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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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スキャーリィ編 6話 休息3

「みんな炭水化物取るんですか?」

「エッ……⁉︎」

「ッ……!」

「そういえば、うな重食べられる誘惑に負けてすっかり忘れた……」


 そう、特異能力者エゴイスト及び、筒美つつみ流奥義を使える人間は空気中にあるERG(エルグ)を分解する事で炭水化物を頼らずにエネルギーを供給できる。だから、別に炭水化物なんて取らなくていいのだ。そして、取ったって毒になる事はないが取った分だけ余分に運動しないと太ってしまう。


 みんなが顔に汗をかき始める。


「太る……ッ! でも、赤ちゃんの為……赤ちゃんの為ッ!」

「これから任務ですよ? あまり支障は出ないと思いますけど……それに今から注文変えるのは些か失礼な気も……」


 既に店内に塩撒こうとしてた時点で相当厄介な客達な気もするけど……


「あっ! 衿華えりかはこの和風ワカメスープの単品で!」


 よくメニュー表を見てみると、右下の方に単品で頼めるような工夫がしてある。


「なん……だと……?」

「なんて用意が良い店だ。まさか、私達を足止めする為に樹教がここに罠を仕掛けた……⁉︎ テルテルさん気を付けろ!」

「んな訳ないでしょ!」

「あのーどうしますか? お客様?」


 店員さんが早くメニューを決めて欲しそうな顔をしている。


「私はそのままでっ……! お腹の赤ちゃんに栄養をあげきゃ……。だから、多少なら食べても、氷華ひょうかくんにバレない!」


 そんなんでいいのか……まぁてるてるさんは今回は後方支援でずっと特異能力エゴを使ってエネルギーをかなりの消費するから大丈夫か。


「私もそのままでー、どうせ筒美流奥義は身体も使うしスタミナ食食べとくのに越したこと無いよ」


 すると黄依きいちゃんと蘇芳すおうちゃんが此方をきっと睨んでくる。きっと私がうな重を頼んだ事で断りにくくなったんだろう。


「くそっ筒美流奥義に激しい運動量を求められるからって卑怯だぞ、モミジ!」

「別にふみふみちゃんは小学生で食べ盛りなんだから、食べてもいいでしょ?」

「また小学生扱いしやがったなぁ! これでも中身は大人と変わらないんだからな! よし私もワカメスープだけで!」


 すると、蘇芳ちゃんのお腹がぐぅっとなった。


「フフ……へただなぁ……ふみふみちゃん。ヘタッピさ……! 欲望の解放のさせ方がへた……! ふみふみちゃんが本当に欲しいのは……うな重(こっち)……!」

「色々な意味でヤメローッ! クソォッー! あぁ分かったよ、うな重食ってやるよォッ! あっ私はうな重でお願いしまーす」

「それじゃあ、私はワカメスープでお願いします」

「ご注文は以上ですね?」

「あっはい」


 黄依ちゃんはあっけらかんとして、店員さんに頼んだ。店員さんがいなくなった瞬間、蘇芳ちゃんは黄依ちゃんに周りに迷惑にならないように小さく叫ぶ。


「空気読めやァァッ!」

「いや、別にいいでしょうに、ね? 衿華」

「うん、良いと思うよ」


 だが、その会話に自然に入るように、聴き覚えの有る嫌悪感を受け取ってしまう声がした。


「僕は衿華ちゃんの飲みさしのワカメスープが飲みたいなっ!」


 突然私たちのテーブルの近くにところかなめがにょきにょきと生えてきたのだった。


「……ヒェっ!」

「出たな変態」

「出たとは酷いこと言うなぁっ! まぁ凄く嬉しいけどっ!」


 するとレストランの外に繋がっている扉が開き白夜くんがお母さんの特異能力エゴを使いながら此方に走ってきた。


 百合の間に入る男絶対に殺すマンだ!


「白夜くんっ⁉︎ なんでここに君がいるんだい⁉︎ というか特異能力エゴ使ってんの⁉︎」

絶対追跡アンコンディショナルチェイスッ! 所ォォ要ェェエ!」

「待て待て待て待てっ! その特異能力エゴは反則でしょおおおおお」


 そのまま、彼らはレストランの外へ上手く客と店員に迷惑にならないようにそーっと走っていった。


「もはや笑わせに来るでしょあいつら」

「店と客に気を違う配慮ナイスだな。プラス10点」

「何の点数ぅ⁉︎」

「塩をッ……! 撒きたいッ……!」

「ステイ! 衿華ちゃん、ステイッ!」


 一面に塩を撒こうとする衿華ちゃんを止めながら、私達は料理が来るのを待った。


「お待たせしましたーうな重セット3人前とワカメスープ2人前です」

「ありがとうございます!」


 芳ばしい炭で焼いた香り、そして白色の米とは対照的に色鮮やかなうなぎの茶色。そして、それを収める豪華な重箱とサラダとスープ等のセット。


「美味しそうー! 頂きますね! てるてるさん!」

「うん、たくさん食べてね!」

「あっそうだ、黄依ちゃん、衿華ちゃんせっかくだから分けて食べよ? 滅多にこっちの方なんて来る事ないんだし、新鮮で美味しいと思うよ?」

「えっ本当に? いいの?」

「じゃあ、ありがたく少しだけ頂こうかしら」


 そして、うなぎを口に入れる。表面のサクサクとした食感とタレの美味しさが口全体に広がった。


「あぁ……やっぱり美味しい」

「やっぱり? もしかして、紅葉もみじちゃんこの店来たことあるの?」

「うーんそうじゃなくてね、こういう物をさ……普通に食べられるのはやっぱり幸せな事なんだなってね。ほら、食べてみて」

「何言ってんのよ、気に入ったなら何回でも食べに来るわよ」

「それも良いかもね」


 そんな会話をしていると、キッチンの方から何か会話が聞こえてきた為、よく耳をすませてみる。


「最近、海の方に感情生命体エスターが出たみたいで、漁師達が漁に行けないみたいなのよ。その影響で魚とかの仕入れが全然ないのよね」

「軍の方から討伐隊が出るみたいだけど、早く退治して欲しいわね。この店が干あがっちゃう」

「ところで今、この店に来てる制服の人達ってもしかして軍の人なのかしら……あんな若い子達までいるなんて、軍はかなり人で不足みたいだねぇ」

「私達の生活を守る為に命がけでやっているのよ……感情生命体エスターと戦えるのは、色々な苦労や様々な不幸を体験してきた人達だけだっていう噂さえあるのよ? だから、私達が作ったご飯で美味しいって喜んでくれるだけでとても嬉しいわよね」

「そうね……せめてご飯を食べる時くらい任務の事なんて忘れて欲しいわ……贄様、どうか彼女達に安息の時間をほんのひと時でも与えてあげて下さい。お願いします」


 それは私達を案ずる言葉だった。それを聞き、もう一度うなぎを口に頬張る。


「美味しいね」

「さっきからどうしたんだ? めちゃくちゃ笑顔で美味しい美味しいって。確かに美味しいけど、そんなに気に入ったのか? モミジ?」

「うん、気に入ったよ! だから、みんなまた一緒にここに来ようね」

「うん、そうだね紅葉ちゃん! 今度はまた色々落ち着いてから行こうね。その時はお腹いっぱいにうなぎを食べるから!」


 衿華ちゃんはそうやって笑顔で頷いた。

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