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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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堕落編 29話 仮面の男

 彼はトントンと指でタバコの灰を落として、再びそれを口に咥える。


浅葱あさぎ氷華ひょうか……分が悪いわね」

「お? だいを殺したくせに俺相手には分が悪いとは。面白いこと言うなお前」


 確かにそれは気になっていた。題義兄さんには不意打ちは有効打にはならない。もし、彼の能力を正面から打ち破れるのなら、僕達の戦闘は既に終わっている。


「おい! 色絵しきえ瑠璃るり。お前の双子の姉から伝言だ!」

すいちゃんから⁉︎」

「あぁ……こっちに来る時パシリに使った。『紫苑しおんの協力を貰う』ってよ」

「……厄介ね」


 翠ちゃん……。僕に気を遣って。


 すると、紅葉は降参するかのように手をあげて『衝動パトス』を抑えた。僕はそれが分かると一気に安堵し、特異能力エゴの出力を解く。


「浅葱氷華……。今日の所はコレで双方幕引きという事でどうかしら?」

「逃すわけないだろ!」


 浅葱さんがそう呟いた瞬間、紅葉の周囲一帯が一瞬で凍らされ、氷の中に彼女が閉じ込められる。が、すぐに氷にヒビが入ると、すぐに霧散する。


「なんだそりゃ! 狡いなオイ!」

「対策くらいは私でも出来るのよ」

「浅葱さん! 紅葉は他人の特異能力エゴも使える!」


 次の瞬間、彼はなるほどと答え笑う。


 そしておそらく今のは黄依きいの『速度累加アクセラレーション』。浅葱さんによって固体化されていた空気を熱運動の加速で再び昇華した。


「俺の真逆の能力か。面白くなって来たじゃねぇか。ここで甲乙つけようか?」

「殺気を籠めずに私を負かせるとでも? 随分舐められたものね」


 紅葉のその台詞を聴くと彼はふぅと煙草の煙を吐き、瞬間、心が冷え切ったかのようにそれに淡々と答え、紅葉の目を見た。


「期待していたんだがな」

「……?」

「程度が知れた。今ここでお前を潰す」

「……ッ!」


 瞬間彼女は身震いを起こし、後退りをする。彼が『衝動パトス』を使ったようには見えない。だが、彼からは筒美つつみ封藤ふうとうが放つ覇気や圧力に似たものを感じる。アレも『衝動パトス』の一種だと思っていた。だがそれは違う。


 コレは力量差で僕たちが勝手に恐怖しただけだ。

 肝が冷えるとはこういうことを言うのだろう。


 だが、状況を考えるに僕の知る紅葉なら浅葱さんとの闘いで不利な点は時間停止の一点のみ。『速度累加アクセラレーション』と防御術で対応出来ない訳でもない。彼女にとっては厄介な相手というだけ。


 ただそれだけの筈なのに……


「可視化しなければ力量差すら分からないのか。それでよく対人術を極めたと言えたな」

「……!」


 冷や汗を垂らしながら彼女の目は震えて怯えているように見えた。


「お前、本当に題を殺したのか?」

「待って! 紅葉には『同調アシュミレーション』がある! 油断は駄目だ!」


 何かを待っている様子の紅葉。何をする気だ。じきに下にいた白夜はくやかなめも来る。待っていても不利なだけだぞ。


「蟲使いとやり合ったが、お前の部下の方が強いぞ」


 浅葱さんの参入は予想外の事、なら紅葉は引く筈。蟲に能力付与して、ここから退散する気か?


「まぁ、既にその技は見た訳なのだが。俺の冷気でここら一帯の蟲は死んだぞ? まさか、この程度で逃げれると思っていたのか?」

「……!」

「10年前に殺しておくべきだったわね」


 そこでようやく紅葉が口を開く。


 あれ……? コレ。勝てるのでは……?


「『絶対零度アブソリュートゼロ』」


 浅葱さんが特異能力エゴを構えた瞬間、彼の攻撃の軌道が逸れた。


「……⁉︎」


 正確にいうと冷気を弾かれたのだ。まるで最初からそういう風にしか飛ばなかったかのように。


 それを行ったのは忽然と紅葉の目の前に現れた仮面をつけた男だった。そしてそのコートと仮面には特徴的なギリシャ数字がデザインされていた。


 昨晩、紅葉を攫った張本人。事件がある度に僕たちの目の前に現れ、状況をかき乱す男だ。


「お前は誰だ?」


 浅葱さんは彼に対してそう淡々と問いかける。それに呼応するように、仮面の男からも、浅葱さんから出でいるような圧力が感じられた。


「答える訳がないだろう。浅葱氷華」


 声に抑揚が感じられない。自分という存在を極限まで希釈している。誰でもあり誰でも無い声。何て芸当だ。僕の特異能力エゴでも再現は難しい。


「お前、題を殺した奴だろ。封藤ふうとう先生か? いや、違うな」

「……」

「釣れない奴だな。それ、特異兵仗アイデンだろ。しかも、みさお朝柊あさひの作った。何でそんなことする? せめてそいつを置いて行ってくれないか?」


 訳が分からない。特異兵仗アイデンなんてそんな1日2日で出来るようなモノではない。なら、仮面の男は護衛軍の幹部の誰かか?


「無理だ。その代わり、2日後、色絵紫苑の命を奪いに行く」

「何?」

「……!」


 紫苑姉さんの関係者か……。彼等の同期が他に居たなんて聞いた事がないが。


「お前が紫苑の言っていた『不吉な未来』ってやつか?」

「さぁ……知らんが、俺と決着を着けたいのならそこにしろ」


 浅葱さんは煙草を特異能力エゴで完全に灰にし、そして僕の服を引っ張った。


「仕切り直しだ。消耗した状態でまともにやりあえる相手じゃ無い。やり合うならサシだ。アレは先生でも苦戦するぞ」

「貴方がそういうなら従いますけど……!」


 僕は引っ張られるのに抵抗しながら、大声を出していう。

 その瞬間、仮面の男は紅葉と共に姿を消した。


「ふぅ〜。あんな化け物先生以外にまだ居たとはな」

「引っ張らないでください! もう帰ったでしょ⁉︎  大事な服なんだから! 弁償させますよ!」

「お前ら兄弟ほんと服好きだな! もっと気にする事気にしろよ!」

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