スキャーリィ編 11話 恐怖2
「はぁ……はぁ……衿華ちゃんこそ何をしたの……? この衝動さえなんとかすれば、戦況は一気に変わる……だから教えてッ!」
紅葉ちゃんは今度は意識をはっきりさせて衿華の目をじっと見る。
「えっ……特異能力を使っただけだよ! 頭ぶつけてたし……いっ痛そうだったからっ!」
すると、ヤツの触手による攻撃が此方に素早く飛んでくる。
「守れーー『陰影舞踏』」
「ふみふみちゃんッ⁉︎」
「油断するなッ! モミジッ! エリカッ! ゼェ……ゼェ……ッ! 特異能力やあのスピードだけじゃ無くて、衝動までッ! クソが冗談で言ったのに、想定外にも程が有るだろうがッ⁉︎ テルテルさんッ! 動けるかッ⁉︎」
「えぇ……随分とメンタルを削られたけどね……ッ! ここまで強い衝動、十年前の自死欲以来よ……ッ!」
再び、二人が立ち上がりヤツを見る。
「随分と気持ちの悪いデザインしてるじゃないッ! 香宮くん!」
「エリカッ! 私達全員に特異能力を使ってみろ! 」
「でっでも、衿華にもすぐ限界が!」
私が躊躇った瞬間もう一度、衝動が放たれる気配がし、またもヤツは怒りを露わにする咆哮をあげた。
「!siht&si@tahw」
「ッーー!」
「うぅぅう……」
頭痛がして、唸るような悲鳴が口から出る。
「アァァアアア! エリカッ! 速くッ! そうじゃなきゃ手遅れになるッ!」
「これ以上耐えられないッ! お願いッ! 衿華ちゃんッ!」
「ぅう……! 『痛覚支配』ッ!」
全員に触れ、再度特異能力の使用をした。
「はぁ……はぁ……」
「やっぱり……ッ! 羽衣さんと同じ特異能力……!」
「えっ⁉︎」
気になる事を言い放った天照大将補に言及しようとするが、蘇芳ちゃんに話を遮られる。
「手ぇ離すなよ、エリカ!」
「でも……はぁ……はぁ……速くアイツから……ッ!」
「♪sdneirf#ruoy@gnitae%pleh☆ton$nac→I」
またも、叫びだす感情生命体。そして、一瞬の内にその触手が衿華達の前に居た軍人を貫き、拘束し、口へと運ぼうとする。
「うそ……でしょ……」
「やめろぉぉぉおおおッ!」
「駄目ッ! 紅葉ちゃんッ! 今、衿華から離れたら、アイツの衝動がいつ飛んでくるから分からないッ!」
飛び出そうとする紅葉ちゃんを必死に抑える。そのまま、彼は感情生命体の口に運ばれる。
「私はッ! こんな事にならない為に来た筈なのにッ! どうしてッ! なんでッ!」
「クソがァッ! 分かったぞ……アイツの行動原理は『恐怖』!物の捉え方を全て『恐怖』で測り人間の『恐怖』を糧に生きる……それが奴の本質だッ! そして全力で私達を『恐怖』させる気だ……その為ならアイツはなんだってやる……! このままじゃ、犠牲者は増える一方……!」
次々と船の上の軍人達が触手に捕われ喰われていく中、怒り叫ぶ蘇芳ちゃん。
「テルテルさん。私にDRAGの使用許可を出せッ!」
そして、冷たく静かに言い放つ。
「は……?」
「えっ……」
「待ちなさいよ……ッ! 貴女自分が何言ってるか分かってるの⁉︎ この中で貴女が最年少なのよッ⁉︎」
「じゃあ何かッ⁉︎ 腹に子持ちのアンタが私の替わりにやってくれるって言うのかッ⁉︎ それこそ、人として最悪だろうがッ⁉︎ それか、私に後輩を人柱にしろって言いたいのかッ⁉︎ ふざけるなよッ⁉︎ 私だって人間だッ! これ以上私に何かを背負わせる気なのかッ⁉︎」
「待ってよッ! ふみふみちゃんッ……それなら……ッ!
二人が言い争いをしている最中でも、続々と犠牲者は増えていく。
必死に蘇芳ちゃんを止めようとする紅葉ちゃん。彼女の顔を見ると既に精神疲労により、かなりのダメージを心に負っている事が分かった。本来なら唯の人である、非特異能力者の彼女にこれ以上戦わせるのはもう……
それに、天照大将補と蘇芳ちゃんの二人も既に満身創痍。どちらか一人がDRAGを使い命を賭して、あの特異感情生命体と対峙しても状況が良くなるとも思えない。
なら、この状況でDRAGを使い、状況を変えられるのはアイツの衝動を無効化出来る、衿華の特異能力だけ。
衿華がやるしかないーーッ!
「『痛覚支配』」
そう考えると、自然と口を出し行動してしまった。
三人が急に足や手の筋肉が弛緩して、その場に倒れる。
「……は? エリカッ⁉︎ お前、何をしたッ⁉︎」
「動けない……ッ! まさか貴女、私達に特異能力をッ!」
「……え?」
不幸中の不幸なのか、彼女達の感覚器官や意識までは支配出来なかった。きっと、衿華を叱ろうとする言葉が沢山聞かされるんだろうなと想像した。
それと同時に、彼女達を守る為の最悪な嘘を思い付く。きっと、衿華はこれから彼女達にとって一番酷な事をする。上司として、仲間として、一番されたく無い事をする。こうしなきゃ、絶対に止められるから。私が悪者になれば良い。
「あははは……あぁ〜残念だったなぁ〜意識まで奪えたら罪悪感無しに出来たのに。……ねぇ知ってる? エリカの花言葉には『裏切り』もあるんだよ。ごめんね、今まで騙してて」