第一幕 36話 筒美紅葉と色絵瑠璃2
「勝負……かぁ……なんで?」
「んー、少し確かめたい事があってさ。普段、紫苑お姉ちゃんから戦闘は禁止されてるし、紅葉なら試しても大丈夫そうだからね。勿論本気できてよ」
「なるほどねぇ……少し考えさせてね……」
今日は一度内臓の活性化をして死喰い樹の腕を呼び出したから身体への負担を考えると、無駄な戦闘はやめた方がよさそうだけど……
ポケットに入っていたリボンを触る。お姉ちゃんの形見のリボンだ。
私の過去を皆んなに打ち明けた今なら、お姉ちゃんとより強く繋がる事が出来るかもしれない。そうすれば、お姉ちゃんの内臓を生きていると、死喰い樹の腕に錯覚させる事が出来るかもしれない。
リボンをポケットから出して後ろ髪を縛る。
「そのリボン……葉書さんのリボンって言ってたよね、似合ってるね」
「そう? ありがとー」
「そのリボンを結んだって事は勝負は……」
「やるよ」
周りを見渡して、広い場所を探す。少し遠いが公園内に運動場を見つけた。
「ちょっちょっと紅葉、まさか外で模擬戦する気なの?」
「まぁ夜も遅いし、周りに人居ないから別に良くない?」
「いやいや非特異能力者ならまだしも、特異能力者はダメでしょ! それにその瑠璃って子、感情生命体なんでしょ? せめて、本部の運動場でやりなさいよ! すぐそこじゃない」
「あぁ……そっか、その通りだね」
すると、瑠璃くんが翠ちゃんに近寄る。
「ねーねー、翠ちゃん。護衛軍本部まで瞬間移動出来る?」
あぁ……なるほど、翠ちゃんの特異能力ですぐにでも行こうという魂胆ね。
「うーん工夫すればなんとか……一応、中継地点何個か作ればいけるかも 」
翠ちゃんは十数弾の銃弾を取り出して、それを空中に投げる。すると、その場で無くなり弾はどこかに消える。
「もうお気付きかも知れないんですけど、私の物質転移は直接人を転移させられないんですよね。だから、こうやって弾丸とかナイフとかを媒介にして色々な方法を試しながら戦っているんです。でも、ナイフだとかさばるんで大体いつも銃弾なんですけどね。あっ護衛軍本部に弾丸が届きました。皆さん間接的にでもいいので私に触れて下さい。青磁にーさんは目閉じてて下さい。絶対酔うんで」
「うるせ」
青磁先生は馬鹿にされるのが嫌いなのかふてくされながら瑠璃くんの着物の裾を掴む。それに続いて瑠璃くんが私と翠ちゃんと腕を組み、翠ちゃんのもう片方の腕に衿華ちゃんや黄依ちゃんが絡みつく。
「それじゃあいきますよー、物質転移」
すると、断続的に景色が入れ替わりあっという間に護衛軍本部に着いた。
「あっそうだ。今更だけど一応僕、護衛軍からは監禁対象になってるから、外出許可だけお願いできる?」
「うっうん、立場上一番強いのは……やっぱり紅葉ちゃん? それとも青磁さん?」
「俺様は便宜上護衛軍の研究者って事になってるが、表ではなぜか病院に入り浸ってるピチピチの大学院生だ」
その言葉に黄依ちゃんと衿華ちゃんが驚く。
「……大学院生ぇ⁉︎ 私達より10歳くらい年上だと思ってた……」
「これでも青磁先生は22歳だからね。私達の4歳上。だから立場上、ニ尉官である私か黄依ちゃんがこの中では一番偉い事にはなるよ」
「普通に言ってるが18歳で軍の尉官ってのも大概だからな」
「だから、祖父の七光りって言われる事もあったりなかったり」
ちらりと黄依ちゃんの方を見ると、照れたのか視線をそらす。初めて会った時の黄依ちゃんの生意気さときたら懐かしくて初々しくて、今との違いを考えたら頰が緩んでしまった。
「ははーん、霧咲てめぇ初めて紅葉に会った時こいつがコネか何かで入ったって勘違いしたんだろ?」
「……だから……その、あの時はごめんって」
「あっボロボロに負かされた奴だこれ。俺様、この話に突っかかりたい。いいか紅葉?」
「だめだよー。黄依ちゃんをいじめいいのは私だけだから」
私は黄依ちゃんの頭をよしよしと撫でた。
「んでさ、話戻すけど瑠璃くんの外出許可は誰かに見つかっても私が出したって事にすればいいよね?」
「そうしとけ、あの糞爺の頭から反射される七光りでも当てておけば大抵の奴は黙るから」
「祖父の薄毛ディスっちゃダメでしょ。今度会った時チクとく」
「とんでもない奴からとんでもない悪口言われた気がするんだが?」
後ろから祖父の声が聞こえたので振り返る。
「そうそう、今、祖父の悪口を青磁先生がって……えっ?」
「あっやべ……なんでここに居るんだよ糞爺」
スーツ姿でポケットに手を入れている初老の老人。白い髭と少し薄毛の白髪で、顔に皺がある。そして、何者を近寄らせないこの雰囲気。流石だ……さっきまで完全に気配を消していて私でさえ気付かなかった。
「よぉ……久しぶりじゃねぇか。たった今俺の頭の七光りを馬鹿弟子の家保に浴びせて来たところだ」
私の祖父、筒美封藤だ。