モノマネイド編 5話
彼女がいれば心強いと思い、一旦足を止めた。
「はい、踏陰一佐。今、筒美さん達が追いかけているので彼女達と連絡を取りながら、モノマネイド……あの感情生命体を追っていますわ」
「オッケー、じゃあ私も付いてくよ。それで、モノマネイドって名付けた事は、何かの姿を真似るのか?」
彼女が可愛らしく首を傾げ、髪の毛に生えている一本の癖っ毛をブンブンと振り回しながら言う。癖っ毛は独りでにくるくると回っている為、一体どうなっているのか気になるところだし、見た目小学生のような彼女の姿を見ると、本当に上司なのかという事を疑ってしまいたくなった。
「えぇ、どうやらモノマネイドを見た人の知り合いに化けるみたいですわ。それに化けた人が特異能力者で、見た人全員から同じように見えた時、その劣化版ですが特異能力を使っているところも確認しましたわ。今は本部棟の三階にいるらしいですわ」
「うん、情報ありがとーおっけおっけー。んま対策思い付いたし、大した奴ではなさそうだけど、変わった奴だなぁ」
一瞬、彼女の言った言葉に耳を疑ったが、彼女の特異能力を考えると納得がいった。
ーー『知能向上』元々、特異能力者の時点で悪い意味で頭の回転は早いのだが、彼女は常時発動しているその特異能力のお陰で、齢12歳のにも関わらず、大人と比べても逸脱した思考速度や記憶力の持ち主である。その思考力は先手さえ取られなければ、ほぼ未来を言い当てるに等しいものだった。
更に彼女が恐ろしいのは、霧咲さんと同じように特異能力を二つ持っているという点だ。
「さてと、『 陰影舞踏』」
踏陰一佐が呟くと、その小さい身体が宙に浮く。よく見ると影から薄暗いヒトガタのようなものが彼女の身体を支えていた。
そうそれが彼女のもう一つの特異能力『陰影舞踏』だった。光の当たらないところにあるERGから様々な硬度などの材質を持った物質もしくは動く物を創り出す。それは単にスポンジのように柔らかい物だったり、ナイフのように硬く鋭い物の場合もあれば、素早く動く複雑なヒトガタなど様々に作ることができるらしい。作った物は影から出せるが、十秒も持たず崩れてしまうようだった。
影の中から手が出てきて、そこへに引っ張られるように持ち上げられる。すると、影が私を包み高速で進み始める。恐らく、霧咲さんの特異能力と同等の速さで移動しているのであろう。
しばらく、すると筒美さん達がモノマネイドを追いかけて居るのが見えた。
「やぁやぁモミジ、今苦戦してる?」
踏陰一佐はそれに追いつくように影を平走させる。
「あっと……ふみふみちゃん! 良いところに来てくれた!」
「ふみふみ言うな! 蘇芳ちゃんと呼べぇ! って言いたいところだけどそんな余裕無さそうだね。手伝ってあげようか?」
「……幼女に上から目線される気持ちにもなってみろよ、踏陰」
白夜さんに幼女と言われて反応したのか、癖っ毛がピンと逆立ち、物凄い勢いで睨まれている。
「ハクヤァ! お前お前お前ぇ! それ一番言っちゃいけない奴!」
「おいまた事実陳列罪かよ」
「あぁーもぉー! ハクヤには気遣いというものはないのかぁ!」
「ないな。諦めろ」
すると、踏陰一佐は変な顔をしながら、声を低くし誰かの真似をする。
「スミマセェェン! 部下からモラハラ受けてるんですけどぉ! 誰か人事部の人はイマセンカァ⁉︎」
ツッコミ待ちをしているのか、微妙な時間が流れる。
「おい霧咲、この幼女黙らせてくれないか?」
「……白夜くん、多分それ成願大将の真似だよ?」
「……あの人舐められすぎだろ、悲しい人生だな」
「白夜くんも相当大将のこと馬鹿にしてるよね⁉︎」
「あの、今緊急事態ですわよね⁉︎」
「あっそうだった」
「筒美さん、忘れてたんですの⁉︎ 」
「まぁ、全部ふみふみちゃんが悪いよ!」
「私のせい⁉︎」
すると、前の方からまたさっきの成願大将を真似た声が聞こえてくる。
「スミマセェェン! 部下からモラハラ受けてるんですけどぉ! 誰か人事部の人はイマセンカァ⁉︎」
「まだふざけてらっしゃるの⁉︎ いい加減に⁉︎」
いや、その声を出したのは踏陰一佐では無かった。モノマネイドが成願大将の姿を真似て、声を出したのだった。
「分かってたけど、あっーーこれは大将に悪い事したなぁ……でも、瞬間移動しなくなったし、まぁいいかぁ……」
彼女は予想していたような口ぶりで自分と私を移動させていた影を解いた。
「なんとなーくだけど、モノマネイドの能力の仕組みがわかった気がする。後で説明するから、とりあえず今の内にボコボコにしよう!」
「やっぱり、大将舐められてますわねぇ……」