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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act one 第一幕 死ねない世界の少女達
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第一幕 30話* 筒美紅葉について5

 義兄弟のはんちゃんとしゅうくんの謎の病を治療する為にで祖父の家から出発して数日間が経った。来る日も来る日も同じような樹木の景色、そして感情生命体エスターとで会う度に戦闘となる為、彼……切手きって兄さんの疲労が見えてきたところであった。


「ぜぇ……ぜぇ……なんで俺様がこんな歩かなきゃいけないんだよ! 誰だよ! 俺様に来いって言ったやつ!」

「てめぇだろ馬鹿ッ! 俺より先にボケたか⁉︎ 次、感情生命体エスター見かけてどっかに逃げてったら許さねえからな!」

「うるぅせぇぇえ! 糞お爺様! 強くて体力あるからって調子乗ってんじゃねぇぞコラ⁉︎」

「事実じゃねえか、俺や葉書はがきだけなら数時間で行き帰りできるわ!」

「だーまーれ! 俺は戦闘なんて野蛮な事はしねぇんだよ!」


 相変わらず、仲が良いのか悪いのか祖父と切手兄さんは言い争いをしていた。


 私とお姉ちゃんはそれぞれ判ちゃんと朱くんを背負って歩いている。


「二人とも、大丈夫?」

「コホッ……あの社会不適合者の兄貴よりは大丈夫」

「あ? なんか言ったか⁉︎ 朱、てめぇ! 誰が痛み止め作ってやってると思ってんだコラ?」


 すると、怒ったように判ちゃんが半目になりながら言う。


「はぁ……切手兄さん……貴方の作る薬、便秘とか吐き気が酷いのに効果が切れればあの薬ほしくなるんだけど。あと、大きい声出されると身体中痛くなるからやめてくれない?」

「知るかボケェイ! それにそれはモルヒネの副作用だぜ! 効いてる証拠だ馬鹿野郎!」


 私は切手兄さんの顔を手加減して殴り飛ばす。


「おい、てめぇ! ふざけんな! めちゃくちゃ痛えじゃねえか!」

「少しは静かにして。感情生命体エスターが寄ってきたらどうすんのよ」


 鬱陶しげに私が切手兄さんに構う。すると、兄さんは弄りがいのあるおもちゃを見つけたような顔をして、少し笑みをこぼしていた。私はそれに溜息を吐くが少しだけいつもの自分の精神状態に戻ることができ安心した。


 二人がよく分からない病気になって少し不安だったけど、こうして馬鹿な事をやれているし、二人共大事には至らないくらい元気そうでなりよりだった。出来るなら、こんな馬鹿みたいな生活を続けることが出来たらなと思った瞬間だった。


 祖父が臨戦態勢に入った。


「少し静かにしろ……三キロ圏内に例の感情生命体エスターが居る」


 例の感情生命体エスター……複数の感情を持ち、私では決して敵わないくらい強いとされている特異エゴ感情生命体エスターが近くにいる……


 なら、迂回して目的地に向かうべきだろうか?


 そんな事を考えていたら背負っていた判ちゃんが強く腕を掴み始めた。


「あっ……うっ痛い、肺が、肺が痛い、痛いよ! 助けて! 助けて! 助けて!」


 そして、ほぼ同時に葉書お姉ちゃんが背負っていた朱くん痛みを訴え始めた。


 切手兄さんは驚いたと言うよりは何かに気付き、恐怖のあまり、手を口に当てしまったように独り言を呟く。


「おい……モルヒネが効かない痛みってどういう事だ……? いくら、副作用を極力消してるからといってもあのモルヒネだぞ?」

「……? 病気の管理は切手兄さんの役割でしょ? 早く痛みを消して楽にしてあげなよ」

「……無理言うなよ馬鹿。つうかそもそもモルヒネレベルじゃないと痛みが消えないって時点で気付くべきだったな。この病気やばいなんてもんじゃねえぞ。もしかしたら、護衛軍の病院に行った所で治らねえかもしれねぇ……」


 苦しそうに二人は私たちに何かを伝えようとするが、肺に穴が空いているように、声がかすれて全然聞こえない。


「この……びょうき……はなにか……おかしい」

「に……げ……て……みんな……まに……あわ……なくなる……まえ……に」


 そして、警戒をより強めた祖父は何か確信したように口を開いた。


「おい、切手。まさかとは思うが、俺が感知した感情生命体エスターとコイツらの病、関係あるとしたらこの状況……」

「奇遇だな、糞お爺様。俺様も今その可能性が頭によぎって、この病気の正体が……不味いな、非常に不味い。糞お爺様は俺様を安全な所まで運べ! お前らもそいつらを置いて早く逃げろッ! もう無理だ諦めろッ!」


 何かを察したように祖父は瞬間的にこの場から消え去り切手兄さんを連れ去った。葉書お姉ちゃんは謝るような顔をした後、背中に背負った朱くんを下ろしこの場から消え去った。


「は……やく……もみじ……ちゃんも……もう……いた……すぎて……からだが……どこに……あるか……わから……ない」


 しかし、身体が固まってしまって、頭が真っ白になってしまって動けなかった。



「だ……めか……まぁ……しかた……ないさ……"わかれ"は……とつぜん……だからな」


 苦しんでいる二人の身体が私の目の前で破裂し、たんぽぽの綿毛のような形の赤い物質が二人の叫び声とともに大量に吹き出し、ゆらゆらと空中に浮いて、私の身体に付着したものは急速に皮膚の中へ取り込まれていった。これはERGエルグ……?


「……は?」


 あまりにも、突然の事だったから、腑抜けた声が出てしまった。


 そして、祖父が迅速な速さで、こちらに来て私だけを回収し、葉書お姉ちゃんと切手兄さんがいる所に行った。


紅葉もみじッ‼︎ お前ッ……! あのERGエルグを浴びたなッ⁉︎」

「今……何が……起きたの……?」


 皆んなの表情を見渡すと、非常に暗いものなっていた。葉書お姉ちゃんは泣きそうにすらなっていた。


「すまない……紅葉。この手の感情生命体エスターがいる事を話していなかった」

「なんで、皆んなそんな表情するの?」

「お爺様、俺様が話す。あの二人は死んだ」

「嘘だ! さっきまであんなに元気で……」


 そうだ、これは何かの悪い夢だ。


「じきに死喰い樹(タナトス)の腕が迎えに来るだろう。あいつらは、遅かれ早かれあぁなってた」


 そして、切手兄さんは溜息を一度吐いた後、目にかかった前髪を上に流した。


「あくまでも予想だが、あの病は感情生命体エスター由来の空気感染型で人に寄生するようなERGエルグを飛ばし、浸透した身体の内臓とかに悪性腫瘍を爆発的に増殖させる。さっきの破裂は、その感情生命体エスター特異能力エゴの射程距離に入ってしまったから、起こったのだろう」


 彼はもう一度息を吐いたあと、息を吸い込んだ。


「この病は世間一般でいう、末期ガンに近いものだったのだろう。厄介な事に、空気感染するらしいがな」

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