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どうか、この世界を私たちに守らせてください。  作者: 華蘭蕉
Act five 第五幕 lunatic syndrome──『感情の希釈』
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殺人鬼編 35話 賊害に於ける呵責3

 ところかなめがそう言った瞬間、竜胆りんどう柘榴ざくろの気配が一瞬で遠ざかった。


白夜はくやくん、気付いたかい? 奴は今瞬間移動を……」


 あの幼女──もとい踏陰ふみかげ蘇芳すおうの報告通り彼女には"何かしらの条件"で色絵しきえすいのように瞬間移動をする能力がある。距離に制限があるのか解らないが、この状況下でより長く距離を取らない理由は無い。ならば、今回使った瞬間移動した短距離、それが奴の距離制限。であれば僕は奴を追い詰めることができる。


 否、もし条件次第で瞬間移動する距離を伸ばせるであったとしても、既にマーキングはしてある。削れるのは彼女の体力だけだ。他の護衛軍メンバーに囲まれているし、何人かは超感覚レベルの索敵能力持ち、これで籔なら護衛軍幹部の名が泣く。色絵翠や霧咲きりさきのような機動力もいる、流石に袋の鼠だろう。


「問題ない。母さんの特異能力エゴに距離制限は無いからな」

「なるほど」

「所要、お前は間合いに入った瞬間、彼女の気を引いてくれると助かる」

「……。勿論さ、ただ無理はしないようにね。キミにはこの後、やりたい事があるんだろう?」


 一瞬何のことか分からなかったが、"彼女"の顔が浮かんだ瞬間、僕は肝を冷やした。


「…………。おい、所要。まさか最初から気づいていたなんて言うなよ」

「まぁ……そうだね。僕だって経験者だから。あれだけ見てたら流石にわかるよ。でも、僕は止めたりはしない。恥ずかしがることでも無いさ。ただ僕は君みたいに自分を棚に上げるような事はしないだけさ。だから、誰か言ったりはしない。勿論、白夜くんにだってそういう権利は有るからね」

「チッ……このタイミングでそれを言うかよ。だから嫌われるんだよ所要」

「それはわざとだからね。相変わらず良い嫌悪感だ。キミ達みたいなのがこれからどうなるのか、とても気になるよ」


 僕達がそんな会話している間に母さんは離れた距離に比例するように何度も加速と減速を繰り返す。それを続けていると彼女との距離がどんどん縮まって行くのが感覚でわかった。彼女の方もこのまま瞬間移動を使い続けると不利になる現状に気付いたのか、瞬間移動をやめこちらを振り返り迎え打つ姿勢になっていた。


 問題は何の能力で来るかだ。夜明け後だから『陰影舞踏シャドウダンス』は弱体化されている。他の候補は蟲か、『力動』を使ってくるか、もしくは未知の特異能力エゴか……。


「対象まで残り50メートル。母さんを父さんに切り替えて、先輩の能力はここぞという時に使う。所要にはその隙をカバーして欲しい」

「来るのが蟲でも肉弾戦でも構わないさ。君に指一本でも触れさせない」


 そう言うと所要の身体から濃縮されたような『嫌悪感』の"衝動パトス"が滲み出てきた。


「僕は先に行く、白夜くんはゆっくりおいで」


 彼は母さんの能力の範囲内に筒美流により足場を作り、四足獣のように身体を丸め思い切り足場を蹴った。空気が軋み、爆音を放ちながらそれでも被害を最小限にするように防御術で辺りを保護していた。


 彼は目で追えない程の速さで竜胆へと真っ直ぐ突っ込んでいく。推定速度は亜光速。その一瞬でぶつかり合った拳の数は100を優に超えていた。


「『死体操作マリオネットコープス』──母さん……ゆっくりお休み。父さん……お願い、起きて。みんなを殺した悪い奴を一緒に殺さなきゃ……」


 キャリーバックの中から冷気と共に出てきたのは、筋骨隆々とした身体に反して僕に似た暗そうな面持ちの男だった。男は袴を身に纏い、周囲に桜の花弁状のERG(エルグ)を放出する。


 そして、次の瞬間戦闘態勢となっている竜胆柘榴を所要と挟み込むような位置に潜り込み、彼女の動きを崩す為に足下を崩す為にカーフキックを繰り出したのだった。


 防御術を破壊し脹脛への直撃、通常なら痛みで悶絶するか体勢を崩し身体が地面に叩きつけられる筈だが……


「ッ……⁉︎」

「防衛術の切り替えが速い、更に急ノ頁か……」


 竜胆柘榴はそれでも体勢を崩すことなかった。更に背後にいた筈の所要からの打撃も脚に貼っていた結界が壊れた瞬間、背後に貼り直しそれを無傷で受けていた。


「痛いじゃないですかぁ〜貴方の妹さんの脚なのに、破壊しようとするなんてぇ〜流石にこれは読めませんでしたぁ〜効きますねぇ〜」

「……嘘をつけ」


 おそらく、『知能向上インテリジェンスインプルーブメント』による判断力と反射神経の向上に相手の先読み。元々才能のあった近距戦での戦闘力を徹底的に底上げしている。父さんと母さんが生前、二人がかりでも止められなかった戦闘センスに加えてこの能力、非常に厄介だ。


 更に相手にとって防御術を貫通した予想外の筈の負傷、それがダメージとしてあまり効果がないところを見ると他者の身体を移植した部位への攻撃は効果が薄いとみえる。


「体術もやはり強い……か」


 それでも、中距離から様子を見ている僕や題先輩が攻撃に加わるのであれば手数はこちらが圧倒的に上。こちらからいつ攻撃するのか分からないように圧力をかけていればそれだけで相手は相当動きにくいであろう。そうすれば喩え相手が彼女でも隙をみて捉える事は可能だ。


 更にこちらには"時止め"がある。そこで、相手のバランスを崩す事が出来れば……。


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