スキャーリィ編 14話 エリカ3
衿華の特異能力が発生した瞬間、脳みそにヒビが入ったような感覚に襲われる。もはや、痛みとすら形容出来ない、そんな感覚。だから、これに衿華の特異能力は効かない。
これが、感情生命体になるという事……自我が薄れて、『感情』だけになっていく。だけど、その『感情』が衿華を強くする。『憧憬』がここに立つ勇気をくれる。
キラキラとした感情が衿華を包み狂わせ狂おしい程愛おしい『憧れ』だけになっていく。
「!raef@decrof#uoy←evig*I☆lla$ko」
低く唸る感情生命体。あの気持ちの悪い触手が衿華に這い寄る。
筒美流奥義ーー序ノ項対人術『花間』、そして破ノ項攻戦術『桜花』
今までの衿華には絶対に使えなかった筒美流奥義破ノ項。DRAGを使用した副作用で衿華の体内のDAYNが増えたから使えた抜け道のようなもの。あれだけ努力しても成功しなかった技が今になって放つことができるようになった。
触手による攻撃を避けると共に、そこへ拳による打撃を叩き込む。
「今度は直に流し込んでやるッ……! 『痛覚支配ーー精神崩壊ッ!」
衿華の特異能力は身体に対して損傷を与えるものではない。だけど、感情生命体相手ならこういう使い方もできるッ!
触手を切り離したくなるほど狂いそうになる痛みを送る触手だけに送る。此方に攻撃力が無いのなら、相手に自分を攻撃してもらえれば良いッ!
触れた一本の触手が硬直をくりかえしながら、海に向かって殴打を繰り返す。
「aaaaaaaaaaaaaaaa」
叫び声と共に怒り狂っているのが肌で感じとれる。そして、感情生命体はその触手を多数ある触手を使い、引き抜いた。
「!aaaaaaaaaaaaaaaa/!elbavigrofnu&elbavigrofnu&!elbavigrofnu&!elbavigrofnu&!elbavigrofnu&!elbavigrofnu&!elbavigrofnu&!elbavigrofnu」
「よし……まずは一本……!」
安心した瞬間、またもや先程の頭にヒビが入る感覚がする。そして、何かフラッシュバックのような光景が衿華の脳裏に広がった。
「こんな時にッ……!」
油断すると意識を持っていかれそうな感覚がする。そういうことか……これがDRAGの恐ろしいところ。
何もかもが衝動によって動かされてしまう。理性が無くなっていく。したい事が分からなくなっていく。
もう一度、奮い起こさなければ。衿華がなんの為に闘っているかという事を。
衿華は……衿華は……私はッ!
「『憧れた』あの子を笑顔にしたいから闘っているんだ……邪魔をするなッ……!」
声が空を切り、体はズタズタ。でも動く。
動くならば、目の前に立つ恐ろしいコイツを止めなければいけない。
しかし、現実というものは非常であった
もし、この世に神様が居るのなら、その存在を呪うほどに酷い光景だった。そんな覚悟とは裏腹にずしんと身体が重くなるような『恐怖』が衿華に襲う。
「再……生……?」
感情生命体の触手が千切られた部分の肉がプルプルと動き始め徐々に細長く形を形成していく。元通りのあの気持ち悪い蓮の実のような顔達も元に戻る。
「!yracs/!yracs/!yracs#ma@i」
恐れろと言わんばかりの咆哮。最悪な光景。
そして、一瞬の『恐怖』。それが全ての命取りとなった。
熱い。最初はその感覚だけ。
しかし、徐々に違和感がお腹を満たしていく。
視線を下げると原因が分かり、思わず声が洩れた。
「あっ……」
お腹に触手が貫通していた。
「あぁ……」
痛みが、痛いのが、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 怖い、怖い、怖い!
特異能力、そうだ衿華の特異能力を……
なんで……? 『痛み』が止まってくれないの?
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
『痛み』と『恐怖』で頭がいっぱいになる。
内臓をもろごと貫かれた痛み、いや違う、これは衿華の『恐怖』を『痛み』だと看破して、より『恐怖』による『痛み』増幅させている。
「!ecaf@taht#was♪yllanif☆I/!ah&ah&ah&ah」
ご満悦そうに感情生命体はケタケタと笑った。