スキャーリィ編 15話 エリカ4
触手を引き抜かれ、衿華はその場に倒れ込む。酷い血の量と身体の穴、そして痛み。それでも、また触手が衿華に這い寄る。
途端にずっと放たれていたアイツの『衝動』が止まった。
そういえば、アイツが『衝動』を放っている間、特異能力を一切使用してこなかった。
触手の模様を衿華に見せつけるようにして、貫かれた穴に触れた。
まさか……
「!ahahahayg『♪scimanyd☆diulf』」
この感情生命体の元となった特異能力者は香宮洪。
水及び水分を含む液体を液状のまま自由に操る特異能力の持ち主だった。
その特異能力を使い直接触れる事によって、衿華の血液を弄び、穴から血が吹き出ないように、器用に心臓だけをうまく圧迫し負荷をかけ鼓動させる。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
つまりアイツは勝ちを確信して、衿華で遊び始めた。いつでも殺そうと思えば殺せるのに。衿華を死への『恐怖』に染めて、よりその生存本能を満たす為に。
いっその事、一思いに殺してほしいと願いたくなるが、こんな死にかけの今の状態で『死にたい』なんて考えたら、死喰い《タナトス》の腕が飛んでくる。それにまだ衿華に対して死喰い《タナトス》の腕が来ないなら、時間を稼ぐ為に戦わなければいけない。
肋間神経痛のような、まるで心臓を強く誰かに握り締められているような激痛を伴う動悸のせいで身体が動かなくなっていく。
息苦しい。
しかし、呼吸をしてもこの苦しさが続く。
「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
肺に入った筈の酸素に血液が結合してくれないのか……
もう……駄目だ……
意識が……
視界が暗転する。妙に落ち着く感覚が続いた後脳裏には見知った映像がちらつきを始める。
一瞬走馬燈か何かだと思ったが、それはいつも聞き見て感じる知っているけど知らない映像。DRAGの使用によって起こった脳が割れるような感覚とその映像のフラッシュバックが強くなっていく。
それは衿華のいつもみる夢のようだった。
歳を重ねた女性。衿華の手を握る皺のある手。
夢と違うところはその人の顔がハッキリと見えた事。
凛々しく意志の強い瞳、老いのせいで少し顔に皺があるが若ければより美人であったであろうその顔。そんな評価をして恥ずかしいのだが、少しばかり衿華に似た雰囲気を持った女性だった。
衿華に向けて語りかける元気つけるような優しい声。
「衿華……衿華……貴女は大丈夫よ」
さっきまで苦しかった感覚が消えていく。
「あなたは……一体誰?」
「私は貴女の祖母。蕗羽衣。10年前、あの事件で死んだ元護衛軍の大将補佐よ」