第一幕 37話 筒美紅葉と色絵瑠璃3
「うわ出た、祖父だ」
目の前に急に現れた老人に対してつい私はそんな詠嘆をしてしまった。
「出たってなんだよ、俺は感情生命体か何かか?」
「鬼でしょ」
「鬼だな」
「なんだこいつら……育てたり匿ってやった恩とかないのか」
祖父はやれやれと息を吐く。
「なんのようだ糞爺」
「あぁ?例のやつだ」
「思い当たる節がありすぎて分からん」
「樹教だよ。 樹教。 一年前から活動が活発になってるからお前らどんな対策してんだって世話焼きに来たんだよ」
「世話焼き糞爺じゃん。老害かよ」
「うるせえ、お前と話すと話が拗れるんだよ馬鹿」
溜息を吐きながら祖父は言った。
「んで、そこの四人は護衛軍の人間か?」
祖父は完全に置いてけぼりになっていた黄依ちゃん達に話しかける。
「はっはい! ニ尉官の霧咲黄依です! いつもお孫さんがお世話に……? 私がお世話しています!」
「ちょちょちょ⁉︎ 黄依ちゃん⁉︎」
「あっごめんな、こんな孫で。紅葉てめぇ、なに人の世話になってんだよ。んでそっちのもう一人制服着てるやつは?」
祖父は私を無視して、衿華ちゃんに話しかけた。
「えっあっはい! 三尉の蕗衿華です。紅葉ちゃんは私にとってかけがえのない存在です」
「紅葉、お前良い友達持ったなぁ……友達でかけがえのないなんて言葉中々でないぞ」
「っはは……」
私は口の片端を45度くらい上げて呆れたように笑う。当然、衿華ちゃんにとってのかけがえのない私は『私にとっての葉書お姉ちゃん』のような存在だから、都合よく解釈されてこんな風に顔を歪めたくなる私の気持ちも誰かには伝わってほしい。
「なっなに紅葉ちゃん、その悟ったゆるキャラみたいな目は⁉︎」
「なんつー目してんだよ。なんかやましい事でも隠してんのか?」
まぁ口が裂けても衿華ちゃんや黄依ちゃんと肉体関係を持っているなんて言えない。というか言ったら死なない程度に殺される。
「んまぁいいか。んで、そっちの洋物の服着てんのがあれか。家保の馬鹿……てめえらの現校長が言ってた全然護衛軍に入ろうとしない問題児」
「なんかとんでもない言い草ですね。まぁ多分それ私なんですけどね。はい、そこの青磁にーさんの妹の色絵翠です」
「……あの馬鹿校長を困らせてやんなよ? あれでも、色々マスコミに対する隠蔽工作とかその他諸々で死ぬほどストレス抱えてんだから」
「私、この瑠璃くんと離れたらストレスで死ぬんで、自分が死ぬくらいなら校長がいくら死んでも構いませんよ」
「……こいつも大概だな」
諦めたように祖父は溜息を吐いた
「溜息をばっか吐いてたら幸運が逃げていくよ?」
「……んな事言うなら、まともな会話をする努力をしろ。んで、そこの着物着てる奴があの瑠璃でいいんだよな? 」
祖父が瑠璃くんを指差しながら、本人に尋ねると言うよりかは、青磁先生に聞いていた。だがそれを無視して瑠璃くんが答える。
「うん、貴方が紅葉のおじいちゃんなんだね」
「あぁそうだが、お前こんな所にいていい存在なのか?」
祖父は眉をひそめながら、瑠璃くんの事を警戒する。勿論、祖父からすれば、瑠璃くんは人の形をして、人のように行動して、人のように考える、得体の知れない感情生命体だから。
「だから、そのさっきまで僕を外に出してもらえるように誰かに外出許可をしてもらおうと思っていたの。貴方が一番都合が良さそうだけどダメかな?」
「……なるほどな。その様子だと、切手……青磁の研究は上手く行っているようだな。分かった。今の護衛軍の大将、馬鹿弟子の家保に連絡しといてやる」
昼間に会った、『機関』の校長の事だろう。やはり、彼は祖父の弟子だったか。
「んで、お前らは今何してやがるんだ?」
「えっと、瑠璃くんが私で何か試したいから、模擬戦をしようという話になって」
「まぁ、俺様は面白そうだから付いてきただけだがな」
「だいたいみんな興味半分でしょ?」
すると、祖父は意味深げに手を顎に当てて何かを考えた後口を開いた。
「俺もその模擬戦観ていいか?」
「別にいい、というか祖父がいれば、誰か偉い人が来ても説明楽そうだし。是非観てきなよ」
「へいへい、了解」
私達は少し歩き、運動場に着いた。縦横に200メートル程あり、サッカーのゴール等のスポーツ道具をはじめ、ベンチなども置いてあった。
私と瑠璃くんは中央に立ち、各々の準備を始める。
「さてと、私は最初から本気でいくよ」
髪に結んだ葉書お姉ちゃんのリボンを確認し、結び直す。
「ルールはどちらかが行動不能になる。又は、相手から10回以上ダメージを与えられたら。それでいいかな?」
「うん、問題ないよ」
少しだけ、緊張しながら生唾を飲む。
「じゃあ始めようか?」