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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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堕落編 24話 尋問1

 暗い地下に明るい部屋が一室。ここは護衛軍本部の地下にある収容場。主に活動的で無い元人間の感情生命体エスターや異常行動が見られる特異能力者エゴイストがここには収監されている。


 僕──ところかなめもその昔、ここへ収監されたことがある。それは僕の体質……感情生命体化アージュの兆候があったことが原因だ。


 この収監場を体験した事のある人間の視点で語らせて貰えば、一度収監されればここは脱出不可能だという事が言える。


 理由は単純。ここは筒美つつみ封藤ふうとう氏の作った結界内部だからである。


「相変わらずちゃんとしてるな」


 対戦車ライフルの乱射に相当する威力である筒美流攻戦術の終ノ頁に耐えうる程剛堅であること。

 結界の密度の濃さのお陰で転移対策が取れていること(すいちゃん等の特殊な例も含め)。

 拘束具はERG(エルグ)により出来ており、牢を構成している結界よりも更に堅い。おそらくだい先輩でもあれに拘束されれば抜け出せないほど。頭部、首、手足、そして個々に五感を遮る。力動及び特異能力エゴの発動を確認すると、首にある輪のような拘束具が締まる。他にも、発動を確認すれば、頭部のヘルメットのような拘束具から発動を阻害するようにERG(エルグ)がジャミングのように発生する。目や耳、鼻、皮膚にも耐え難い人が不快と思う情報が流れ始め言わば、拘束から逃れようとすれば即それらの発動を防ぐための拷問が始まるのである。


 例を挙げればキリは無いが、ここに捕まった彼女もこうなる事くらい分かっていただろう。


「気分はどうだい? 蘇芳すおうちゃん」

「…………」


 拘束され、全ての感覚器官を拷問され、吊るされ、項垂れている彼女の足元には吐瀉物や尿。胃酸と赤と黄色が混ざった水のようなもの。数十回は催したのだろう。臭いはそれ相応、その手のフェチズムがあれば喜ぶ下衆も居るだろうが、僕はその手の人間では無い。普段はあえて嫌われ役を請け負っているが、僕の心にもそれ相応にストレスがかかる。


 彼女はまだ幼い。


 だが彼女がした事は言わば外患誘致。テロ団体の手引きを行い、この護衛軍を転覆させようとした。普通なら死刑になってもおかしくは無いほどの罪だ。


「僕だってこんな事やりたく無いんだけどね」

「…………」

「尋問の時間だよ。きっとここに居るよりマシだから」

「……!」


 ピクリと反応する彼女。だが、次の瞬間身体中の皮膚から発汗が止まらなくなる。


「えっ……? なんで……⁉︎ 私、発動してない! してないから! いや! 嫌だ! 許してよ! 許してください! いや……いや……! いやァァァ!」


 力なく声を上げたのを皮切りに彼女は暴れる。彼女はまた催してしまったのだ。


「……残念だけど、その拘束具に間違いはないんだよ。生命維持も充分にされ、回復した後に拷問を受ける分、辛いでしょ? だから、余計な事はやめておいた方がいい」

「……ここから……助けて……カナ……メ……!」

「ダメだよ。演技をしていないのは分かってる。その分、君は余計にタチが悪いんだよ。……今ので君の本性が分かった。その拘束具をつけたまま、ここで尋問だ」

「酷いよ」

「…………。……いい嫌悪感だ。枯渇してたんだ助かるよ」


 僕は精一杯、煽ってきた彼女に向かってそれを返す。


『考え方に特異性を持たされた僕達はどうやったって難儀な生き方になる。どうして、僕等はこんな生き方しかできないのだろうか?』


 吐き出しそうになった言葉を抑え、彼らを呼ぶ。


「瑠璃くん、白夜はくやくん。それと青磁せいじくん。汚い仕事は僕のものだ。あまり、深く立ち入り過ぎるなよ。あくまでもコレは僕の責任だからな」

「……所要。いい加減俺らにも片棒を組ませろ。子供扱いされているみたいで嫌なんだよ」

「同意……というか。力があったのに調べられなかった僕に一番責任がある。貴方が自らを罪人というのであれば僕も罪人になる。取り返すならここからだよ」


 二人は僕を庇うような事を言う。そんな二人を見てハァと溜息を吐く青磁くん。


「所要の言う通りだ……状況、分かってるんだろうな瑠璃」

「青磁にぃは黙ってて。何か一つでも紅葉もみじについて教えてくれていたらこんな事にはならなかったんだよ」

「お前に教えて何か状況が好転したのかよ」


 煙草に火をつけ、青磁くんは彼に向かってそう言う。


「……っ! なんでそんな酷い事言うんだよ!」

「ハァ⁉︎ 一々言葉尻を取るような事を言うのが悪いんだろが! 全部状況は説明しただろうが、良い加減に腹括れよお前!」

「まぁまぁ……二人とも。喧嘩はよしなよ。それにホラ、ここ禁煙だからさ?」


 青磁くんはチッと舌打ちをすると煙草の火を消さず、牢の中へと吸い殻を放り投げ、蘇芳ちゃんに当てる。彼女の身体に火傷痕が吐く。


「……!」

「ちょっと!」

「こんな奴殺した方がマシだろ」

「青磁にぃ!」

「…………」


 空気は最悪だ。どうすれば状況は好転するのだろうか。


「よくもやってくれやがって。踏影ふみかげ蘇芳。お陰で俺様とクソジジイの計画は台無しだよ。紅葉を返しやがれ。テメェらのアジトは何処だよ。もう手段は選ばねぇぞ? アジトにクソジジイをけしかけてやるからな?」

「落ち着けよ、色絵青磁」

「誰も殺したく無いって言うならコレが最適手なんだよ! 第一なァ! 一刻を争う時にこんな奴いかしてる方がおかしいって言ってんだろ! 不殺主義っていうのも大概だな! 綺麗事言ってる段階はもう過ぎたんだよ! ボケが! 相手の目的がコイツと瑠璃なんだよ! 取られたら終わりなんだよ! マジでテメェら、頭の知力もたりてねぇのな!」


 青磁くんの言わんとする事もわかる。が、最適手が心情的に良い事だとは僕は思わない。


「兎に角なんとかするしか無いのは確かだよ。君にもし戦闘力があれば取れる方法も変わってきたんだろうけど……」

「あ……? あの時敵の『衝動パトス』で無力化された誰かさんのせいでこうなったんだよなぁ⁉︎ どこの誰だったかなぁ⁉︎」

「……君さぁ。まあ良い。水掛論になっても仕方ないだろ。子供じゃあるまいんだし。まずは彼女に聞かなければ」


 言ってから気付いたが、そうか彼もまだ学生か。難儀なものだ。


「うるせぇ! 俺様は責任を負うとか言って余計な事しかしない大人が一番嫌いなんだよ! さっさと行動に移せ! Do it! つうかやっちまえ! 瑠璃ィ!」

「青磁にぃ。黙って。この特異能力エゴは尋問には使わない」


 瑠璃くんは毅然とした態度でそう言った。

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