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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 42話 最高の友達

 少し屋上で待っていると黄依きいちゃんと衿華えりかちゃん二人が来た。私が今出来るのはただ一つ、彼女達の気持ちを理解する事だった。


「あー今日も星が綺麗だねー」

「どうしたの紅葉もみじ? 急に話なんて」


 私は柵に腕を置いてずっと夜空を見ていた。


「うん、少しね人には言えない事」

「そう? 悩み事? 最近よく紅葉いい笑顔で笑うからそんなんもうないと思ってた」

「紅葉ちゃんの悩みなら何でも聞くから、ねっ座ろう?」


 二人はベンチに座ると私を誘導してくれた。


「ありがとう」


 そう言うと私も彼女達の真ん中に座った。


「単刀直入に言うけどさ、私のことどう思ってる?」


 私は迷わずキッパリと彼女達に対して聞いてみた。


「どうって……? うーん、紅葉ちゃんの何について?」


 衿華ちゃんは首を傾げながら私の方に視線を向けてきた。


「えーっと、人間性とかその……私に抱いている印象とか」


 彼女達は顎に手を付けて考え始めた。そして、黄依ちゃんがまず初めに口を開く。


「紅葉がなんて答えて欲しいのか分からないんだけど、貴女は私にとっての仕事のパートナーで、体術的には目指すべき一目標だし、寮では家族みたいな感じよ」


 少し照れくさそうに黄依ちゃんが言う。


「うん、ありがとう。じゃあ衿華ちゃんも聞かせて」

「あっうん。紅葉ちゃんはね衿華のね憧れなんだよ。届きたくても届かない、だけどずっと優しく隣にいてくれるそんな場所」


 彼女は目を輝かせながら私を見つめてそう言った


「うん、そっか」


 私は自分の胸に手を置いて、少し心を落ち着けた。


「私ね二人にね、謝らなくちゃいけないの」


 衿華ちゃんは顔を見合わせて少し驚くが、黄依ちゃんは察しがついていたかのように黙り私の話に耳を傾ける。


「私、ずっと二人のことをストレスの発散の手段の一つだと思って見てたの。それで、二人と色々な事をした。それってさ、二人の気持ちを弄んでたって事になるよね?」


 すると、黄依ちゃんはふざけたような声で私に言う。


「何〜今更気付いたの? 別にそんな事、私達は気にしてないわよ」

「でも、それは私に気を遣ってるんじゃない……? 二人を傷つけていたんじゃないかって思ったから……私は……」


 しかし、衿華ちゃんが私の顔を両手で掴んで言う。


「聞いて、紅葉ちゃん。衿華は紅葉ちゃんのこと大好きだよ」


 真っ直ぐな瞳に目を合わせられて、私はそれを少し逸らしてしまう。だが、やはり衿華ちゃんはそのまま聴き心地の良い可愛らしい声で私に優しく諭すように喋ってくれた。


「衿華はね、キッパリとした関係を保ってる黄依ちゃんとは違って紅葉ちゃんの事でめんどくさくなったり、嫉妬したり、悲しんだりして一杯傷ついたよ。だって紅葉ちゃんの事になると心が紅葉ちゃんの事でいっぱいになるんだもん」


 それは、予想していた告白だった。


「本当はもっと紅葉ちゃんの事を知りたい。私だけしか知り得ないような秘密を知りたい。紅葉ちゃんと誰よりも一緒に居たい。紅葉ちゃんと色々な気持ちを持って触れ合いたいよ。……でもさ、最近の紅葉ちゃんを見てるとね、衿華はとっても嬉しい気持ちになるんだ」


 そして、予想以上の告白だった。


「衿華ね、分かっちゃったの。衿華は笑顔の紅葉ちゃんが一番大好きだって。だから、今までがどうだったとかは言わないし、紅葉ちゃんが衿華達にしてきた事を許して欲しくないのなら、衿華は絶対に許さないよ」


