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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act two 第二幕 恐怖と喪失。そして、憧れ。
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モノマネイド編 6話

「さて、まずは物理的に攻撃が効くかどうか確かめてみようか! モミジ、一発デカイのぶちかましてみて」

「うん、分かったよ! ふみふみちゃん!」


 筒美つつみさんは拳を握りしめて、オーラのようなものを滾らせた次の瞬間、成願じょうがん大将の姿をしたモノマネイドに殴り掛かっていた。


「筒美流攻戦術破ノ項ーー『桜花おうか


 しかし、モノマネイドの反応は何もなく、ただケタケタと笑っているだけだった。


「……ふむふむやはりコイツ、大将の特異能力エゴを無視しても物理的な攻撃は一切意味が無いように見えるな。というか、今私達が見ている姿自体が偽物で幻覚かもしれない。オッケーモミジ。一旦下がって」


 踏陰ふみかげ一佐は癖っ毛をくるくるとさせながら顎に手を当てて考える。


「また、ふみふみちゃんのアホ毛が勝手に動いてる……」

「ん? あぁ気にするな! 特異能力エゴ使ってる時の強迫観念みたいなもんだから」

「一体どういう理屈ですの⁉︎」

「さぁ……? ところで、バラ奴に触れた事はあるか?」


 さらっと流されて、彼女は私に質問をしてくる。


「いいえ、有りませんわ」

「オッケー。まぁいいや。んじゃさ、みんなであいつを影に誘導してほしいんだけど頼める?」

「ほむ……? 影で攻撃するの? でもさっき物理的な攻撃は意味が無いって」

「まっ違うアプローチの仕方が有るんだよ、とりあえず私のいう通りに」

「分かったわ、先輩」


 すると、霧咲きりさきさんが一瞬でモノマネイドに触れ、特異能力エゴで日影に移動させる。


「キイ、そのまま拘束できるか?」

「はい、『速度累加アクセラレーション


 すると、モノマネイドは何かに押さえつけられるように地面に突っ伏した。霧咲さんがモノマネイドに掛かっている重力加速度を増加させたのだろうか?


「ありがとさん、キイ。んじゃ……モミジ! 絶対に感知系の技は使うなよ? 一応他の奴もな」

「ほむ……? まぁいいけど」

「よし、『陰影舞踏シャドウダンス』」


 その言葉と同時に筒美さんはERG(エルグ)の放出を止め、踏陰一佐は影から黒幕の様な物を作りだしそれでモノマネイドを包み込む。完全に、みんなの視点からモノマネイドが見えなくなった。


「見えなくなったけど……大丈夫なの?」

「うん、何も起きなければこのままで頼む」


 そして、彼女の言葉通りそこには、もそもそと何かが動いているが何も起きない真っ暗闇な空間となる。


 踏陰一佐はふぅっと息を吐くと私達に向けて呟いた。


「……オッケー。多分これであいつは何もできなくなってこのまま自然消滅する筈だよ」

「つまり、栄養補給が出来なくなってそのまま死ぬと? そんな拍子抜けでいいのか? 幼女?」


 白夜はくやさんがまた余計な一言をいい彼女を怒らせようとする。


「こらー! 幼女いうなー!」

「まぁまぁ、ふみふみちゃん、よしよしー! いじけなーい、いじけなーい」


 筒美さんは彼女をなだめる様に手で彼女の頭を撫でる。


「モミジも子供扱いするなー!」

「はいはい、かわいいーかわいいー。感情生命体エスター退治が出来て偉いねー」

「にへへ、偉いでしょー……じゃなーい! お前な! 人をなんだと思ってるんだ!」

「可愛い子供?」

「おいこらぁ! 私だって覚悟してここにいるんだよぉ!ちょっとは信頼しろぉ!」

「あはは、ごめんごめん」

「えーと、コホン」


 二人が兄弟みたいで微笑ましいけれど、今はやっぱり緊急事態、とりあえず話の腰をおらねば。


「踏陰一佐、一体どういうことか説明して欲しいのですわ。モノマネイドはどうなったんですの?」

「ん……あぁごめん、説明しなきゃだな。えっとこのモノマネイドなんだが、どうやら人に『観測』をされた時点で力を得るらしいんだ」

「というと?」

「私達がコイツを『見た』時点で、コイツの真似るという行為が発生する。勿論『見る』事だけじゃない、『聞く』事や『嗅ぐ』こと、『触る』事でコイツは人の姿を真似る、つまりは感情生命体エスターとしての生物的活動を始めてしまう。結果、さっきみたいに好き勝手に歩き回って人の真似をしようと色々な所に現れるんだ」


