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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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スキャーリィ編 7話 夢

 ーーそれは夢の中でよくみる光景だった。


 それは衿華には身に覚えのない幼い時の夢。衿華が『痛み』に苦しんでいて、誰かに助けてもらう夢。お父さんでも、お母さんでもない、でも私を優しく呼ぶ、歳のとった女の人の声が聞こえる。


「衿華……衿華……しっかりしなさい。貴女がその特異能力エゴを正しく扱う事が出来たら助かるのだから」


 しわしわの手に私の手が握られる。すると少しだけ『痛み』が引いていく。


「痛い時はこういう風にするのよ。痛いの痛いの飛んでゆけって」

「……いたいのいたいのとんでゆけっ」


 すると嘘みたいに身体中から痛みが無くなっていく。


「そうよ。よくできたわね。衿華は絶対にそれを忘れないで……きっと貴女は誰かを守らなきゃ行けない時がくる。その時になったらこれを思い出すのよ? 分かった? 」


 そして、薄れていく意識の中、もう一人の聴き覚えのある男の人の声が聞こえた。この声は……まさか……?


「母さん、衿華は……」

「えぇ……衿華は私と……同じ……」


 声の主を思い出せそうになった時、決まってこの夢から私は覚める。そして、私を呼ぶ優しい声はどんどんと若い女の子の声になっていった。


「衿華ちゃん……衿華ちゃんっ! 起きて! そろそろ、目的地だよっ!」


 目が覚めると目の前には恐ろしいほど顔の整った私と同じ歳の少女がいた。


 そうか、衿華は任務へ向かうバスの中で眠っていたんだ。


「わぁぁっ! って紅葉もみじちゃん⁉︎ あれ、私寝てた⁉︎」

「そりゃまぁ起こすのが申し訳なくなるくらいぐっすりと」

「……寝顔見た?」

「可愛かったよ」


 にへへと笑い紅葉ちゃんは顔を此方に向けた。紅葉ちゃんはそういう反応が私に何をもたらすのか本当に分かっているのだろうかと少しヤキモキする。


「もぅ……そういうところまだ直ってないの?」

「あっ……ごめんね。意図してやった訳じゃないから」

「次からは気を付けてね」


 彼女は少ししょんぼりとし、うんと頷く。


 でも、少し前と比べると紅葉ちゃんの表情がかなり豊かになってきていた。それも怖いくらいに儚く鮮明に。


 今度はもしや紅葉ちゃんが周りの為に自分の感情を飾って周りと接しているのではないかと思うと胸が締め付けられるように苦しかったが、彼女の自然な仕草を見ているとそうでは無い事が分かり安心する。


「それにしてもバスで寝るなんて衿華ちゃん寝不足なの?」

「ううん……ご飯食べてお腹いっぱいになったら眠くなっちゃったの。凄く気持ちよくなっちゃって」

「あー分かる。私も凄く眠かったから実は少し寝てたんだ」


 紅葉ちゃんはまた笑い私と話す。


 本当に彼女は私好みの造形をしている。それも残酷なくらいに。


「そういえば、紅葉ちゃんって夢を見るの?」

「急にどうしたの? ……あっ分かった怖い夢でも見てたんでしょ?」

「うーん、まぁそれに近いのかなぁ……衿華がね病気に罹っている夢なの。それでね、身体中があちこち痛いんだけど……」

「うん」

「いつもね、優しい女性の声をした誰かが衿華を助けてくれるの」

「ふぅーん、衿華ちゃんはそんな経験した事あるの?」

「記憶には無いんだけど、十年以上も昔酷い病気に罹った事が有るみたいなんだよね。強いて憶えているとしたらその時の『痛み』で、それが私が特異能力エゴの存在に気付いた出来事だったりするんだけど」


 そういえばあの病気、一体なんの病気だったのだろうか。


「……あれ? 衿華ちゃんってお父様が特異能力者エゴイストの家系だって言ってなかったっけ?」

「うん、そうらしいんだけど、お父さん自身は護衛軍でも特異能力者エゴイストでもなくて、詳しい事情を話してくれないし、私が入院していた時のこと護衛軍の色々な人に聴いてみても誰も知らないんだよね。衿華も気付いた時には機関に入ってて、いつの間にか護衛軍にもなってた」

「うーん……私も分からないや。今度お爺ちゃんに聴いてみようかな。10年前ならお爺ちゃんも知ってる事だと思うし」

「頼めるかな……?」

「うん、連絡しておくね」


 そういうと紅葉ちゃんは携帯を取り出して、祖父の筒美封藤さんにメールを送っていた。すると、後ろの席に座っていた黄依きいちゃんから声がかかった。


「二人ともー準備はできた?」

「うん、バッチリ」

「だっ大丈夫だよ!」

「そんな事言って、衿華貴女さっきまですぅすぅ寝息立ててたわよ」

「えっ嘘ぉ⁉︎ なんで黙ってたの! 紅葉ちゃんっ!」

「だって、凄い気持ち良さそうに寝てたし」


 すると、バスの中の遠くの方から所要と周りに居た非特異能力者アルトゥルーイストの人達の声が聞こえた。


「衿華ちゃんが奏でる小鳥のような寝息、最高だったよっ!」

「もう、我慢の限界だッ! 黙れ、変態クソ野郎! テメェの声のせいで天使の寝息が台無しだったわッ⁉︎」

「そうだっ! 俺なんて筒美流を使ってお前の声を聞かされたんだぞッ⁉︎ 死にてえのか⁉︎」

「ん……? ねぇ今、筒美流とか言った?」


 今し方、とんでもない変態発言が聞こえた気がしてそれに紅葉ちゃんはツッコミを入れた。


「あっやべ」

「ん……? ボヘェッ! なんで僕を殴るんだい⁉︎ 嬉しくて泣いちゃいそうじゃないか⁉︎」

「なんでこいつ殴られて顔を紅くしながら、喜んでるんだよッ⁉︎」

「俺よりコイツの方がよっぽど頭おかしいんじゃねぇか⁉︎」

「当たり前じゃないか! 僕の頭がおかしくて何が悪い⁉︎ もっと変態というものは堂々としなくてはっ! 君なんかとは比べ物にならない位、僕は変態道を極めているんだよっ!」

「でも、普通やって良いことと悪い事が有るだろうが……⁉︎」

「ははん、疑問系……もしや自分に自信が無くて世間一般の普通という価値観が分からないご様子、なら僕みたいに振る舞ってみては如何?」

「うるせえなぁ⁉︎ コイツ、嫌われてるの自覚してんのかよ⁉︎」

「あぁ! なんて素晴らしい評価! それならいいんだよっ! 何故なら、僕は人から嫌われる為に行動してるんだから」

「もう関わらない方がいいのかコイツ……?」

「去る者は追うからね僕……?」

「誰もコイツに言い争いで勝てねぇだろ」


 すると、紅葉ちゃんがははっと笑い、悟ったような目をして肩に手を置く。


「どんまい」

「衿華、嫌だよ……? あんな人と合同任務するなんて。あと、その変なゆるキャラみたいな目やめて」

「ははっ……どんまい」


 何度も紅葉ちゃんは肩に手を置いて、現実逃避をしていた。

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