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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 32話 筒美紅葉について7

 数十時間後、私達は護衛軍本部に着いた。そもそも護衛軍本部に向かっていた理由は、病院自体が護衛軍の組織下にあるからで、本部ともなれば解明されている病気のほとんどを治療できる環境があるからだ。


 それに、祖父は少し前まで護衛軍の元締めをしていたから、多少は融通が効くのだろう。実際、私がここに着いた時にはすでに祖父は私を手術する為の準備が整えてあった。


 どうやら手術でERGエルグを吸収してしまった内臓を切除するらしい。私は既にベットの上に寝かされていて、皆んなが手術に行こうとする私を見送ろうとしていた。


「おい馬鹿、緊張してるのか?」

「いや、別に。一応、切手きって兄さんのこと信頼"は"してるから」


 そして、祖父が話かけてきた。


紅葉もみじ、覚悟はできたか?」

「うん、大丈夫。私は戻ってくるからね」

「頼むぞ……」

「頼むのは私の方だよ。お医者さんによろしく頼むね」

「……あぁそうだな」


 葉書はがきお姉ちゃんの方を見ると、お姉ちゃんは今生の別れな様な顔をしていた。


「お姉ちゃん……さっきはありがとう。もう私は大丈夫だからそんな顔しないで」

「そうね……」

「お姉ちゃんも言ってたじゃん。こんな時だからこそ笑ってよ」

「うん……うん……そうだよね」


 お姉ちゃんは両手の人差し指で口の端をくいっとあげる。少し、間抜けで可愛げのある顔に思わず吹き出してしまいそうになった。


「あははっ何それ、」

「……今はどうしても笑えないからさ、無理にでもね。紅葉くれちゃんもいつか笑えない時にやってみてよ」

「今の顔、写真に撮っておけば良かったなぁ……」

「もぅ……こっちは真剣に話してるんだよ?」

「あはは、ごめんごめん」


 お姉ちゃんは手を握ってくれた。


「頑張ってね」

「うん」


 そして、私は手術室に入った。お姉ちゃんと別れるかも知れないという恐怖が私を包み込む度に、身体中に痛みが走った。だけど、お姉ちゃんがくれた物を数える度に、生きようと思えた。


 手術する為の麻酔が私に広がる中、恐怖が薄れていき、意識がなくなっていった。


 ◇


「最後の挨拶は終わったか?」


 お師様は私に悲しげに言う。


「はい。もうこれで最後なんですね……お師様の跡を継ぐという夢、私には届かなかったのですね」

「……すまんな、きっとお前の夢は紅葉が叶えてくれるから」

「きっと、あの子に恨まれちゃいますよ。だって私はこれからあの子にとって一番酷い仕打ちをするから」

「……そうだな。でも、必要な事だ。紅葉は俺の知る限り、あれの根源に最も近い人間だ」


 お師様は怨みを込めた様な目で遠くの方を見た。


「お師様も、辛いですよね……」

「こんな時くらい、そんな型苦しい呼び方しなくてもいいんだぜ? お前はずっとあの子の姉として頑張ってきたんだ」


 その祖父の優しげな声に、私は下唇を噛まずを得なかった。


「おじいちゃん……」

「ごめんな、今迄ずっとじいちゃんらしい事してやれなくて」

「あの子も……! 紅葉くれちゃんも……‼︎ 二度と普通の生活を送れないの……⁉︎」

「きっと生まれた時代が悪かったんだよ」

「そう片付けるしか無いのかなぁ……⁉︎ 折り合いを付けないといけないのかなぁ……⁉︎」

「そういうもんだ。悲しいかな……これがこの世界で人として生きていくって事だ」


 おじいちゃんは私の頭に手を乗せて、頭を撫でてくれた。そして、目から涙が流れた。


「葉書は優しい子だ。元気な子だ。信念を曲げない子だ。だから、紅葉を守ってやってくれ。それが葉書にしか出来ない事だ」


 おじいちゃんの服を掴みながら、私は声を震わす。


「手術が成功したらこの手紙とリボンを紅葉くれちゃんに渡してあげて下さい。私はもう行きます」

「そうか……時間か……」


 今から貴女に逢いに行くからもう泣かない。貴女の姉であり続けるから、覚悟は何回もした。


 ……悲しい事にこの世界は『脳死』は無い。脳が機能不全になった瞬間、死喰いの(タナトス)樹に感知され、肉体を回収されてしまうからだ。だから、臓器提供者は奇跡でも起こらない限り現れる事は無い。


 そして、紅葉くれちゃんがこれから受ける手術は、生命活動に極めて重要となる臓器の摘出が行われる。つまり、誰かが臓器提供を行わなければ、彼女は死んでしまうのだった。


 兄の切手はこう言っていた。


「お前が臓器提供者になるのは、術後のリスクを減らす為だ。分かるな? 血縁者である、適任者がここにお前か糞お爺様しか居ない。糞お爺様が居なくなったらこの世界がどうなるか分からない。だからお前なんだ」


 そう、だから私はこれから死ぬ覚悟をした。

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