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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 35話 筒美紅葉と色絵瑠璃1

「これが私……筒美つつみ紅葉もみじの人生だよ」


 説明し終え、ふぅと一息をつく。気が付けば1時間以上経っていた。すっかり辺りは真っ暗で、公園のライトが私達だけを照らしていた。


 この話を予め知っていた、切手きって兄さんもとい青磁せいじ先生はけっと顔を顰め、衿華えりかちゃんは私を安心させようと黙ってぎゅっと手を繋いでくる。


「……」


 黄依きいちゃんは黙って樹の方を見つめ、すいちゃんは溜息を吐いていた。


 そして、瑠璃るりくんは瞬きをする事なくずっと此方を見つめていた。


「昼に翠ちゃんと戦っていた時に急に死喰い樹(タナトス)の腕が私に向かって来たのは、私の身体から死んだ葉書はがきお姉ちゃんの内臓を感知して、樹に引っ張ろうとしたから。意図的に身体中を活性化させようとすると、あんな風に腕がくるの」


 彼は納得がいったように相槌を打つ。


「ふーん、なるほどね。紅葉から自死欲タナトスの感情が感じられたのも、その葉書っていう人が紅葉の中にいるからなんだね」

「でも、紅葉ねーさんと闘ってみて分かったけど、あの時のねーさん、私が殺す気でやらないと勝てないくらい強いかったんだよね」

「それはね、お姉ちゃんが非特異能力者アルトゥーイストの中でも筒美流奥義を殆ど極めた天才、そして私もお姉ちゃんも共に師匠が護衛軍前大将筒美封藤(ふうとう)で、その血を受け継いでいるの。そんな優秀な血筋で、鍛えられた身体を使えば、死喰い樹(タナトス)の腕は来るけど、少しの時間私はお姉ちゃんの力を借りる事が出来るの」

「……馬鹿言ってんじゃないわよ」


 黄依ちゃんは呆れながら、此方を向き口を開く。


「大体紅葉さ、辛くないの? 他人の臓器を身体に入れたっていう拒否反応だってあるし、そもそもその人が死んでいるから自分にまで自死欲タナトスによる呪いまで受けている……」

「なぁに? 心配してくれてるの?」

「そっそうよ! 当たり前でしょ⁉︎ 噂では聴いた事あるけど、人から受けた臓器提供によってでた自死欲タナトスの感情は死ぬ程辛いって……」

「死ぬ程辛いんじゃなくて、死にたくなるから辛いんだよ」

「ならいっそアンタはこんな命を張るような仕事に就くんじゃなくて、普通の女の子らしく学校行ったり、仕事を選んだり、恋をして結婚とかして普通の幸せを掴むべきだったんじゃないの⁉︎」


 黄依ちゃんは必死だった。きっと、私が無理していると思っているんだ。そんな風に私の事を大事に思ってくれる友達が出来たのなら、お姉ちゃんが教えてくれた通り私は護衛軍に来て本当に良かった。


「でもね、それはさっき言った通りお姉ちゃんの最期の願いだし」

「それはアンタが決める事でしょう⁉︎ アンタは特異能力者エゴイストなんかじゃない! そんな人生を送って来たのならアンタにだって幸せを願う権利くらいだってあるじゃない!」

「ありがとう。私の為に怒ってくれて……でもそれは、黄依ちゃんも同じでしょ? いくら罪を犯しても、それを償おうとしても黄依ちゃんは幸せになる権利くらいあるよ。でも黄依ちゃんは自分がより辛くなるような道を選んだ。私も一緒なの。自分は不幸になるべき人間なんだって心の底で思っちゃってるの。こんな私を理解して受け入れてくれる人なんてそうそう居ないよ」

