表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
75/370

スキャーリィ編 8話 開戦1

「海だ!」

「海だね……」

「海ね!」

「海だぞ」


 そう、私ーー筒美つつみ紅葉もみじは海に来たのであった。正確には遊びに来た訳ではなく、本部からバスに揺られる事2、3時間、この辺りの海域に現れたという、特異エゴ感情生命体エスターを討伐しに来たのである。


 その特異エゴ感情生命体エスターは失踪した護衛軍の軍人、香宮かみやこうと断定された。理由は簡単で、彼が持っていた特異能力エゴは水及び水溶液を自在に操るというものであり、この海域がその感情生命体エスターによって通常では起こり得ない海流や津波が起きている事から、その特異能力エゴによって起こされたのではと推察された。


 そして、たった今港から船で海に出港した所であった。船は二つに分かれて、私達の船には私以外にも他にてるてるさんや蘇芳すおうちゃん、衿華えりかちゃんにその他本部の尉官や静岡支部の人達もいた。もう一つの船の方には黄依ちゃんや薔薇ばらちゃん、それに白夜はくやくんとところかなめがいた。


「静岡の支部の方って船こんなに大きな船二隻も持ってるんですね」

「あぁ、だって通常時でも感情生命体エスターは海上に出現する事もあるからな。普段からよくこうして静岡支部の人らは出向いてるんだよ。今回はどうやら手に負えないらしいがな」


 蘇芳すおうちゃんが私に解説してくれる。


「そんな強敵が居るかもしれないのに黄依きいちゃん達と別れちゃっても大丈夫? ふみふみちゃん」

「エリカ、こういう場合は二手に分かれておいた方が大体得策なんだよ、片方潰されてもあっちが残れば、敵の情報は残す事は出来るしな。それに敵の発見が速くなる。問題は相手が使う特異能力エゴだ」

「潰されるって結構エグい表現するね。でも、それぞれの船にその敵が使うであろう特異能力エゴの弱点になりそうな特異能力者エゴイストを配置しているんでしょ?」

「ええ、そうね紅葉ちゃん。この船には私、妊娠中なのに私が呼ばれたのはそういうワケよ」


 胸を張りながらてるてるさんは答える。彼女の特異能力エゴは周囲の温度や天気、湿度などを自由に操る『環境操作ウェザーフォーキャスト』だ。つまり、この海という環境下でいかに水を武器に使われようともそれを凍らせて阻止しようという作戦らしい。


「じゃあ、あっちは薔薇ばらちゃんか」

「そうだな、バラの『水素爆発ハイドロゲンエクスプロージョン』は水分を電気分解し、酸素と水素に分けそれらを濃度まで自在に操る特異能力エゴだ。海水でも発動可能な事は実証済み、つまりバラが水に触れた時点で形が崩壊して、奴の支配下では無くなるという魂胆だ。面目はないが今回はバラに来てもらえて良かったよ」

「……そうね、でも唯一懸念があるとすれば、香宮くん……いえ、特異エゴ感情生命体エスターがどこまで水を支配できるか。もし、私達の血液を操ってくるようなことが有れば即死ものね。でもその辺は心配ない筈よ、私達の体は私達の支配域にあるから干渉されるような事はないだろうし、干渉されるような事があっても筒美流でなんとかすればなんとかなると思うけどね」


 そう、人間の身体には無意識的に支配下に置いている防御機構がある。誰の身体にでもあるERG(エルグ)DAYN(ダイン)によるその防御機構はある程度の外部干渉はよっぽど強い衝動パトス特異能力エゴではない限り、それを破る事は無い。それにもしそんな事をしてくるなら、それこそ自死欲タナトス級の感情生命体エスターだ。そうなった時、より対策をたてて旅団長や泉沢さんを呼ぶという手もあるのだろう。


「まぁな、だがそれをしかねないから今回は合同任務って事になったんだろ? 特異能力エゴが使えるから衝動パルスを使ってくるなんて事は無いと思うし、そっちを注視して戦った方がいいだろうな。気を抜くと死ぬかもしれないからな」

「そうだね……」

「モミジみたいな非特異能力者アルトゥルーイストには直接叩いてもらう事にして、エリカはもしもの時のバックアップだ。隙を見つけて相手を自傷させてもいいし、味方の痛覚を消して無理にでも行動させるのでもいい」

「りょっ了解です!」


 かなりエグめの要望を衿華ちゃんが緊張しながら承諾した。


 衿華ちゃん大丈夫だろうか……?

 いや、この子は私より強い物を心のどこかに持っている。だから、なにが起きても……


 この瞬間一瞬だけ気を抜いてしまったのか、何かの接近に私は気付かず、少しだけ反応に遅れて、一番最初に自然と声を出してしまった。


「みんな気をつけてッ!」

「ッ⁉︎」


 次の瞬間身の凍る感覚が背筋を襲い、普通の生活をしていれば絶対に会う筈の無い気配がした。


 気配を感じた方を見るとちらりと巨大な影が見える。すると、海の上を順調に進んでいた筈の船が激しく揺れ始めた。


「クソッ! マジかッ! テルテルさんッ!」


 蘇芳すおうちゃんの声が響く中、周りを見渡すと既に海から船を囲むように100メートルほどの水の壁がそびえたって私たちを飲み込もうとしていた。


「えぇ……分かってるわよ! 船上だけを常温のまま……船外の温度を奪うッ!」


 瞬間、てるてるさんは持っていた羽衣をつけ、まるで天女のように宙に浮き上がりみるみると上昇する。


「あの羽衣……特異兵仗アイデン……」

「よく見とけお前ら、あれがお前らの護衛軍大将補佐の力だ……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