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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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堕落編 8話 幸せは歩いてこない2

「ドストエフスキーの『悪霊』……の一節だね。……付け加えると彼は別の本の中で『真実を語るものは機知のないものだ』とも言ってるよ」


 こちらは『白痴』。彼の作品は他にも『罪と罰』などが有名だ。


「……そうなのか、瑠璃? 良くは知らんが、確かに正論ばかりよりかは気の利いたユーモアを喋ってる方が生きる上で必要だな」

「ユーモアね……。そんなの、考えてる余裕なんて、今のあの子にはないんじゃないかな」


 僕はこの言葉を喋ってから気付いた。ユーモアがないのは僕の方だ。僕はいつも"真正面から斜に構えて"紅葉を見ていた。


 余裕がないのは僕も同じだ。


「余裕ねぇ……いつも思うがお前らまだ子供なんだぜ? もっと馬鹿みたいに何も考えず生きろよ。なんで人の命なんて責任取りよーもねえもん取ろうとして精神すり減らしてるんだ?」

「それ、青磁にーさんが言うの?」


 青磁にぃがDRAG(ドラッグ)を開発した結果、自らの手で僕達の両親を"ヒトデナシ"にし数年間行方不明になっていた。それこそ、最初は逃げたのだと思ったけど、彼がどれだけ自分を犠牲にしてその罪を償おうとしているか……何故行方不明になっていたのかをもう知っている。だから翠ちゃんは心配してそう突っ込んだのだ。


「……知ってるか? 大人はみーんな嘘つきで狡いんだ。何故なら自分の心を守るために必死だから。だから、俺様を含め、あいつらの言うことを真に受けるな」


 だが、彼はそれを誤魔化すように茶化して言う。


「ハァ……呆れた。青磁兄さんもまだ学生でしょ。……まぁそれで、その『なんで?』って質問の答えは紅葉ねーさんも瑠璃くんも『考えざるを得ないから』そうなってるだけだし、大人がそうなるように責任を子供に押し付けてるだけだよ。所謂、『大いなる力には大いなる責任が伴う』ってやつ」


 有名な定型句を言いながら、翠ちゃんは溜息を吐く。彼女は悪ぶって自身の後悔の苦しみを曝け出そうとしない青磁にぃを心配しているんだろう。


「責任を取れもしねーで文句ばっかり言ってくる大人共には中指立てて『バーカ』って言ってやるくらいするのが子供の仕事だぜ。ほら、瑠璃。俺様に向かってやってみろ!」


 変顔をしながら天に向かって中指を立てる彼。その言動に思わず今まで考えていたことが馬鹿らしくて、僕は吹いてしまった。


「ぶっ! …………はははっ! はははは! まったく、青磁にぃはさぁ……! そんな事出来ないよ!」

「んだよ笑えるじゃねえか。笑いたい時に笑いたい奴と笑っとけ。人生なんてそれで良いんだよ。お前はお前しかいないんだ。自分の好きなようにやりゃ良いよ」


 少し肩の荷が降りた気がした。別に紅葉を救うのは僕だけじゃなくて良い。それこそ、あの子を幸せにしてくれる人は沢山いる。そんなところにプライドを持たなくても良い。


「僕の好きなようにか……できるかな」

「出来るだろ。お前の願いはそういう願いだからな」


 青磁にぃがそう口を開いた瞬間、嫌な予感と悪寒が走った。僕は下の方をじっと見ながら、その悪い予感から身を守る為に特異能力エゴを出した。同時に翠ちゃんはそれに気づいて臨戦態勢をとる。


「……ッ!」

「瑠璃くん……この気配は!」

「瑠璃……お前特異能力エゴが使えるように……敵襲か?」


 圧倒的質量を誇る衝動パトス。僕の『領域』に触れただけでコレが紅葉のエネルギーを媒介にしてるという事は分かった事で事態がより深刻な状況であることが理解できた。


 何の感情かは今は置いといてコレは……青磁にぃは愚かな耐性のある翠ちゃんでも耐えられない。


「2人とも僕に捕まって。この衝動パトスは並じゃない!」

「瑠璃並って事か。お前に護られていてもヒシヒシと伝わってくる。『収集家コレクター』討伐で消耗したところを狙われたか。……相手は樹教か。このタイミング……やはり気付かれていたか」

「瑠璃くん! 瞬間移動の必要は……?」


 様々な情報が交錯していく中、2人を守りつつ、現状の整理を行う。


「瞬間移動は大丈夫、すぐこの『衝動パトス』は止む。コレだけの物を出したならいくら紅葉でも特異能力エゴを出しながら長時間連続で出す事は出来ないよ」

「この『衝動パトス』……まさか紅葉ねーさんの?」

「……いや、『自死欲タナトス』じゃない。コレは……何だ……?」


 待て、と青磁にぃは言うと眼鏡に手を当てて目を瞑り単語を呟いていく。


「……樹教……紅葉の身体を利用……『衝動パトス』……別の感情……この感情は……『嫉妬』……『蒲公英ダンデライオン』と同質のもの……まさか!」


 瞬間、僕にもある人物の顔が思い浮かんだ。

 紅葉と同じ特異能力エゴを持ち、行方不明で死亡扱いになっていたDRAG(ドラッグ)を使用した特異能力者エゴイスト


衿華えりか……まさか生きていたなんて」

「うそ……衿華ねーさんが……」

「クソ……完全にしてやられた……おい、瑠璃、今は昔の仲間が生きていた喜びに耽っている時間はない。恐らく敵だ。もしふきと闘う事になっても一対一で勝てるか……?」

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