スキャーリィ編 1話 合同任務
モノマネイドの事件が起きて間もない数日後の話だった。
突然、私ーー筒美紅葉に来たのは、異例の合同任務の通達であった。
護衛軍にとって異例に起きる合同任務を受けるということは、『死ぬ覚悟は出来ているのか?』という質問に『はい』と答える事と同じ意味だった。
勿論それは強制ではない、むしろそれは私達のような軍に入って間もない新人を受けさせないようにする為の脅しのようなものであった。体裁上、護衛軍に入ったからにはその仕事に従事しなければいけない。しかし、あまりにも死者が出ると予想される合同任務は流石に強制をする事は出来なかったらしい。その為、本来であればこの通達は無視すれば良いものであった。
「ねぇ、どうするの? 二人とも、今回は流石にやめておく?」
重い空気の中で、ソファに身体を預けながら足を組みそう呟いたのは、すらりとした高身長で雑誌モデル並のスタイルを持つ短髪黒髪の少女であった。
彼女の名前は霧咲黄依ちゃん。私と同じ護衛軍の二尉官である。
「私は……」
少し言葉に詰まってしまうが、今言葉にしようとした物の意味をもう一度よく考えてから言う。
「私は、この合同任務受けようと思う」
「……そう、衿華は?」
黄依ちゃんに話を振られた、もう一人の少女はうーんと可愛らしい唸り声を上げながら、小動物を思わせる雰囲気を醸し出し言葉を捻り出そうとしていた。
彼女の名前は蕗衿華ちゃん。現在三尉官で、私や黄依ちゃんと同じグループのメンバーの女の子だ。
「私も人の助けに立ちたい……でも私なんかが行っても大丈夫なの? 先輩達に迷惑かけたら凄く申し訳なくて」
「まぁ……大丈夫なんじゃないの? 衿華の場合は戦闘の補助的な面ではかなり重要な特異能力だし、そもそも戦力だと思われてなかったら通達なんて来ないし」
確かに、衿華ちゃんの特異能力、『痛覚支配』は触れた相手の痛覚を支配し痛みを無くしたり、痛みを増やしたりする事ができる。さらに、まるで麻酔のような、相手の感覚を麻痺させ一定時間相手から身体の自由を奪う能力すらある。
「そうかな……? じゃあ、私は行こうと思う」
一見弱々しく見えてしまう物言いだったが彼女の目はそれが本気である事を示していた。
「じゃあ、決まり。私達は全員参加という事で返事しておくわね」
黄依ちゃんは携帯を弄り、携帯でメールを送信する。
「それにしても、一体何があったんだろうね?」
私はそれとなく情報を知っていそうな黄依ちゃんに聞いてみる。
「私も知らないわよ。第一、紅葉は元大将に聞けばいいじゃない」
「いや、師匠はそういう事あんまり話してくれないから」
すると、衿華ちゃんがふっと呟く。
「そういえば……護衛軍の幹部の誰かが数週間前から行方不明になっているとかで、先輩達みんな焦ってよね?」
確かに、数週間前からそんな事が起きているという事は風の噂で聞いていた。
「あぁその話ね、二佐の香宮洪さんが行方不明になったのよ。 だから、その穴埋めで私達が機関に行く事になったの」
思えば、機関で講師をやってくれという依頼は常にやっている人達からなら普通ではあるが、急に来てしまったから可笑しい事であるとは思っていた。
「へぇーそんな事が」
「しかし、まぁ……特異能力者の行方不明か……確かにロクなもんじゃないわよね」
今まで、特異能力者が行方不明になった事件は確かにあった。
例えば、漆我紅が行方不明になっていた事件。ごく稀に遺体自体の損失で、死喰い《タナトス》の樹に吊るされない場合がある。だから、彼女の捜索は見送られて、死亡扱いとなっていたが、結局彼女は現在も生きていた。でも、そもそも彼女自体が自死欲感情生命体であるから、あまり関係の無い話なのかもしれない。
ただ、前例があるだけに護衛軍も呑気にはしていられない。
「特異能力者だって感情生命体になる事だってあるからね。もしかしたら、私達が戦うのはその香宮二佐かもしれないわ。気を引き締め行くわよ」
「もっもちろん衿華はそういう意味で言ったからね?」
「分かってるわよ、衿華。貴女はそんな軟弱な意志でここにいるわけじゃない事くらい」
そんな、話をしていると黄依ちゃんの携帯に着信が来る。
「電話、みんなに聴こえるように設定して」
「うん、分かってる。もしもし? こちら、霧咲ですが」
黄依ちゃんが携帯の画面を触った後、それに喋りかける。すると、私達よりももう一回り若い女の子の声がした。
「もしもし? こちら、踏陰蘇芳だ。パートナーの参加表明者は全員そこにいるか?」
「はい、全員同じ場所にいます。一佐の声も全員に聞こえています」
「助かる。三人とも、すぐに出発だ。すぐに正門に来い」
「了解です!」