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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act six 第6幕 Reincarnation──『輪廻』
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輪廻編 1話 慈極道1

 水滴が寝ている私の顔を穿つ。それで私は目を覚ます。周りを見渡すと、何処かのラブホテルの一室だということとやわらかく広いベットに寝かされていることが分かった。頭の上には氷嚢。そして、ベットの近くには誰も座っていないソファ。


「……」


 身体を起こしベットの上で体育座りでしばらく物思いに耽る。右腕の感触に違和感を抱き、服の下を見てみるとそこには包帯が丁寧に撒かれていた。


「コレ……そういえば薔薇ちゃんにやられたんだ」


 それを思い出すと、私は仮面の男について行ったのを思い出した。


「起きたか、筒美つつみ紅葉もみじ


 不意に目の前のソファに仮面の男が声と共に現れる。


「うわッ!」


 気配もなく急に目の前に来られたため私も高い声を出す。


「驚かせたか?」

「いや、別に……」


 私はその特徴が明記しづらい声に対して、怪しむように声を低くして答えた。そして、何も返答がないままじっと見つめられて、気になってた事を聴く。


「何故ここを?」

「まともな宿屋借りれなくて。……ネットカフェでも良かったが、怪我人なら安静にできるこちらの方が良いと思って」

「そう思うなら、まず病院連れてけよ」


 訳のわからない配慮の馬鹿馬鹿しさに呆れて私は素っ気ない声で返答した。


「それは出来ない。何故なら俺は指名手配中だ」


 真剣な声で素っ頓狂な事を言う彼に思わずツッコミを入れる。


「分かってるわよ! 真面目か!」

「怒りたくなる気持ちも分かる。だが、その怪我の件は安心して欲しい」


 私が思っていた仮面の男のキャラ像がドンドン崩壊していくのは気のせいだろうか。だが、今はそんな事はどうでも良い。他者の肉体再生という事はコイツもしかして、瑠璃るりくんと同じ能力も使えるのだろうか。


「俺は免許は剥奪されたが元は医者だ」

「……?」


 仮面の奥から何か自慢げにキラーンという謎の効果音が幻聴で聴こえる。予想の斜め上の返答に頭が真っ白になり思わずツッコミを入れた。


「無免許医の何処に安心できる要素が……? ブラックジャックでもそんな馬鹿みたいなこと言わないわよ」


 彼はそれを聞くと、斜め下に向きガーンと言う音が聞こえてきそうな程落ち込んでいた。


「いや落ち込むなよ⁉︎ 何なんだよ⁉︎」

「いや……だって馬鹿みたいって。俺だって受験と資格勉強頑張ったんだもん 」

「傷つくところそこ⁉︎」


 意味のわからない彼の言動に私は頭を抱えたのだった。


 が、


「さて、アイスブレイクは終わりだ。本題に移ろうか筒美紅葉」


 彼がそう発言しながら付けている仮面を外すと空気が一変した。そこには人の顔は無く、まるでデッサン人形のように何の目印のない物が浮かび上がっていた。


「……あなた。本当に何者よ」

「便宜上『パラド』と名乗っている。メタ兄さんでいいぞ」

「……名前の話はしてないわよ」


 彼はアイスブレイクと宣っていたが、話があまり噛み合わないのはもう素の性格なのだろう。そこは仕方ないと諦めて、私は彼の話を聞くことにした。


「さて、見ての通り俺は感情生命体エスターだ。成り立ちはかなり特殊で、その話をする気は無いが聴きたいか?」

「いや別に……興味無いし」

「分かる。分かるよ君の気持ち。でも教えてあげないよ」


 …………

 ……

 なんだこいつ。


 と怒りを抱きたくなったが、パッと見ただけで私じゃ太刀打ち出来ない程の戦闘能力がある。それも祖父ししょうと同格レベルの。本気になれば祖父ししょう止水しすいさんの居ない護衛軍なんて滅ぼせるくらいの実力はあるだろう。


「冗談はさておき、俺の目的を教える」

「はぁ……」

「俺の目的は色絵しきえ紫苑しおんを殺すこと」


 私はその人物の名に聞き覚えがあった。実際には会った事は無いが確か瑠璃るりくんの実の姉で、瑠璃くんを監禁してたとかなんとかでヒステリーをよく起こす元護衛軍の幹部というイメージが私の中にあった。


 彼女能力は詳しくは知らない。瑠璃くんからは未来予知だという事は知っているが、未来を知られると良くないことがあるのだろうか。


「それで殺す理由は?」

「…………」


 彼は沈黙し、目もないその顔からまるで視線を感じるように見つめられる。


「……?」

「…………?」


 ついには首を傾げた為、思わず私は声を荒げる。


「何か答えなさいよ!」

「はい!」


 すると大きな声でそう言いコチラをずっと見つめてきた。


「……はい?」

「返事しただろ」

「……いやあのね……。ただ返事をされても困るというか」

「それはそうか。じゃあこう答えよう。何も食べてない。それは内緒。何を聞かれてものらり……あっこれコンプライアンスに引っかかりそう」


 彼は何処かで聞いたことのあるようなフレーズを言おうとしたところ、意味の分からない事を言ってそのままやめた。


「つまりそういうことだ」


 フッと何か自慢げに言いたそうに話を締め括った。何か物凄く疲労感を覚える喋り方をする彼にうんざりしてきた。


 そして、一つ気付いたことがある。


「パラドだとかメタ兄さんとか言ってたわよね」

「そんな事言ってないぞ」

「ややこしいわね! ほんと! わざとやってんの⁉︎」

「わざとだぞ」

「……チッ」

「怒るなよ」


 なるほど。ようやく理解してきた。コイツは意思を持って話そうとすると、話が曲解されるように出来ている。それに付随してかその見た目にも、声にも意思による抑揚はあるが声質自体に特徴がない。


 しかし、あくまでもコイツは生物で意思を持っている。その特徴をこそぎ取るために何かそういった作用が働いているのならそれがこの意味のわからない個性的な話し方になっているのか。そういえばところかなめもこんな感じの喋り方してた。


 パラドはおそらくパラドックス。逆説という事だろう。略称で固有名詞として伝えたから曲解されなかった? 言ってることはかなりあべこべだからそれが正解なのだろう。メタ兄さんは何かよく分からない。


「メタ……。メタ……メタ?」


 駄目だ本当によく分からない。


「メメタァ! メタメタ! メタモルフォーゼ!」

「その台詞に意思なんて介在しないでしょ! 殴るわよアンタ!」


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