スキャーリィ編 9話 開戦2
迫る水の壁が私達の乗る船を襲う。それにてるてるさんが……いや天照大将補佐が向かっていく。
「へぇ……やるじゃない。だけど、残念そんなゴリ押しじゃあ私には届かないわよ?」
私はその呟きを聞いた瞬間、意識を天照大将補から敵本体を探す為に使う。
「見せてあげるわよ、私の力……ッ! 『環境操作』ーー絶対零度ッッ!」
周りからピキピキやらミシミシなどの異様な音がなる。
「うっ嘘でしょ……⁉︎」
衿華ちゃんの驚嘆する声が響く。
驚くのも無理は無い。だってそれはあまりにも逸脱し過ぎている……
襲いかかる筈だった周りの水の壁が凍ったのだから。
「あの量を一瞬……! これで妊娠中とか規格外でしょうが……! 流石だ……心強い!」
「みんなッ!崩れてくる氷の処理をお願いッ! 私は上から感情生命体を見つけるッ!」
凍って支え合った氷が割れ、塊となって落ちてくる。
「分かったッ!」
蘇芳ちゃんの影や周りの影から黒いERGが這い出てくる。
「周りの影は……船と氷と樹の葉の影か……! それで充分ーー『陰影舞踏』! 穿て……影達よッ!」
そして、無数の黒く大きく塊となったERGが氷塊を貫き船に向かう直前に砕け散る。
「さて、次はこの氷の壁だが……テルテルさんッ! 聞こえるよなッ⁉︎ 深さ何メートル下まで凍らせたっ⁉︎」
蘇芳ちゃんが大声で叫ぶ。天照大将補は上空100メートル以上にいる。
聴覚を強化……筒美流奥義対人術序ノ項ーー『花心』ッ!
「相変わらず要求する事が多い……だから先にやっといたわよッ! この辺一帯は凍らしたわ! 2、300メートルは確実に凍らせた! もちろん船の底も! というか、そっちこそ聞こえてるわよね⁉︎」
「モミジッ⁉︎ 聞こえたかッ⁉︎」
「うん! 周囲2、300メートルは凍らせたって! 船の底もちゃんとしてくれたみたい。でも、さっき感じた感情生命体の気配は少し無くなった……けど消えていない……! 多分逃げられたッ!」
「クソが……敵の判断と移動速度が速い! ヤツは下に潜ったか⁉︎ ……もしそうなら、今度は下から来る! 空中へ逃げるしか無い!」
船ごと空中に浮かばせるには天照大将補の特異能力がいる。しかし、特異兵仗の制約のせいであと20秒はかかるだろう。通常、特異兵仗には長時間特異能力を使う為に何かしら制約がある。天照大将補の特異兵仗にもおそらくそういう制約はあるだろう。
「テルテルさん……無理は出来ないかッ⁉︎」
上を見張っていたテルテルさんが驚き、此方に反応する。
「何、無茶させようとしてんのよッ⁉︎ 今、特異兵仗を使って出来るのは雲を作る事ぐらいよ! 貴女が持ち上げたら、上昇気流でなんとかするッ! 『環境操作』ーー曇天ッ!」
すると天照大将補の手から雲が噴射され、頭上の太陽が覆われより濃く大きな影が出来上がる。
「チィッ……こっちだって特異兵仗の制約守って体力温存はしておきたいんだよ! だが、この状況……仕方ないッ!」
蘇芳ちゃんはかけていた眼帯を取り、ポケットにしまう。そうか、眼帯が彼女の特異兵仗。という事は……
「制約を破る。さぁ……影達よッ! この船を上へ投げろッ!」
影の中から、無数の手が這い出てきて、バキバキと氷を砕きながら船を持ち上げる。やはり、蘇芳ちゃんの疲労の色が濃い。
「はぁ……はぁ……! お前らッどこかに捕まれ! この船を上に投げるッ!」
膝を突きながら彼女は船を揺らす。これじゃあ彼女は動けないッ! なら私が……!
脚力と脚自体の強度を強化……筒美流奥義対人術序ノ項ーー『花間』ッ!
「衿華ちゃん、ふみふみちゃん! 捕まって! 上に跳ぶ!」
「うっうん!」
「助かるッ!」
両手に二人が捕まったのを確認してから上へ高く跳ぶ。
筒美流奥義舞空術序ノ項ーー『風花』ッ!
足下にERGから構成された障壁ができる。それを踏みもう一度上へ跳ぶ。上空から船全体の観察をする。船の底から、またあの途方もない気配がくる。
まさか氷を割ってきているのかッ⁉︎
「みんな船に捕まった! お願いッ! ふみふみちゃん!」
「オラァァッ!」
蘇芳ちゃんによって出来た黒の手達が一斉に船を持ち上げ、そのまま真上へと突き飛ばした。
「『環境操作』ーー上昇気流ッ!」
浮遊していた船が上昇気流によって高く舞い上がり、私達は船へと乗り込む。
瞬間、鼓膜が破れそうな程な咆哮が響き渡った。既に海の上へに来たのか……!
「はぁ……はぁ……なんだアイツ……滅茶苦茶速いぞ……」
「怪我した人はいないよね……?」
「これは尉官未満じゃ対処できる案件じゃないね……」
既に船に乗って付いてきた非特異能力者の付いてくるだけでも精一杯の姿を見ると自然と言葉が溢れてしまった。
「あのまま、あそこに居たら丸呑みされてたかもしれないね」
「はぁ……はぁ……だが、これで奴は此方に近づけない……近づいたらてるてるさんの特異能力で氷漬けだ……エリカ、今の内にあっちの船に連絡しておけ!」
「今してるよっ! 大体10分位で合流できる位置にいるらしいよ!」
「まじか、助かる! じゃあ、このまま迎撃するか、待機するかどうする⁉︎ テルテルさん!」
丁度、天照大将補が宙から船上に降りてきた。
「流石に10分も温度や上昇気流は保てないわよ。限界まで引き伸ばして、そこから直接やり合おうじゃない。ふみふみちゃんはそれまで休んでなさい!」
「分かった、全員聞いていたかッ⁉︎ 今の聴いて折れなかった奴はテルテルさんの特異能力が切れ次第全員でかちこむぞ!」
すると、船に居たみんながぞろぞろと立ち上がる。
「たくっ……情けねぇなぁ……」
「俺らは護衛軍だろうがッ」
「自分より年下の女の子達が必死に戦ってるっていうのによ」
蘇芳ちゃんがフッと笑った。
「あぁ……! ここからだッ! 反撃を始めるぞッ!」