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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act six 第6幕 Reincarnation──『輪廻』
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輪廻編 2話 慈極道2

 とにかく私、筒美つつみ紅葉もみじは当分の間この『パラド』という仮面の男と行動し、右腕の完全な治療を行う事にした。


 冗談紛いな事を言っていたが、やはり『パラド』は医者らしく、骨や神経がズタズタに破壊されたはずの右腕が私が目を覚ました頃には問題なく動いていたのだった。方法はわからない。何かそういう治療法があるのか、それとも彼の特異能力エゴによるものなのか。


 だがこの様子なら、今戦闘を行なうのも問題なさそうだ。念の為、今は安静にしている。


 私を助けた目的も既に聞いたが例の通り、教えてあげないよと言われたので諦める事にした。


 さて、私がこの『パラド』という男に同行するのにはもちろんだが理由がある。大きな理由としてはこれからどうするべきであるかという事を決めかねているからという事、そして私はもう護衛軍には戻れないからであった。私が漆我しつがくれないであるということが彼らにバレてしまった。それが分かればたとえ祖父が護衛軍の創立者であっても私の居場所は無くなる。


 そんな中極めつけにとある出来事が起きた。


 私はテレビをつけて報道されているニュースを再び見る。


 そこに写っているのは私の姿と寸分違わない少女が贄の地位を復古させる事を訴えていた。


『──告白します。私、筒美つつみ紅葉もみじの本当の名は漆我しつがくれないと申します。ご存知の通り、『死喰い(タナトス)の樹』の元贄でございます。私はこれまで身分を隠して護衛軍として国防に勤めて、メディア含めこういった公共の場に出る事で活動をしてきました。私が贄を追放された理由は皆様には死亡したからと報道がされました。ですが、事実は私が贄に就任した際、あまりにも適合が出来すぎたのです。そして私の存在がヒトという種族において不死を齎す可能性があると危惧された事から贄という役職から追放されました。この事実を捻じ曲げられ私はこの10年間祖父……筒美ふうとう封藤ふうとうの監視下の下で生きてきたのです。ですが、先の『蒲公英病』の会見の際、諸悪の根源である筒美封藤はこの護衛軍から追放ができました……』


 私の声、私の顔で会見が続いていく。彼女の言いたい事はつまりこうだ。


『祖父に代わる新たな国民の精神的な柱になる為に奔走してきた。それは私が贄に戻る為。そして贄に戻れば人間は不死の存在となり、離別という苦しみを味合わなくて良くなる』


 という事だ。各メディアではその意見に関して賛否両論であった。


 もちろんその彼女は私ではない。私の名と姿を偽る誰かだ。大方予想はつく。樹教の教祖の仕業だろう。このタイミングでそんな事をするのは彼女くらいしかいない。


「やられたわね」


 この事により、完全に護衛軍と敵対関係となった事を世の中に公然としてされてしまった。あの時から惰性で行ってきた広報活動がまさかこのような裏目に出るとは。そういえばあの活動裏で根回ししてたのは踏陰ふみかげ蘇芳すおうであった事を思い出すと溜息が漏れた。完全に私を精神的に痛ぶる為の工作だ。


「それで、アンタは私にどうして欲しくて助けてくれたの?」


 私はソファーに深く腰掛け前屈みで膝に肘をつき手を組んでいる彼に尋ねたのだった。


「今日、色絵しきえ家に潜入する。お前が気絶している間に護衛軍には宣戦布告してある。それについてくるかついてこないかはお前が決めろ」


 その言葉の裏にはこんな意図があるのだろう。


『最悪、瑠璃るりくんと殺し合いになる』という事だ。


「何も分からない。決められない。そんな事」


 彼の命令にはそう答えた。無論、この場合正解なんてものは分からなかった。だけど、あの時の瑠璃くんの顔を思い出すだけで吐きそうになった。


「お前は未来を知りたくないのか」

「嫌に決まってるじゃないそんなもの」

「……」

「血に染まっているもの」


 私がそう皮肉混じりに答えると、彼は黙って私を見つめていた。その様子に腹が立ちそうになったが、コイツに当たったところで何も得しないのは目に見えて分かっていた。


「……」

「何か言ったらどう?」

「何も言うことは無い。好きにすれば良いじゃないか。前にも言った筈だ。お前はそのままで良いと」


 彼のその言葉はまるで私の事を知っているみたいな口ぶりで、無責任で、許すことができなかった。私がこんな目に遭う事だけはどうしても意味が分からなかった。


「良いわけないでしょうが! そのままでよかったら私は何でこんな目に……。どうせ全部私が悪いんでしょ⁉︎ 私が生まれてきた事自体が悪かったんでしょう?」

「お前がそんな目に遭ってきたのは噛み合わせの悪さの問題だろう。お前が自己否定するほど正面きってぶつかるような相手じゃ無い」

「それでも……私に価値なんて無い! 存在するだけで周りに不幸を呼んで苦しみを与える。私は疫病神みたいなものなのよ……」


 私の叫ぶ声に彼は意志すら込めず淡々と答える。それが私には理解できなくて、意味が分からなくて、気色悪く見えた。人間はそう簡単に割り切れるものじゃない。


「ならその言葉を俺ではなく色絵瑠璃にぶつけてやれ」

「……! それが出来れば今私はここに居ない!」

「何故だ? 彼の事を信用出来ないのか?」


 彼の言葉が私の心を乱す理由が分かった。彼が祖父に似ていたからだ。


「私は貴方みたいに強くないの! 人を信頼することも信用することも辛いの! 生まれた時から失敗だらけ。それでどれだけ大切な人達を傷つけてきたか! どれだけ人に迷惑をかけたか……!」

「迷惑かどうかはお前のその心臓に聞いてみろ」

「……!」

「少なくとも筒美つつみ葉書はがきは己の一生を全て捧げる覚悟でそこにいた筈だ」

「何で……お前が葉書お姉ちゃんのことを……」


 私は胸に手を当ててお姉ちゃんならどう声をかけてくれたかを思い出す。


「筒美葉書ならお前が今笑っていられない現状を悔いているんじゃないか。それを業と言い背負うのは彼女の行為に対して侮辱することじゃないのか? それとも、全て人のせいにするのか?」

「違う……そんなつもりじゃ……!」

「お前は姉の夢を継ぎたいんじゃなかったのか?」

「……」

「だからそのままで良いと言っただろう。『蒲公英ダンデライオン』を駆除したところでその禊は終わってない。次は『自死欲タナトス』だろう。お前が相手をしているのはこの世界のルールを書き換えた張本人だ。甘えて勝てるような相手じゃない。それこそ、護衛軍の戦力を惜しみなく集結する必要がある。それが本気ならその思いの丈を瑠璃に伝えろ。アイツならきっとそれに応えてくれる」


 固かった声質が一瞬だけ柔らかくなったように聞こえた。それがまるで兄のように優しくて、温かい声に聞こえた。私がこの表情の疾患がなければ涙が溢れてしまいそうなほどに。


「……お前は一体……誰なの。何でそんな事を言えるの?」

「……単純な問題ではない。それにこれからまたお前が傷つく可能性の方が高い。だからこそ協力はしよう。その為にはまず色絵しきえ紫苑しおんと接触しなければいけない」

「……分かったわ。私は何をすれば良い?」

「ついて来い。あとは死なないように立ち回れ」


 そして、私達は色絵家へと向かったのであった。


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