 すると、筒美さんは納得したように頷く。


「だから、私に感知するのをやめろって言ったのね」

「そう、そして大抵の人間が認識に使う『視覚』を私の特異能力エゴ遮断してやった。勿論、モミジみたいな視覚以外からでも情報を得ようとする奴には忠告も入れた。その結果、コイツは今誰からも認識されない状態になった。だから能力が使えなくなって、無力化ができたという訳だ。様子を見るに無力化された状態だと私の特異能力エゴ位でも破ることは出来ないらしい」

「なら、終わったって事か?」


 白夜さんが確かめるように聞く。


「うん、多分ね。でも大事に至らなくて良かったな。真似る相手が相手だと恐ろしい事が起きてたからなぁ。それにこの感情生命体エスターなんだかんだ対処できたのは私か泉沢いずみさわ大将補位じゃないか? まぁ事故処理は私に任せときな」

「確かに」

「えぇ、そうですわね」


 するとまた、踏陰一佐のアホ毛をクルクルが回り出す。


「それにしても、何を基準で相手の認識を歪めていたんだろうな? それを確かめる事は出来なかったな。一応、大将の真似をしたのもそれの確認だったりしたんだが」

「……あえて戦闘力が低い大将を選ぶ辺りふみふみちゃんも意地が悪いよね」

「まっ結論怪我人が出てないからいいだろ?」

「えぇ、それが一番よ」

「霧咲の言う通りだ。よくやったな幼女」

「ハクヤさっきから幼女幼女うるさいな! お前ロリコンかよ⁉︎」

「いや、朝柊あさひ以外関心ねぇぞ」


 白夜さんはすまし顔で妹の名前を堂々と言う。


「えっと……? 流石に実妹は世間体的にあまりよろしくありませんわよ?」

「白夜くん、シスコンかよ……」

「なんかヤベー事言いだしたぞハクヤ」

「……」


 白夜さん以外の女性陣が私も含めて騒ぎ出す。


 霧咲さんは黙って俯いて、凄くショックを受けている様子が分かった。


 そうか、霧咲さんは白夜さんの事をお慕いして……


「……? いや、誤解しないでくれ、そういう話ではない気がするのだが? 通常この場合、俺が実妹の事をそういう目で見る筈がないという前提で話している訳で、家族的な意味で大切にしているだとか関心だとかそう言う意味じゃないのか?」

「……? 違うのか?」

「ちげーよ。てかなんで、霧咲がそんな落ち込んでるんだよ」

「ちょっと、白夜くーん。あまり黄依きいちゃんをいじめるなよー」

「……紅葉、黙って。別に、違うなら良いんだよ。うん、なんかごめんね」

「いや、だからなんでお前が謝るんだよ。これじゃまるで俺がシスコンみたいじゃねえか」


 あぁ……そうでしたの。

 てっきり、私は霧咲さんと筒美さんが裏で付き合っていたから、そっちの気があるのかと思っていたのですが。


 この中身の無い会話を聞いていて溜息が出た。


「どうした水仙すいせん、お前まで俺のことシスコンとか言い出すんじゃねぇんだろうな?」

「いいえ、個人の趣味や嗜好は犯罪じゃない限り否定しませんわ」

「いやそれ俺がシスコンだって言ってるようなもんじゃねえか」

「ふふっ、そうですわよ!」


 笑いながら周りを誤魔化す。


 筒美さんだけは笑ったふりをして、こちらをじっと見つめていたのが分かった。もしかしたら、ここにいる全員は全員の真意に気が付いているかもしれない。白夜さんも踏陰一佐も気まずそうに笑っていた。


 あぁ……私もまだまだですわね。溜息を吐いてしまうなんて。


 そして、気付いた。


 白夜さんにとってあの感情生命体エスターが朝柊さんに見えたように、天照てんしょう大将補にとってあの感情生命体エスターが彼女の夫に見えたように。


 それを考えると全ての辻褄が合い、結論に至ってしまった。


 あの感情生命体エスターは見た人の頭に一番に思い浮かんだ人を真似る感情生命体エスターだという結論に。


 私が真っ先に思い浮かんだのが霧咲さんだったという事実に。


 この歪な恋慕がやはり私に存在していたという事に。

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