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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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スキャーリィ編 12話 エリカ1

 勿論、衿華えりかには彼女達を裏切る気なんて、さらさら無かった。


 なるべく声を震わせないように、演技だってバレないように。最低な女だって思わせる為に。


 彼女達が衿華を見捨てたなんて言わせない為に。


 記憶にない誰かから教えて貰った花言葉の意味を使って。


 そして、この嘘には心当たりがあった。


 護衛軍には樹教の工作員がいる、それは本当の事なのだろう。だからこの嘘は、信憑性を増す。


 今回の合同任務にしてもそう。誰かが手引きをした結果、軍内部の人間が特異エゴ感情生命体エスターになりこんな大惨事を引き起こした。


 その結果、少なくともこの任務に参加している人は護衛軍内部に工作員の存在を疑っている筈。


 衿華がこの事に疑念を持ち始めたのはあの日、紅葉もみじちゃんが本当の笑顔を取り戻した日。彼女の祖父、筒美つつみ封藤ふうとうさんは色絵しきえ青磁せいじさんに言っていた。


『樹教の件で来た』と。


 表上、唯の信仰宗教の調査に護衛軍を引退した筈の元大将。そして、図らずも特異能力者エゴイストを強化し、感情生命体エスターを人工的に作る事のできる研究者が関わっていた。


 あの二人……いや話の内容からしても現大将も知っているのだろうか? だが、他の幹部を通さないで裏で情報共有をしていた。そして、紅葉ちゃんの祖父は衿華達を信用し、それを伝える為に情報の上辺だけを話して衿華に推測させた……?


 という事はあの場に居なかった幹部級の人間にすら言えない込み入った事情があったか、それとも幹部級の人間に工作員がいる可能性があるという事。


 真偽はどうにしろ、護衛軍の中に工作員がいるという事をきっと賢い蘇芳ちゃんなら潜入調査員の存在を予想しているかもしれないし、衿華がこれを言うことで確実に理解をするだろう。


「エリカ……まさかお前が樹教のッ!」


 蘇芳ちゃんのその反応を見て、内心ホッとする。だけど、その衿華を見る目は敵意、もしくはそれすらも嘘なのでは無いかという疑念に変わる。


「何言ってるの……ねぇ! 衿華ちゃんッ!」


 涙目に変わる紅葉ちゃんを見ると、心が痛む。


 でも、やっぱり貴女は笑顔が一番素敵だから、心の底から笑える日が来て欲しい。


 これで、やっと葉書はがきさんや瑠璃るりくんと同じ立ち位置になれたかな?


 あぁ……でも、もっと貴女の顔を見ていたかったな。これ以上、彼女の泣きそうで震えそうで壊れそうな声なんて聞きたくない。


 衿華は自分の唇に人差し指を当てた後、紅葉ちゃんのそのピンク色の可愛らしい唇に指を当てた。


「静かに」


 そして、彼女は意識を無くす。特異能力エゴDRAG(ドラッグ)無しで使えるのは後、一、二回が限界。


 衿華の人生で最後のキスになるかもしれないのに、一番愛おしくて一番悲しい味がした。


 これも全て衿華が弱かったから起きた事。


 ごめんね。紅葉ちゃん。

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