「紅葉……」

「だから、私の話を親身になって聴いてくれて良かった。話してみたらスッキリしたよ。こんな話聴いてくれる友達がいるってだけで、少しでも救われた気がする」


 黄依ちゃんは私の手を握ってくる。


「こんな私でいいなら、もっと話して。隠し事なんてしないで。アンタが辛いならそれだけ私も一緒に幸せになれるように考える。だから……だから!」

「プロポーズって事で受け取っていいのかな?」

「っ……ばか! 人が真剣に話してるのにからかわないでよ!」


 顔を赤くして黄依ちゃんは怒っている。


「もちろん、衿華も一緒に考えるからね!」

「ありがとー衿華ちゃん!」

「無茶しちゃ駄目だよ? 衿華ならいつでも紅葉ちゃんのお話相手になれるから」

「夜の相手も期待してるからね!」


 少し沈黙が流れた後、各々が各々の反応をした。


「えっ?」

「はっ?」

「おい、この馬鹿やりやがった」

「雰囲気ぶち壊したよ、このねーさん」

「あははーやっぱり紅葉面白いや」


 衿華ちゃんは顔を真っ赤にさせ、頰を膨らませている。


「もっ紅葉ちゃんのばかぁぁあ!」

「これは衿華に同意」

「あぁ、全くだな」


 絶対意見の合わなそうな黄依ちゃんと青磁先生は首を縦にふる。

 衿華ちゃんは私の両肩を掴みゆらゆらと揺らしながら私に訴える。


「恥ずかしい事言わないでよ! あの話の後でこの雰囲気だと私めちゃくちゃ変態みたいになっちゃうじゃん!!」

「えっでも衿華ちゃん、相当な変態さんじゃん? 意外とマゾだよね、衿華ちゃんって」


 ……また空気が静まり返る。


「ぎぁぁぁ!! ちょっと公園走ってくるぅ!!!」


 衿華ちゃんが髪の毛をくしゃくしゃにしながら足早にここを離れていった。


「……聞かなかった事にしてあげよっか。衿華の私的な事まで突っ込む気は……」

「えっでも黄依ちゃんも……」

「だからヤメロォ!!!」

「割と感じてる時とかの……もごもご」

「アーアー! 聞こえない! 聞こえない!」


 黄依ちゃんは私の口を抑えて私を喋らさないようにしてくる。


「ねぇ……青磁にーさん。紅葉ねーさんって昔からあーなの?」

「……女癖の悪さは完全に葉書のせいだからな。俺様は全くもって関与した事ねえから知らね」


 呆れながら二人は遠くで話していると、瑠璃くんが青磁先生に話しかける。


「青磁にぃ、僕の薬って紅葉を参考に作ったんだっけ?」

「あぁ……お前の場合、特異能力エゴを発動する為のエネルギー……つまりERGエルグが不安定なんだよ。その点こいつは葉書の内臓に含まれていたDAYNダインを上手く使いこなして、調整している。あの手術を一応見させて貰っていたし、なんとなく仕組みは理解できたからな。そいつを参考にして後はちょちょいと俺様の特異能力エゴで作れば補正はできる」

「青磁にぃの特異能力エゴ便利だよねぇ……」


 うーん、と青磁先生は唸る。


「いーや、膨大な知識量いるし、計算とかしないといけないから、戦闘には向かねえし、実際長時間かけて錠剤一粒分の薬くらいしか作れないから超不便だぞ?」

「それでも、物質や生物の特徴たる特徴の理想……兄さんが言う真の存在(イデア)だっけ……? それを強化したり、拡大させるんでしょ?」

「んな、大した事は出来てねぇっつってんだろ。第一まだ紅葉達を襲ったあのやばい癌だったり、感情生命体エスター由来の精神汚染や病気は治せてねえからなぁ」

「まぁ、いいや。とりあえず兄さんと紅葉、それに葉書さんに感謝しないとね。ようやく、特異能力エゴの調整が効くようになってきた。調子が良ければ、悪性の細胞くらい簡単に取り除けるかも」


 瑠璃くんは親指をグッと立てて、こちらにサインを送ってくる。


「そうかもなぁ……まぁもしあの感情生命体エスターが樹海から街に出てきた時はお前に頼むわ、その前にあの糞爺様が殺してるかもしれないけどな」

「ふーん、紅葉のお爺ちゃんと僕、どっちが強い?」

「知らね、噂によるとあの糞爺様、時間やら空間やらに干渉しても、捻じ曲げられるらしいから今のお前じゃ勝てんのじゃないか」

「それ本当に非特異能力者アルトゥーイスト? 化けもんじゃんか」

「お前も感情生命体エスターだろうが」

「こりゃ、一本取られたねぇ……あっそうだ、紅葉ー!」


 長々と何かを話していたので意識を黄依ちゃんや戻ってきた衿華ちゃんに向けていたが、瑠璃くんに呼ばれたのでそちらを見る。


「なぁに? 瑠璃くん」

「勝負しよ?」


 どうやら、長い夜はまだ続くようだった。


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