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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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堕落編 28話 逢瀬

 気がつくと僕は護衛軍本部地下の収容施設にいる事が分かった。僕が能力を発動してから現実世界では一瞬も経っていない。


 その瞬間にも満たない時間でこの情報を受け取った僕の脳はかなり疲弊していた。


「コレは……」


 予想していた通り、蘇芳すおう特異能力エゴ……『知能向上インテリジェンスインプルーブメント』の擬似再現。思考の加速と最善手の把握。主に脳の演算処理の役割だ。


 情報の取捨選択は主観的だから、知らない情報が有れば僕の『絶対領域パーフェクトテリトリー』で情報の精査もできる。それにより、擬似的に他の特異能力エゴの再現も可能か。


 だけどコレは前よりも燃費が悪い。それに特異能力エゴ発動に必須な精神的な余裕を削ぎ落とされる。


 蘇芳はこの状態で今まで複数の特異能力エゴを流用していたのか。


「……。そうか……そんな事気にしている場合じゃなかった」

「何か分かったのか?」


 僕は蘇芳の頭を手から離す。すると白夜はくやは落ち着いて僕に問いかける。


 そして、彼女の頭の中で見た記憶がようやくそこで僕の感情とつながった。


「やっぱり……漆我しつがくれないの正体は紅葉もみじだった」


 僕はその言葉と共に自然と涙が出て来てしまった。


「……それはどういう意味だ?」


 青磁せいじ兄さんは混乱しているのか、頭を掻きながら僕に低い声で尋ねた。


「蘇芳に裏切りを命じたのは紅葉だったの」

「意味が分からない。何でアイツがそんな事できるんだ?」


 青磁兄さんの言う事は正しい。

 でも、じゃあ蘇芳の記憶の中で見たアレは何?

 漆我紅が紅葉と瓜二つじゃなければそんな事起きる筈は無い。彼女も双子だなんて聞いた事はない。


「状況証拠でもう紅葉しか該当者は居ないんだよ」

「それは……おかしいだろ。ちょっと待て、何かおかしい」

「……僕もそう信じたい……でも……分からない……この特異能力エゴが紅葉を殺すことが最善手だって警告してくるんだよ……!」


知能向上インテリジェンスインプルーブメント』。蘇芳の本来の特異能力エゴ。意識しなければ常時発動する。その真価がコレか。


「ふふふ……ははは!」


 それに気付いた瞬間、拷問を受け項垂れていた筈の蘇芳が笑い出す。この状況で彼女が何かするとすれば。


「踏陰……?」

「……何する気だ?」

「『陰影舞踏シャドウダンス』! 私は! 血で血を洗うんだ!」


 蘇芳が苦しんでいる。装置の拷問が始まった。確定だ。『陰影舞踏シャドウダンス』の転移能力で誰かをここに送り込んだ。


「……ここじゃあ結界の密度が濃すぎる。上か」


 僕はその瞬間、天井に向かい『絶対領域パーフェクトテリトリー』を範囲を広げた。


 案の定そこに居たのは紅葉だった。その瞬間僕の涙は止まり、覚悟を決めた。


「瑠璃! 早まるな!」


 青磁兄さんは僕の様子を見るとすぐ怒鳴り僕を止める。


「兄さん。僕達に足りなかったのは覚悟だよ」


 だけど、僕はそれに対して声を低くして答えた。


「瑠璃……お前、何を言って……」

「上に紅葉が居る。大丈夫。踏み切るのは話を聞いてからだから」


 僕は彼らの静止を振り払い階段の方へ駆ける。


「お前が行くのが不味いんだって……」


 青磁兄さんのその言葉が聞こえたが、それも分かっていた。コレが罠で僕がもしアイツらに攫われたらもう取り返しがつかないって。でもコレは誰の為でもないんだ。ただ僕がそうしたかった、それだけなんだ。


 色々迷惑をかけてごめん。許して欲しいなんて思わない。絶対に後悔をすると思う。でも、ここで自分自身と戦わなくちゃ。僕は生物学上は女の子だけど、男でもあるから。


 ここから引けない、それだけの思いなんだと思う。馬鹿だよね。


 そして、外に出る。秋も中頃、日は沈み、夜で満月も出ていた。季節だけが変わり、まるで紅葉と初めて出会った頃みたいだ。


 そこに、同じように月を見上げる赤い目の少女が一人。ボブカットで、感情の無いまるで人形のような顔をした少女だ。


「やぁ。今日も月が綺麗だね」


 そう、声をかけると彼女はあの時と違う返答をする。


「手の届かない所にあるからね」


 その返答を聴き僕は覚悟を決めた。


「もうあの頃とは違うみたいだね」


 そういうと彼女は深く俯き少し考えると悲しげに言った。


「…………もうあの頃の君はどこにも居ないのね」


 その言葉に物凄い違和感を感じたが、今の僕にはその違和感に思考を当てる余力はなかった。そして彼女は『自死欲タナトス』の『衝動パトス』を滾らせる。


「良いわ。君は私が憎いのでしょう? 相手をしてあげる」

「うん、そうだね。僕も全力で君を殺しに行くよ。それが望みなんだろう?」

「……願わくば私に協力して欲しかったのだけどね」


 初めて逢って闘った時とは違う。彼女は他人の特異能力エゴを3つも持ってる。それに、感情生命体エスターを操る特異能力エゴそれが、彼女自身の本当の能力。


「──『絶対領域パーフェクトテリトリー』」

「『速度累加アクセラレーション』」


 後悔しかない。最愛の人が最も憎かった人間だなんて。

 止められるモノなら止めたかった。


 だけどもうこの闘いは止められない。


 2人の殺気がぶつかり合う。


 瞬間、気怠げな男の声が響く。


「全く俺も忙しいんだっつーの」


 病院の屋上から響いた声とそこから溢れ出す熱気と冷気。彼は僕達2人よりも圧倒的な圧を纏いこちらへ飛ばす。


泉沢いずみさわによぉ⁉︎ 緊急事態の一言ででっけぇ音飛ばされたからよぉ⁉︎ 呼ばれて来てみたらただの餓鬼共の痴話喧嘩かよ!」

「……!」

「チッ……あの時か」


 そして、気がつくと二人の間に割って入っており、彼は手に煙草を持ち、ふぅと息を吐いていた。


「……貴方は!」

「ッ⁉︎」


 現護衛軍最強の旅団長。題兄さんと並ぶ、時空を操る特異能力者エゴイスト


 ──浅葱あさぎ氷華ひょうか


「だが、餓鬼のお守りをするのは大人の仕事だ。状況は把握した。文句があるなら二人同時でも良いぜ。かかって来い。泣かせてやるぜ?」


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