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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 38話 筒美紅葉と色絵瑠璃4

 広い運動場の中央に立つ二人。


 私と瑠璃るりくん。彼から出る不思議な雰囲気、そして過去に経験してきた事は私を本気にさせるのには十分だった。


 このルール上、相手に攻撃を10回与えるそれか、相手を行動不能にする事で勝利する事が出来るけれども、これはそれぞれにとっての勝利条件になると私は予想した。


 恐らく、瑠璃くんの特異能力エゴは他の特異能力エゴと比べても長時間使える物ではない。彼の特異能力エゴは全ての現象、物質に干渉できる物、しかしそれ相応の体力を使う。という事は私が狙うべきなのは特異能力エゴの制限時間。


 そして、彼にとっては私がお姉ちゃんと同調を強めないのなら、軽めに特異能力エゴを使い堅実に攻撃を与える方がいい。


 だけど今は実戦じゃない。さっきも思った通り、これは私がよりお姉ちゃんと同調する為の模擬戦にする。それに、彼が本気で来て欲しいと言った。だから、敢えて悪手を打つ。


「来た……これが紅葉もみじの本気」


 熱が周りの空気に浸透する。いつもより、落ち着いた心臓の鼓動が私を包む。今までの私はお姉ちゃんに包まれて、お姉ちゃんを感じていただけ。


 だけど、今は違う。お姉ちゃんの事は絶対に忘れない。だけど、私は大事な友達ができた。その事を改めて自覚した。そして、目の前の彼も。


 瑠璃くんがこちらへ向かってくる予備動作が見える。


 筒美流対人術急ノ項『狂花きょうか』。


「ッ……はや⁉︎」


 その瞬間、私の体は瑠璃くんの攻撃に合わせて動く。彼から放たれた蹴りはそれが始まる前に避け、反撃を出す。


 筒美流攻戦術急ノ項『百花ひゃっか


花紋かもん』の応用技、『桜花おうか』の乱打技。一秒に放たれる拳の数はおよそ百以上。並の感情生命体エスターなら『桜花』の時点で行動不能までに追い込めるが、彼は違う。


「グッ……」


 予想通り、拳は彼に一度当たった後、私の体があらぬ方向を向いて全ての拳が空を切った。勿論当たった一発も特にダメージの入るものでは無かった。理由は当然、彼の特異能力エゴによるもの。私の身体の向きを変えられたのだろう。


 隙をつかれないように、私は咄嗟に彼から離れた。


「はぁ……はぁ……危ない」


 彼はすいちゃんと似た現象を起こしたのだろう。特異能力エゴの適用範囲……本当に全ての事象に干渉できるの……? 今度は遠距離からの攻撃で試してみようか。


 防御術『開花』の応用で空気中にあるERGエルグを圧縮し凝固させる。ERGエルグ特異能力エゴや私のような非特異能力者アルトゥーイストが技を出す為のエネルギーになるもの。それを固めて武器の代わりにするのだ。


 凝固し固体となったERGエルグを掴み、ボールのように思い切り投げる。音速を超えたそれは、周りに突風を起こしながら瑠璃くんへ突き進む。


 しかし、彼は笑いながら何かを呟き、周りに異質の空間を生み出した。光が屈折し、さっきまで見えていた瑠璃くんの姿がなくなり、鼓動音や呼吸音がやけに静かになり、匂い、空気の微かな振動、彼自身から出るERGエルグすら感じ取れなくなり。更に、投げたERGエルグは何かに掠った形跡も無く、チリと消えた。


 そして、消えた部分から瑠璃くんは現れ、さっきまで無くなっていた彼の情報全て、私が感じ取れるようになる。


「なるほどね。やっぱりここまで純度の高いERGエルグになれば人が精製したERGエルグでも僕の特異能力エゴで吸収できる。紅葉の精製したERGエルグは僕が知っている中でも一番純度が高い……」


 彼は予定通りに事が進んで嬉しそうな顔をしている。


 逆に私はというと、渾身の力を振り絞って出した技をすんなり吸収されて結構疲れている。


「はぁ……はぁ……私が処理したERGエルグを吸収……それが瑠璃くんが試したかった事?」

「うん、そうだね。これで僕の時間的に制限があるっていう弱点を克服する事ができる」

「なるほどぉ……はぁ……だから本気で来いって言ったんだね……相性が悪いというか、良いというか」


 お姉ちゃんの臓器と同調し始めた時と比べて、心臓が異常に鼓動している。やっぱり、完全には私に同調してくれないのか。このままだと、死喰い樹(タナトス)の腕が来るかな……?


「紅葉大丈夫? まだ続けれる? 無理はダメだからね?」

「まだ、大丈夫……でも、もし私が倒れて、腕が来る事になったら、その時は私を守ってくれると嬉しいけど」

「分かった。ありがとう、僕のわがままに付き合ってくれて。これが初めて出来た相手が紅葉で良かった」


 より深くお姉ちゃんと同調する。ここまで来ると、お姉ちゃんの幻覚や幻聴、色々なものが感じ取れるようになってくる。より熱が強くなり、周りのERGエルグにさえ干渉できるようになる。


『ーー紅葉くれちゃん、私が守るからねーー』

「うん、ありがとう」


 幻覚であろう葉書お姉ちゃんの手を握り締め、周囲の空気中のERGエルグを空にする程吸収する。

 特異能力者エゴイストにとってのエネルギー源を空にする事で相手のガス欠を狙う。私がもし瑠璃くんに勝てるとしたら、これしかないッ!


「……僕のエネルギー源を絶った。後全力で特異能力エゴを使えるとしたら、二、三十秒かな……」


 腕が来る気配が感じる。私がお姉ちゃんになろうとすると来るのかな、駄目だった……。結局私の過去は無駄だったのかな。


 後、腕が来るまでの時間は約二十秒。


 でも私は、私達はこの二十秒に全てをかける……!


『ーー筒美流対人術終ノ項、奥義『鳥語花香ちょうごかこうーー』


 全神経を集中し、周囲の五感的情報を観測し、瑠璃くんから微かに精製されるERGエルグを把握、そして彼が次に取る行動を予想してそれを叩く。


「さぁ決着をつけるよ……!」

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