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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 41話 きっとまだ

 瑠璃くんと出会い、私は大きく生活を変えた。術後の後遺症による自死欲タナトスの発生が大きく減った事は私にとってこれ以上の無い程の喜ばしい事であった。そして、葉書お姉ちゃんから良い意味で独立出来た事であった。


 でも、それは決して良い事とは限らない。私は黄依きいちゃんや衿華えりかちゃんと身体的に深く何度も交わってしまった。これは自分の思惑と二人の意思で行った事であるから葉書お姉ちゃんのせいという訳では全くないけれど、事の根幹には少なからず彼女も関わっていたのだと思う。


 その証拠に、瑠璃くんと会ったあの日から二人に対しては利害の一致が出来た結果の肉体的な関係に私は今まで以上に罪悪感を感じていた。そのため、今は彼女達から誘われても断るようにしている。


 これまでは、色々な感情の捌け口として互いを使うのは彼女達の特異能力者エゴイストの特徴として仕方のない手段であると感じていた。それに、私が死にたくなると思うくらいなら色欲に溺れていた方が私自身人間として生きていけたという事も有るのだろう。


 でも、それは逆に彼女達を傷つけていたのではないか。『依存』や『憧憬』という彼女達の性質上、私に何か思うところがあったのではないか。もし、そうなってしまっているのなら私は何してもを償えない罪を犯してしまったのでは無いのだろうかと考えた。


 なので、彼女達二人に直接私に対してどう思っているのかを三人だけで会って聞こうと思った。護衛軍本部、病院の様な建物の屋上。いつか、黄依ちゃんの昔話を聴いた場所だった。夜空に咲く星々はあのでかい樹に少し隠れて見えづらかった。夏がまだ来ていないから、少し肌寒さを感じた。


 今は夜だから誰も居ないと思ったが、そこには先客がいた。


「あぁ……紅葉か。こんな時間に喫煙所に来るとは何の様だ?」


 長くボサボサの髪とくっきりと浮き出ているクマに煙草を吹かしている彼は色絵しきえ青磁せいじであった。


「先生、煙草臭い」

「んじゃ、こんなところに入ってくんな」

「それも、そうだね」


 クスリと少し笑いながら答えると彼は驚いた様に言う。


「お前らしくない笑い方だな」

「ははっありがとう。最近ね、ちゃんと心の底から笑える様になった気がするの」


 彼が口に咥えていた煙草を手に取り、灰を皿の上に落としながら上にふぅと白い息を吐く。


「煙草ってさ、吸うと気持ちいの?」

「何つうか、まぁこの銘柄は甘い奴だな。喉がスースーして美味しいぜ」


 しばらく、時間を置き煙草を冷ました後また彼はそれを口に咥えゆっくりと吸う。


「一本貰えるかしら?」


 すると彼がゴホゴホと咳をする。


「やめとけ。吸って得するものじゃねえから」

「良いじゃん。かっこ良さそう」


 彼の私に対する対応に納得がいかなくて少し頰を膨らます。


「あのな、お前の研究者の立場として言わせて貰うとな、仮にも臓器移植して、俺様の弟に迷惑かけて後遺症まで取り除いて貰ったのにそれはないぞ?」

「それを言われたらおしまいじゃん」


 私は膨らました頰の分だけ煙草の煙を吐く真似をして溜息を吐く。

 先生の煙草はもう短く、そのまま、灰皿に吸い殻を捨てた。


「さて、どうせここであの二人と待ち合わせしてんだろ。俺様はあいつらの事が嫌いだから帰らせて貰うぜ」


 そう言うと彼は扉に向かって歩き出す。


「あっそうだ。これお前に渡しとく」


 二つのジッパー付きのポリ袋を投げ渡される。両方とも錠剤の入ったものだった。例のDRAG(ドラッグ)なのだろう。原材料となったのはおそらく黄依ちゃんと衿華ちゃんの細胞。


「使いたかったら使え。どうなっても俺様は責任は取れん。ただ、お前は体質上それを二、三度使っても理性のない感情生命体エスターになる事は無いだろうよ」


 彼はそのまま扉を開け、自分の研究室に帰って行った。


 護衛軍に入ってから、初めて再会して彼の言っていた事を思い出す。


『ーーDRAG(ドラッグ)は通常他人のものは使用しても絶対に身体に作用しない。しかし、二年程前に夫婦の特異能力者エゴイストがいて、それぞれが互いのDRAG(ドラッグ)を取り違えて使用した事があった。そしたらな、二人にそれぞれの特異能力エゴが発現したんだよ。その後二人は理性のない感情生命体エスターになって、今の護衛軍の旅団長に殺されたけどなーー』


 そう、彼は『夫婦間』と言った。そして次に彼はパートナーとなる特異能力者エゴイストの特徴的な細胞を持ってこいと言った。


 ーーまた、その特異能力者エゴイストと肉体関係を持てとも言った。


 これは他者の特異能力を獲得する為の許されざる行為であったのだ。つまり、私は彼女達を完全に利用する為に、今迄接してきていたのだった。

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