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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Overture──少女達の夢想曲『This is their dream songs.』
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序曲 5話*

「ハァ……ハァ……どうして私がこんな事にッ! 」


 声を荒げながら必死に裏路地を走る白衣の眼鏡をつけた男性。


「クソッ! 何故だッ! 何故『特異能力者(エゴイスト)』にならないッ!何故『感情生命体(エスター)』になったッ!?」


 逃げながら、混乱しているのか、彼は何かに気付き手を口に当てた。


「まさか、『感情生命体(エスター)』は『特異能力者(エゴイスト)』の進化形態!? そもそも、『感情生命体(エスター)』は人間そのものから生まれた存在だっただとッ!? こんな事、国や軍は隠していたのかッ……!?」

「あらぁ……ようやく気付いたのねェ……」


 白衣の彼の真後ろから、気味が悪い男の声が聞こえる。


「お前は……少年の運び屋を依頼したッ! 」

「『(じゅ)教』の鎌柄(かまつか)(げい)よォ、よろしくぅ」


 上半身裸で顔に似合っていない濃い化粧をした、筋肉質の男。


「ハァ……ハァ……ちょうどいい! 護衛軍に追われているんだ! 保護してくれッ! 」

「どうしてよォ〜? アタシに利益がないじゃない! まぁ私の彼氏になってくれるなら考えなくても無いけどぉ〜」


 じゅるりと舌舐めずりをして鎌柄は白衣の彼を品定めするように見る。


「やっぱりアナタ、アタシの好みのタイプじゃないから始末させて貰うわね」

「ハァッ!? ふざけるなよ! 私は世紀の研究者! 朔田菊二(さくたきくじ)だぞ!?」


 朔田はそのまま白衣のポケットから銃を取り出し弾を込める。


「あらァ? 抵抗かしらァ? やめとく事をお勧めするわよ?」

「びびったなカルト宗教が! 驚いたか? これ自衛用に自作したんだよ! まさか、私がただの人間如きに殺されると思っていたのかァッ!」


 彼によって引き金が引かれる。

 一瞬火花が飛んだかのような光が見えた。そして周囲に火薬の燃えた匂い。

 彼の目の前には胸の肉が抉れた男の姿。


「ハハッ……やってやった……アハハッ! カマ野郎が!」


 朔田は自分を始末しようとした追っ手を殺して、誇らしげに顔を歪めていた。


 しかし……


「あァらァ……少し喜ぶのが早いんじゃないかしらァ…… 」


 胸に穴が空いた筈の鎌柄が顔を歪ませて喜んでいる。


「おまえッ……まさかッ!?」

「『肉体再生(リジェネレーション)』んんんんぅぅうううう!」


 鎌柄の胸に空いた穴がみるみるうちに塞がる。

 朔田は後ろに下がろうとして転び、腰を抜かす。


「『特異能力者(エゴイスト)』だとッ!? ふざけるなッ! 」


 朔田は何度も銃に弾を込めて撃つ、何発も当たるが傷はみるみるうちに治ってしまう。


「いいわ、いいわぁ!  痛み!  痛み!  痛み!  これこそが『自死欲の王(タナトス)』サマを身近に感じられるアタシにとっての唯一の方法ゥ!」


 そして、転んだ朔田に顔を近づけ鎌柄は言う。


「えぇ、アタシは『特異能力者(エゴイスト)』。あはぁ……死ぬ前にさっきの実験が何故失敗したかァ……何故人間が別の生命体になったかを教えてあげましょうか」


 朔田は目の前に起こっている現象が理解できなくて、恐怖に引きつられた顔になる。


「答えは単純。『特異能力者(エゴイスト)』も『感情生命体(エスター)』も本質的には同じで、ただ単にアナタも知らない『DAYN(ダイン)』という極小の細胞器官や神経伝達物質に付随している『ERG(エルグ)』の濃度の変化に心と体が耐えられたか、耐えられなかったか、それだけの話よォ〜。アナタには一人くらい『樹教(あたしたち)』に味方する『特異能力者(エゴイスト)』を生産して欲しかったけど、先に護衛軍が嗅ぎつけちゃって無理だったみたいねェ。だから、口封じ。『死喰いの樹(タナトス)』サマの供物になりなさい」


 ついには朔田は持っていた銃を落とし、立ち上がり逃げ出すが、また転んで這いつくばる。


「いやだぁ……いやだぁ……私はまだ死にたくないィイイイ」

「残念、アナタは死ぬのよォ!」


 脚が絡まって動けない朔田に鎌柄は口を大きく開けて近づける。


「イ タ ダ キ マ ス」

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァァァァアア!」



 人だったものが無惨にも強い力でかき混ぜられ、齧られて、だんだんと辺り一面は血の色に染まっていった。


「アタシのこの『特異能力(エゴ)』、とっても強いのはいいけど、今の状態じゃまだ蛋白質を摂取しないとダメみたいねェ」


 そして彼、鎌柄鶏は血塗れになりながら研究者の死体に跨り、びちゃびちゃと舌内音を立て、弄り回しながら呟いた。


「ご馳走様でした。見た目と違って美味しかったわよ、アナタのカラダ。でも、おえェ……」


 彼は口から白濁液を吐き出した。


「流石にこっちの蛋白質はアタシの遺伝子に合わなかったわねェ……」


 ペッペッと唾を含ませながら吐き出そうとする。


「さぁそろそろ、ここから逃げましょうか……」


 立ち上がり、彼は走り出す。


「いつか、アナタ達の遺伝子も頂くわァ……護衛軍ンゥ! 」

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