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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 終幕 贄

「……意識が戻って来ましたか。私です。死喰い(タナトス)の樹の贄の漆我しつが沙羅しゃらです」


 目を開けるとまた周りが木に包まれた花びらの舞う巨大な空間となっている事がわかる。


 緋い目の少女はこちら側に干渉しながら我々にまた話しかけていた。


「今、お見せしたのは自死欲タナトスによって人生を狂わされた貴方様方のお知り合いです。しかし、彼女達は心が折れ、どれだけ傷付こうとも、前に進む事をたった今選択しました」


 幸の薄そうな顔と光の無い目でこちらに笑顔を向ける。


「ここまでこの光景を見てもらったので私がこの世界でどんな立場であるかということは知ってもらえたと思います。……そうです。私は彼女達、護衛軍から守られるべき存在なのです。そして、私にはその権能……特異能力エゴによって死喰い(タナトス)の樹に捕らえられた人間を一時的に解放する事、そしてもう一つこの樹を伝って貴方様方死者と関連深い人の追体験をする事ができます」


 彼女は優しく生きている世界が違うであろう、私の体を禍々しい葉っぱから解放してくれる。


「思い出しましたか? 貴方様方がこの世界でどんな人間だったか、筒美つつみ葉書はがき様? それに、止水しすいだい様?」


 身体を起こすと、隣には人の形から外れた男性がいた。顔の若さ加減で言うと大体二十代半ばあたりだろうか。

 私の身体も見るとそれ以上に人間から遠い形になっている事が分かった。


「それは死喰い(タナトス)の樹による感情生命体エスター化の兆候です。貴方様方は感情生命体エスター化せずとも、非常に強い戦闘能力を持っているのでこちらの世界には長い間滞在してもらおうと思います。会話できないと不便ですからね、私の本来の特異能力エゴで元の姿に戻ってもらいます」


 彼女達が、私達の身体に触れると徐々に人外であった筈の身体が人の姿になっていく。


「はぁ……はぁ……これで一ヶ月程は死喰い(タナトス)の樹をやり過ごす事ができます。喋れるようにもなったと思うので一度何か私に向けて喋ってみて下さい」

「ahーーあぁーーえっと、初めまして……? でいいのですか?」

「えぇ……そうですね。初めまして。筒美葉書様。止水題様もお願いします」

「yeーーやぁ、久しぶりだね。ますますお綺麗になられましたね。沙羅様」

「えぇ、お久しぶりです。相変わらずこんな状況になっても題様は落ち着いていますね」

「はい、全て想定内の出来事ですから」


 彼は立ち上がりながらそう言う。そして、私がここにいる事の不思議さを彼女の立場を再確認するとともに問うてみる。


「あの……貴女はあの沙羅様でいいのですよね? お師様ーー筒美封藤(ふうとう)からお話は伺っています」

「えぇその通りです。あの贄の沙羅です」

「……では、私が何故もう一度現世に蘇る人間に選ばれたのですか……?」


 すると彼女は私に耳打ちをしてくる。


「それは……彼女の境遇を考えれば分かる事だと思います」


 彼女……おそらく紅葉くれちゃんのことだろう。


「……あの子、夢で確か……。あの子、笑えるようになったのですね。本当に良かった……!」

「えぇ、貴女が彼女の命を繋いでくれたお陰ですよ」


 沙羅様は優しそうな笑顔で私の方を向いた。


「それで、ここからが本題です。私は今、親戚のーーいいえ、言わなくても分かると思います。漆我しつがくれない姉様を名乗る人物から命を狙われています」


 その言葉に私は違和感を覚えた。


「えっと……つまりどういう事ですか? ……あぁ分かりました。そういう事ですね……だから、そうなんですね」


 そして、説明をされる間も無く理解をした。


「この一ヶ月の間に誰がどのような動きをするのか分からないのです。特に私の実兄の紅蓮ぐれんが私を贄の役割から下ろすためにここに来ようとしているらしいです。兄様を敵に回したくないのでその時が来たら彼と一緒にこの死喰い(タナトス)の樹から一時的に外出しようと思います。その間私に付いていて欲しいのです」


 すると、隣にいた止水題という男の人が喋り出した。


「なるほど、分かりました。それで、漆我紅に殺された僕ですか。大体の事情は分かりました」

「理解が早くて助かります。期待していますよ、最強の特異能力者エゴイストーー」


 それを聞いて彼の正体を確信した。止水題、彼はお師様に唯一サシで戦えばどうなるかわからないと評価されていた弟子の一人、そして護衛軍の中でも最強の特異能力者エゴイストと呼ばれていた男だ。10年以上前にお師様がまだ機関の校長をしていた頃の生徒なのだろう。


「君が封藤先生のお孫さんか、これから一ヶ月よろしく頼むよ」


 彼は不敵に笑い私と握手をした。

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