う前の事を必死に思い出す。


 船上にいた全員が感情生命体エスターの『衝動パトス』によってピンチになっていた時、衿華ちゃんは私に対して特異能力エゴを使った。そして、私は気を失った。


 色々な記憶違いが有るにせよ、それが起きたのは夢では無く本当の事だったのだろう。


 そして、衿華ちゃんがそんな事する理由なんてたった一つしか思い付かない……


「紅葉ちゃん……気が付いたのね」


 声をかけられた先には妊婦の女性ーー天照てんしょう大将補佐がペタンと甲板の上で座っていた。


「酷い闘いだったわね……」


 彼女は海の方を遠くボーっと見ていた。


「ねぇ……私、貴方に言わなきゃいけない事があるの……」


 さっと立ち上がり、近くにあった船室……操縦室の方へと歩いて行く。


「付いてきて、ここでは話せない話なの」


 私は『今はそんな事より』という言葉を必死に押さえて立ち上がり、彼女について行く。


 船室に入ると、『衝動パトス』の影響で泡を吹いて床に倒れていた名前も知らない船の操縦者らしき男性と眼帯をした少女ーー踏陰ふみかげ蘇芳すおうちゃん……通称『ふみふみちゃん』がいて席に座り船を操縦していた。


「モミジか……無事で何よりだ」

「無事だったんだね……蘇芳ちゃん……」


 最年少の彼女の無事を安堵すると共にさっきから渦巻いていた衿華ちゃんへの疑念が溢れ出てしまう。


「ねぇ……衿華ちゃんは?」

「……」

「……そうよね」


 二人は俯き表情を苦くし、数秒経った後、天照さんが喋り始めた。


「あの子は私達の為に命をかけてまで時間稼ぎをしてくれたのよ」

「……そんな事は分かっています! そうじゃなくて……! 衿華ちゃんはどこに居るかって聞いているんです!」


 唇を噛みながら、まるで自分を呪うかのように彼女は言った。


「分からないの……? あの子がここにいる訳無いじゃない……」


 すると、蘇芳ちゃんが口を開く。


「そりゃそうだろが……モミジにかかってたエリカの特異能力エゴが解けたからお前が目覚めたんだよ……」


 彼女の言葉が刺さり、自分の中でグルグルと回る。そして、脳と耳との間で何度も何度も間違いはないかという信号が行き交う。


 特異能力エゴが解けたって……それはつまり使用者に何かあったって事……


 おそらく、力を使いすぎて特異能力エゴを維持できなくなったのだろう……


 もし、そんな状態であの感情生命体エスターと対峙したのなら……


 衿華ちゃんはもう……


 理解して、膝を崩し、頭を抱え後悔した。


 私は彼女に償えきれない程の罪と迷惑をかけた。甘い言葉で囁いて、あまつさえ私への好意を向けさせ、自分の願い(エゴ)を叶える為に利用した。それなのに友達と呼んでくれた彼女は私を守る為に……


「死んだ……」


 現実を理解して、言葉だけが私の中に反芻する。


 死んだ、死んだ、死んだ……


 また、死んだ。


 それを無くす為に命をかけてきたのに。二度と葉書はがきお姉ちゃんみたいな人が出ないようにする為に私が強くなったのに。


「肝心な時に私は……また何も出来なかった」


 あぁ……なんて惨めなんだろう……


 どうしていつもみたいに『死にたい』って思って自分を責めることができないんだろう。


「モミジっ……私さ……お前らの事羨ましかったんだよ。いつもさ、仲良く三人で……困った時は背中合わせて闘って。そんな友達が私も欲しかったって……実際お前らと少しだけでもつるむことができて嬉しかったんだよ」


 蘇芳ちゃんの顔をよく見ると、酷くやつれた顔をしていた。


「もっとちゃんと上司として注意しておくべきだったよな……私がエリカ達に任務に来るなって言うべきだったよな……?」

「そんなの……年長者のくせに貴女達を守らなかった私の方がどれだけ罪深いかっ……!」

「違うよ……」


 どうして……? 全部悪いのは私だよ! なんでそんな事を……


「頼む……モミジ……私を恨んでくれ……」

「やめてよ! そんな言葉聞きたくない。悪いのは近くにいて守らなかった私なの!」


 気付けば心が荒んでいくのが分かった。


 互いにこれ以上言い争いをしたって無駄なのに、業を背負って、そうやって生きて、大切なモノを失って……


 私達はそうやって生きていかなくちゃ人並みに人生を歩んじゃういけない……そんな気持ちに駆られていつまでも自分を責め続ける。


 私は葉書お姉ちゃんを失ったトラウマと衿華ちゃんにしてしまった罪。衿華ちゃんにとって私が『筒美紅葉』で無ければ彼女はそもそもあんな行動に出るほど状況を理解できない人間じゃなかった。その筈なのに、私がそうさせてしまったという罪悪感。


 蘇芳ちゃんはこの任務の部隊に私達を選んだ責任感。そして彼女の中には様々な案があった筈だ。しかし、予想しきれなかった『衝動パトス』の存在、その結果半数以上の部隊の死亡を招いた。そして、彼女から見れば私にとって衿華ちゃんは『かけがえのない親友』。それを間接的に奪ってしまった事への罪悪感がこの取れるはずのない責任を取ろう突き動かして、これだけ必死に訴えているのだろう。


 天照さんは任務に参加した人間の中で一番実力、経験、立場が上位であったことへの責任。そして、それなのに妊娠という免罪符を抱えてしまったこと。全力を尽くせばこんな惨い結果にはならなかった事への罪悪感。


 各々の感情は全て罪悪感で、どれも変わらず自分のエゴイズム。理解していても止めようとしないのは最早、人間……そして特異能力者エゴイストの性だった。


 そして、そんな途方もない意見の押し付け合いが終わる。


「もうやめよ……蘇芳ちゃん、紅葉ちゃん。ここで私達の誰が責任を負ったって、衿華ちゃんは報われない。それにあの子がどんな気持ちで『裏切った』なんて言ったか貴女達には分かるの?」


 裏切った……?


 その言葉に私は過剰に反応した。


 何せ心当たりがあったから。


 私はあの感情生命体エスターに関わっているであろう樹教に潜入している人物を知っているから。


「そんなの……エリカの気持ちが簡単に分かるなんて口が裂けても言える訳が無いだろうが!」

「ねぇ……それどういうこと……?」


 その瞬間、場の空気が凍てついた。それは私の出した声がもはや形容出来ないほど、酷く震えた声だったから。


「まさか衿華ちゃん……自分が樹教のスパイとかそういう嘘をついたの?」

「あぁ……そうだが……何故それを」


 何かが原因で彼女が『裏切り』を偽ったのであれば、理由が有るならあの日ーー瑠璃くんと会った日が原因に違いない。


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