モノマネイド編 1話
私の名前は水仙薔薇、機関の卒業生で卒業後は護衛軍の三尉官に配属された特異能力者の軍人だ。
そして、少し今厄介な事に巻き込まれている。
「お待ちなさぁぁぁああい!!!」
そう、今私は何故か護衛軍本部に現れてしまった感情生命体を追いかけていた。その感情生命体は誰かに化けて、本部の至る所を破壊しているのだった。
そして、この施設は病院と隣接して作られている為、其方の方に行くと少々まずい事になってしまう。その為、護衛軍中はその感情生命体を探すために大混乱中。
廊下を駆け抜ける棒人間のような見た目をした感情生命体は足早に曲がり角を曲がった。
それに追いつく為に私は片方に束ねたサイドテールを揺らしながら、私の班のペアである操白夜さんと一緒に追いかけている。ちなみに彼は暗そうな見た目なのに、それに似合わず武器を入れる為の重そうなカバンを二つそれぞれ両手に持って走っていた。彼とは機関からの同期でニ尉官の特異能力者でもある。
「水仙、あそこの廊下を曲がったぞ。 またあいつ化けるかもしれない」
「ここは仕方ないですわ! こちらから道を短縮する為に壁を爆発させます!」
「おい待て、ここは室内だ、そんなことしてもーー」
体内の水分を電気分解。水素と酸素に分けて二つの濃度を特異能力で調節、そして目的に見合った爆発を起こす。
「大丈夫ですわ! 手加減して、水素爆発!」
爆音が轟き、壁に穴が開く。が、粉塵が上がって視界が遮られる。
「ほら、言ったじゃないか。使ってもさして意味は無いと……それに、水仙はすぐ特異能力に頼りにする傾向がある、俺たちはただでさえすぐに体力が無くなってしまうんだ、使い時を見極めた方がいい」
「うぅ……ごめんなさい!」
「……水仙お前まさか、あの感情生命体と入れ替わって俺を妨害してるんじゃ無いだろうな?」
「違いますわよ! うぅ……この失敗はどこかで取り返しますわ! 行きますわよ! 白夜さん!」
「その凹みようと失敗してもめげない精神はどうやら本物のようだな。済まない、全部冗談だ。聞き流してくれ」
彼は半目で私を見ながら溜息をついた後、頷いて走る速度を上げる。そして次の曲がり角を曲がると目の前に、見覚えのある少女が現れる。その少女は高身長で短髪で、スタイルがいいーー
「きききききっ⁉︎ 霧咲さん⁉︎」
私が機関に在学している時に一番苦手でよく喧嘩していた、あの霧咲黄依さんだった。
「……」
きっ気まずい……! なんで黙って此方を見てますの⁉︎ やっぱり、昔言ってしまった事……まだ怒っていて……
彼女はじっと此方を見ている。
だから、ついーー
「ごごごごっーー」
「……なぁ、水仙。なんで急に霧咲の名前を呼んだんだ? ここにいるのは俺の妹だぞ?」
隣にいた白夜さんが不思議なことを聞いてきた。
「……え? いえいえいえ! 白夜さんの妹の朝柊さんはこんな所にいらっしゃいませんよ?」
「……」
霧咲さんはそのまま逃げ去って行く。
「あっ逃げましたわ!」
「てことはやっぱりこいつが感情生命体じゃないか。認識を変えられる……なんてやり辛い相手だ、追いかけるぞ」
「感情生命体の癖になんて小癪なことをしてくるんですの!」
やはり、見る人によってもその感情生命体の捉え方が変わってくるらしい。再び、私達はあの感情生命体を追いかけて走り出す。
「……水仙、奴の姿が変わったぞ。確かにあいつ霧咲に見える……って事は……」
「霧咲さんの特異能力を使ってきますわ! こんな状況になんて厄介な!」
そしてなんと、見ている人間の姿が全員に一致した時その人の生体的な能力まで同じになってしまう。
だから、目の前の彼女の足がどんどんと早くなっていく。
「速度累加ですわね……霧咲さんほど洗練されていないですが、これじゃあ追いつけませんわ!」
「このままじゃあ引き離される……仕方ない、じゃあ此方も特異能力を使うか」
白夜さんは鞄を一つ空中に投げ、空いた手の指を投げた鞄にある丁度いい穴に入れた。瞬間、全ての指に指輪が入り、鞄が勢いよく開き、冷気と共に実物の人間が血の抜けたような人形が出てくる。見えない糸で繋がったそれは、コキコキという音を鳴らして直立姿勢になった。
「目覚めの時間だよ……母さん」
いや、本来なら人形という表現は違う。あれは本来ここにある筈がない本物の人間の死体なのだから。
「死体人形ーー奴を追跡だ」