第一幕 25話 Drug Redly Addict Gift3
私達6人の間に先ほどの嫌な空気が戻って来た。各々が其々の表情、其々の反応をしているのがわかった。
「青磁にぃ……」
「まさか……お父さんとお母さんは……」
「……」
「ふざけないでよ……」
先生は後悔をしているような、それでも淡々と無表情で話しを続ける。
「その通りだ、翠。二人は俺の作ったDRAGによって感情生命体になった。そして、紫苑姉さんと題兄さんが二人を殺した」
私と先生が始めて会った時、彼は13歳位だった。だから彼は……
「あなたは……そんな話を聞かせてッ……同情しろっていうの!?」
黄依ちゃんは手を震わせながら、手を出してしまいそうな自分を抑えていた。
「黄依ちゃん……」
そっか……そうだよね。黄依ちゃんは親戚を殺しかけた事あるもんね……だから、使った人の尊厳を壊すような物を作ってる先生がこんな表情でこんな事言ってきたら辛いよね……
「同情なんて、求めてない。ただこれはこいつらの為にやってる事だ。聞きたくないなら、聞かなければいい」
「先生気持ちは分かるけどさ、言い方……そんなんじゃさキツすぎるよ……」
先生だって、こんな不毛な喧嘩したくないはず。頼むから、これ以上変なこと言わないで……
「 ハァ……今は関係ないだろそんなん。つーかよ、お前らの為に言っといてやるよ。お前らだよ、霧咲黄依! 蕗衿華! ……お前らはいつか必ずDRAGを使う時が来る! 自分の大切な人を守る為にその特異能力を使いたいなら覚悟しておくんだな……」
言い終える直前に先生の言葉が途切れた。
軽い音が二回聞こえたからだった。
一瞬何が起きたのか理解出来なかったが直ぐに理解した。
誰か先生の頬をビンタしたのだ。
叩いたのは勿論私ではなく、黄依ちゃんでも衿華ちゃんでもなかった。
「二人に謝りなよ、青磁にぃ。それは正論だけど……残酷すぎる覚悟だよ。少し僕は怒ってるよ」
「青磁にーさん……正しくってもさ、言っちゃいけない事ってあるじゃん? 私はさ、瑠璃くんに関係しないなら、もう何があっても動じないってさ折り合いはつけたよ。だから今回の事はあんまり驚いていないよ。でも、ねーさん達は違うじゃん。まだ引き返せる所にいるんだからさ、あんまり突き付けてあげないでよ」
先生はいつものように口を開いたと思ったら、何かを思い出したように苦い顔をしながら口を開いた。
「これだから……。いや、悪い。癖だ。気をつける。悪かったな、二人とも」
「別に……」
「きっ黄依ちゃん! あっあの……謝らないで下さい青磁さん! 今の衿華には、多分そういう覚悟を持っておいた方がいい気がするんです!」
「そうか……あんまり、俺様の言うこと気にするなよ。昔そこの馬鹿にも同じ事言われたのを思い出した」
先生は私の方を見て、少し苦笑いする。
「さて、話戻すぞ。流石に脱線しすぎて進まねえからよ、今お前らが知りたい事まとめるぞ。瑠璃と翠は俺様がなんで失踪してたのか、そしてこれは後の二人もだが、お前らは紅葉の過去を知りたいそうだろ?」
「そういえば、そんな話だったね」
私だけその答えを知ってるから、ぼーっと聞いている。
「最初は俺様が失踪した理由だ。俺様が作ったDRAGが原因で両親は感情生命体になった、それで俺様は怖くなってあの事件の現場から逃げた。そしたら、死喰いの樹の麓の樹海で紅葉の爺さん、筒美封藤に出会った。そん時、あの人の下でなら、この特異能力を鍛え、DRAGの逆の事ができるんじゃないかって思ったんだよ。結果、そんな事は出来なかったが、俺様は紅葉に出会えた。そのおかげで七年もかかっちまったが、結果的に瑠璃の特異能力を抑える薬を作れたんだよ。それくらいしなきゃさ、お前らに合わせる顔がなくてな」
顔を背けながら彼は言う。
「つまり、青磁にぃは……」
「瑠璃くんの為に」
「それ以上言うなよ……!そんな言葉をかけて欲しくないから、父さん達のこと話したんだぜ」
「そうだよね……」
そして、今度はこちらに顔を向ける。
「この馬鹿の話をする前に、一応勘違いされてないか一つ付け加えて説明だ。DRAGの正式名称を教えといてやる」
「正式名称? DRAGって薬を英語でドラッグって言うんじゃないの?」
「ちげえよ、馬鹿。発音は大体あってるけどスペルがAじゃなくてUだ」
「いや、無くなった言語の事なんて知らんし……」
私は不貞腐れたように言い返す。
「まぁそのDRAGって単語自体の意味には"引っ張る"って意味があるんだが、特異能力者の人生の足引っ張ってるんだからとか、そういう意図もあるが」
「冗談になってないよ……」
「正式名所は、Drug Redly Addict Gift。こいつらの頭文字をつけると、DRAGになる」
「どういう意味よそれ?」
「文法やら発音やらそんなもん知ったこっちゃないが俺様が伝えたい事を日本語で言うと『薬は難なく人を依存させてくる、お前らの反応が見たいからくれてやるよ』って事だ」
その場にいた先生以外全員が溜息を吐いた。黄依ちゃんなんて、呆れすぎて頭を抱えてる。
「聞かなきゃよかった……」
「少しは倫理観ある人だと思ったのに……最低……」
「青磁にぃ……自重してよ……」
「ごめんなさいねーさん達、こういう人なんです!」
「ははは! 諦めろ、俺様ってこういう性格だからな! いやぁ、天才は理解されなくて辛い! まぁ、くれてやるけどあんま使わなくていいからなそれ!」
「どーでもいい事教えないで、先生」
「どうせお前ら暇だからいいだろう? それに変な勘違いされたままその名前使われるのもなんか癪だしな」
もう一度全員が溜息を吐いた。
「おいおい、俺様なりに冗談言ったんだぜ? いつまでも真剣に話しするの疲れるんだよなぁ。それにこれから少しエグい話になるからな! なぁ、紅葉」
「……なら私が話すよ。先生は信用できない」
先生の口が先程とは違い、にたりと笑う。
はぁ……最初から私に話させる気だったんだろう。意地が悪いにも程がある。
「最初からそうしとけって」
「本当さ……うるさいからちょっと黙って先生」
「へいへい」
私が椅子から立ち上がり前に進むと、先生は柱に寄りかかり私に場所を譲った。
「私の……私と葉書お姉ちゃんの話、始めるね?」
私は当時を思い出すように眼を閉じ口を開いた。