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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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堕落編 25話 尋問2

「ハァ⁉︎」


 そんな瑠璃るりくんの態度に青磁せいじくんはあまりにもの驚きに表情が歪んでいた。


「人を傷つける為にこの特異能力エゴは使えないんだよ」

「お前マジで言ってんの?」


 意外な返答に青磁くんは呆れて、それ以外の言葉を出すことが出来なかった。


「瑠璃くん。それは……契約違反だよ。君が能力を使い取り調べを行う、それがここへ立ち入る条件だ。それが出来ないならここらか出ていって貰う必要があるよ」

「どうやら齟齬が起きていたみたいだ。……この状況を見て初めて分かった。君達は人を苦しめてでも保守的な立場であることを選ぶんだね。それじゃあ僕の特異能力エゴは発動しない」


 そういうと溜息を吐きながらここを立ち去ろうとする瑠璃くん。


「……チッ! そういうことかよ! おい待て! 瑠璃!」


 彼の言葉の真意に真っ先に気付いたであろう青磁くんは瑠璃くんを引き止めようとする。が、そこへ白夜はくやくんが瑠璃くんを止めるように立ちはだかった。


「瑠璃くん。君の気持ちはよくわかる。だが、これは感情の問題じゃないんだ。事実、あの場に居た奴らは全員行方不明だ」

「『感情の問題じゃない』……か。僕たちの特異能力エゴは人間の感情の揺らぎから起こされる超常現象だ。それ以外ほとんど何も分かってない。僕はその条件下じゃ能力が発動しないって言っただけだよ。強迫観念ってやつだよ。僕の心が弱いだけの話。僕に人を救えるだけの力なんて無いんだよ」


 彼はそうポツリと呟くと、白夜くんは彼の肩を強めに掴んだ。


「……何?」


 今にもはち切れんばかりの怒りの感情を抑え白夜くんは淡々と喋る。瑠璃くんはそれが分かっているのか、掴まれた瞬間は怪訝そうな表情をしたが、状況を察して暗い顔へと戻っていった。


「責任を負わせたなら謝る。君は言ってしまえばまだ一年目の新入りだ。本当ならまだ学校で勉強している年齢だろう」

「それを言うなら白夜もでしょ」

「…………はぁ。そうだよなぁ。難しいよな。力がある分、責任は果たさなくちゃいけない。俺は馬鹿だから感情に振り回されて、辛い思いばかりだよ。こんな事になるくらいなら復讐なんてしなければ良かったと思ってる。叶わない願いなら自分の想いなんて伝えなければ良かったと思ってる。世の中こんな事だらけで本当に嫌になる。努力しようが努力しまいがどっちみち後悔しかしない。なのに笑いながら努力し続けられる奴は本当にすごい奴なんだろうなって俺は思うよ」


 僕には白夜くんが怒りを撒き散らさない為に自分で自分に機嫌をとるように言い訳をしているようにしか見えなかった。


「悪かった。引き止めて。これは感情の問題だった」


 そして、彼は瑠璃くんから目を逸らしてそう言った。瑠璃くんは瑠璃くんで下唇を噛みやりきれない気持ちが表情に出ていた。


「…………」

「重いな。そういうもんだって言い切られるのもムカつくくらい重いな」


 瑠璃くんはその青磁くんの言葉を聞くと下唇だけでなく、拳をギュッと握りしめて悔しそうに呟く。


「多くの決断をしてきた人達の言葉って本当に響くね。正直本当に嫌で嫌で仕方ない」

「そうか……それは良かったな」

「もし、生きる意味を……存在意義アイデンティティを自ら壊すことになっても……か」


 皮肉混じりに青磁くんはいうと、瑠璃くんは少し考えながらそうつぶやきパシンと自分の顔を叩いた。そして目の色を変えて、初めて敬語を使った。


「甘えた事言ってすいませんでした。一度だけチャンスを下さい。僕が僕に失望してもやり遂げるその覚悟があるか。それを確かめたいんです」


 彼のその言葉に白夜くんは目線を逸らした。罪悪感だろうか。それとも……。


「こんな時、なんて言えば良いのか……。そうか、これが敬意って奴か。やっぱり凄いよ。自分が恥ずかしくなってしまいそうになるくらいだ」


 ……そうか、白夜くん。君は羨ましいんだな。君も心を折られた立場なんだろうね。きっと、『前に進む事が出来るのは痛みを知らない無知な人間だけ』……そう信じたいんだろう?


 大丈夫、君はまだ若い。人にはきっと役割がある。君はまだその役割見つけられていない、それだけなんだ。


 まずは人生を楽しみながら、その役割を見つければ良い。世の中には、自分で探さなければそんなものは無いと言う人や、そんな役割自体に意味なんて無いと言う人もいるだろう。


 でも大丈夫。きっと君にはかけがえのないものが出来るはずさ。僕も人に嫌われてようやくその意味を触りだけでも分かってきた。


 折角の人生なんだ。君にしか見えない景色を見せてくれよ。


「君には君にしか出来ない事、僕達には僕達にしかできないことをやる。そうだろ、白夜くん?」

「ああ。そうだな。俺にはまだやるべき事がある。水仙と霧咲を止めなきゃな」


 そして、瑠璃くんは蘇芳ちゃんの方へ近づいた。語りかける表情は穏やかでほころんだものとなっていたが、声は淡々と脅すように僕ですら身の毛のよだつものであった。


「最初に言っておくよ。僕の力は"絶対"だ。君が今受けている拷問よりもより君に向けた特注品のような嫌がらせをする。……君の感情、思考、行動を過去に遡り全てを分析する。君が特異能力者エゴイストとなった過去すら再現する事になるだろう。君の人格を歪め、樹教に手を貸し、護衛軍に潜入していたその理由を見るためだ。その果てに僕らは深層心理で繋がる事になるだろう。覚悟は良い?」

「……!」


 蘇芳ちゃんは何かを言おうとしたが、柵越しで瑠璃くんは彼女の頭を両手で持つ。そして、可視できる程の『絶対領域』を彼は発動させたのだ。


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