 予想以上に衿華ちゃんの私への想いは強かった。このことがより一層私の心を締め付けるが、それを察したのか彼女は私が逃げないようにしっかりと頭を掴んだ。


 次の瞬間、口づけをされた。


 いつも以上に震えた身体と声。


 それだけなのに、それだけなのに、胸の鼓動が苦しくて、途方もなく悲しくて、酷い事をしていたのだなと何回も思い知らされてしまった。


「これがっ! ……最後だからっ! もう嫌ならこれからは衿華の事は突き放して! 気付いちゃったの、衿華は葉書はがきさんや瑠璃るりくんに敵わない、紅葉ちゃんの為にあそこまでの行動や言葉はかけてあげられない。衿華は紅葉ちゃんが幸せに笑ってくれる事が一番なの。本当にそれで満足なの。それが衿華の幸せなのっ!」

「それを肯定する事は私をクズで最低な人間にする事だから……その気にさせちゃったのは私の方で悪いのは全部私だから……ちゃんと謝らせて欲しいの……」


 事情があったからとかそういう問題じゃない。してしまった事は……過ぎ去ってしまった事は取り返しがつかない。だから、私に謝らせて欲しいの。お願い、今は私に優しくしないで。


 衿華ちゃんの瞳から雫がこぼれ落ちると、側で見ていた黄依ちゃんが優しく衿華ちゃんを撫でてくれた。


「……紅葉、衿華。二人とも落ち着きなさい。そもそも私達は誰もが過去に色々ありすぎて人との距離の感覚が異常になってしまったのよ。だからと言って私は紅葉の一連の行動を許す気は無いし、それでも衿華を肯定する事は違うと思う」


 冷静に淡々と黄依ちゃんは話す。


「私は元々別に好きな人がいるって最初に伝えてたし、そういう事ならって事で紅葉と一緒の時間を過ごした事はあった。正直、私の心はお母さんの事もあって、不安定だったからそれで随分救われた。衿華にも色々あったのだと思う。結局、私は今もその好きな人への気持ちは変わらなかったけど、衿華は次第に紅葉に惹かれてしまった。それを最初は良しとした紅葉に非はあると思う。だから衿華、紅葉の謝罪は受け入れてあげて? でも、紅葉は謝罪をしたからと言って荷が降りたなんて勘違いしたら私がぶん殴るわよ?」


 涙を浮かべながら、コクリと衿華ちゃんは頷いた。それに続いて私も頷く。


「ごめんなさい、衿華ちゃん」

「ねぇ……紅葉ちゃん。紅葉ちゃんは衿華の事どう思ってるの?」

「大切に思ってる」

「どういう関係として?」

「この仕事をする上でのパートナーとして」


 拳を握り締めながら言った後に下唇を思い切り噛む。


「でもっ! 友達として大事なのっ!」

「うん」

「都合が良いって分かってる、最低だって分かってる。でも、衿華ちゃんの隣には私はいけないの。大切だから。もう壊れるのが怖いから」

「うん」

「私の事を最低だって色んな人に言いふらしたっていい。私を陥れたって構わない。だから、だから……これからずっと親友でいよ?」


 涙というものが出た。それは出そうとして出した訳でなく自然に出てきたものだった。それがまるで目の前の衿華ちゃんを無理矢理説得させる為に出たようなもので、また自己嫌悪に陥りそうになった。


「ずるいよ」

「お願い……」


 二人の掠れた声が屋上の空気に溶けて消えて無くなっていく。


 私の身体に震えた暖かくて触れば壊れてしまいそうなものが当たった。


「あぁーあ、初恋の相手間違えちゃったかも……ここまで徹底的にフラれても衿華はまだ紅葉ちゃんの事が好きなんだなって。こんなにも辛いんだ。大好きな人から距離を置かれるって。ねぇ……今だけはこうさせて」

「……うん」


 暫く、私達の間に無言で互いを見つめ合う時間が出来る。そして、衿華ちゃんは覚悟を決めるとその口を開いた。


「友達ね……いいよ。衿華がたとえこの先いつか仕事中に死んだとしても、紅葉ちゃんが忘れられないくらいの最高の友達になってあげる」


 衿華ちゃんが、私から身体を離した。


「だから、笑って」


 衿華ちゃんは私の涙を拭ってくれた。

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