スキャーリィ編 4話 休息1
バスに乗り込んで、高速道路に乗った後、一時間くらい経ち丁度静岡県の浜名湖辺りのサービスエリアに着いた。所々、死喰いの樹の根があちこちに張り巡らされている事が分かったが、まだこの辺りでは住むのは出来そうな所だった。
「ここで一旦休憩にしましょう! 戦う前にちゃんと英気を養わないと!」
バスに乗り込んでいた、天照輝大将補佐は妊娠で膨れたお腹をさすりながら、私たちに伝えた。
「あっ了解です! 何か買ってきましょうか?」
「えーとここの特産品はと……」
「うなぎとか餃子とかお茶ですかね? どうします? 本部に残った、成願大将や泉沢大将補達にお土産でも買って行きますか?」
そういえば、うなぎのような回遊魚や鳥達は死喰いの樹の影響を受けずに、樹の外側の世界からやって来れるらしいみたな事を何処かで聴いたような。人間や感情生命体だけはどうしても樹の外側にはいけないようになっているらしい。詳しい仕組みは私もよく分からないけど、自我と欲望が共存している生物がこの二種類しかないからとかなんとかで……
もしかしたら、あちら側にも人間がいて暮らしているかもしれないと思うとなんだか冒険心が擽られて楽しい。でも、電波だったり、その動物達にカメラを付けても何故か届かなかったり、カメラ自体がERGをエネルギー源として動いている為壊れてしまうらしいから外の世界の事は分からずじまいだった。
「そうね、お土産は帰りでいいから、みんなで降りてご飯を頂きましょう?」
「いいですね、じゃあみんな行こっか?」
そういうとみんな立ち上がり、ぞろぞろとバスを出ていく
「まぁ、普段お金なんて使わないからこういうところで使ってもいいかもしれないわね」
「確かに私達世間一般的にいうと結構お金持ちだからね」
そう、私達は命をかけて仕事をしている為高収入なのではあるが、黄依ちゃんの言う通り普段から寮暮らしだし、訓練や任務があるため休日以外はお金を使う機会が殆ど無いのである。
「でっでもぉ、お金は何かあった時や欲しい物を買いたい時の為にとって置いた方がいいと思うよ? 」
「そうねぇ……護衛軍の任務で怪我した時は国からお金が降りるけど、いつ変な病気になるか分からないし、意外と入院費ってお金かかるのよ?」
衿華ちゃんが心配しているとそれに天照大将補が同意した。天照大将補は見た目通り、妊娠中であり、授かった子供さんが確実に特異能力者であると言われている為、大事を取って入院中であったのだが、今回の任務で此方に戦力を回しすぎると本部や機関がもぬけの殻となり、テロリスト達の格好の的になる為、泉沢大将補は其方に残して、天照大将補が此方に来る事になったのだった。
「それにみんなもいつか子供を授かる時が来るかもしれないからお金を貯めておくのがいいかもしれないわね! じゃあ、今日は私から奢りという事で好きな物食べて良いわよ!」
「えっ⁉︎ いいんですか!」
「こら、紅葉。悪いでしょうが! はしたない」
「本当にいいわよ? だって、私は夫婦でお金稼いでるし、両方とも幹部の中でもNo.2やNo.3だし」
「黄依ちゃん、ここはお言葉におこうよ? 折角お誘いされたんだし」
「まぁ衿華が言うなら……」
「決まりね! じゃあお店に行きましょうか! あなた達はどうする? 」
天照大将補は白夜くんや薔薇ちゃん、蘇芳ちゃんに所要にまで声をかけた。
「白夜くんもどうかな?」
「メシですか……。いいっすよ、自分は一人で食べます。そっちのが、性分にあってるんで」
黄依ちゃんが照れながら白夜くんに話しかけるが、一人でとぼとぼと歩いて行く。彼はいつになったら黄依ちゃんの思いに気付くのだろうか。いや、気付いているのかも知れないが、薔薇ちゃんの、黄依ちゃんに対する気持ちも気付いてあえて、ああいう対応をしているのだろう。さっきのバス内での所要との会話の反応を見るに白夜くんは実は百合好きではないかという疑問が湧いている。それらを推察するに彼はあの二人にくっ付いて欲しいと願っているので無いのだろうか。
いや、そこまで考えてないでしょ。
「私もここはお断りしておきますわ。申し訳ございません、流石に白夜さんを一人にするのは、白夜さんがノリの悪い人みたいに見られるのがちょっと嫌なので」
此方に一礼をしてから、薔薇ちゃんは白夜くんについて行く。彼女は確かに100%善意による行動だし、悪い子では無いんだけど……
「チッ……そんなに白夜くんとご飯を食べたいのかしら」
「まぁまぁ、黄依ちゃん、怒らない、怒らない! 薔薇ちゃんは白夜くんの事別に好きじゃないって言ってたよ?」
「……ハァ……別に……そういう事じゃ無くて、未だにアイツを許せない自分にイラついてんのよ」
頭を掻きながら、納得がいかないように呟く。
「ぶっちゃけると?」
「絶対に許したくない……でも許さないなら許さないで、私が悪者みたいに見られるのも嫌よ。私、物事を最初の印象や偏見で見がちだから」
「難儀だねぇ……それも、割と判断が速い点では良いんだけどね。まぁ、仕方ないよ、心の依所を馬鹿にされちゃったんだもんね」
「ちがうわよ……私はあんな状態の母さんに依存なんかしてない」
私は彼女の言葉と行動の矛盾について、少し考えた後溜息を押し殺した。